一角獣のコーン・ポニージュ

仔羊佯子

一章 処女と一角獣 編

第1話 ユニコーンの仔、拾いました

寮への帰宅途中、小石灰乃亜こいしばいのあは道端にぽつりと置かれた一つの小さな段ボール箱を見つけた。その中からは何やら真っ白い獣毛がちらりと見え隠れしている。捨て犬、若しくは捨て猫だろうか。乃亜はそう思い、段ボール箱の側まで近寄った。段ボール箱には貼り紙が添えられており、一言「拾ってやって下さい」とだけ書かれていた。乃亜は段ボール箱の中身を上から見下ろす。


捨てられていたのは仔犬でも仔猫でもなくて、ユニコーンの仔だった——。


 学校からの帰り道、私は捨てられたユニコーンの仔と出会った。一見、白い仔馬に見えなくもなかったが、それの額からは確かに一本の角が生えていた。だから、間違いない。信じ難いことだけれど、それはユニコーンだ。

 ユニコーンの仔は申し訳程度に敷かれた毛布に包まっていた。衰弱しているように見える。よく見たら至る所に火傷のような痕も見つけた。それに先程から小刻みに震えているが、無理もない。今年も、もう十二月に入ろうとしていた。そろそろ雪の降る季節だ。そんな時期にずっとここに居たら、この仔の生命が危うい。そう思った私は、この仔を私の住む学生寮まで運び込むことにした。


 「寒かったよね……辛かったよね。お姉さんのとこにおいで」


 ユニコーンの仔は抵抗することもなく、私はすんなりと抱き抱えることが出来た。昔、知人の飼い犬を抱いた時と近い感触を得た。その犬は小型犬だったので、この仔もおそらく三キロ程度だと思う。私に抱かれたその仔はうとうととした表情を見せて、ゆっくりとその愛らしい瞳を閉じた。


 私立叡智女学院にはソフィア寮という学生寮があり、学院に通う私たち生徒の数十人はそこに住んでいる。寮はもちろん、男子禁制。動物もアレルギーのある生徒がいる関係上、禁止されている。でも、今は一刻を争う状況なので、そんなことも気にしていられない。

 寮長をはじめ、寮生全員にバレないように裏口からこっそりと入り込み、ユニコーンの仔を抱えながら、私は自室へと戻った。ソフィア寮は基本的に相部屋なのだが、私の同居人は少し前に寮を出て行ったので、今は一人で部屋を使っている。

 ユニコーンの仔を新品の毛布で包み直してあげた。ストーブをつけると、私は戸棚に何か暖かい飲み物でもなかったか探した。そこで見つけたのは、インスタントのコーンポタージュだった。


 「ちょっと待っててね」


 私は電気ケトルに水道水を入れ、沸騰させた。そして、即席のコーンポタージュを作った。 ユニコーンの仔が飲みやすいように底の浅い皿にそれを入れる。


 「はい、どうぞ」


 ユニコーンの仔は初め、コーンポタージュを警戒した様子で見つめ、鼻でくんくんと匂いを嗅ぐ。しかし、安全なものだと認識したのか、舌でぺろぺろと舐め始め、あっという間にそれを完食してしまった。

 少し元気を取り戻したユニコーンの仔は私の膝元に乗っかって来た。どうやら懐かれたらしい。とても嬉しい。嬉しいのだけれど、いつまでも寮に置いておくわけにもいかないし……。

 どうしようかと迷っている時、どこからか声が聞こえてきた。


 「……好き」


 年端も行かない男の子のような中性的な声が、そう呟く。


 「えっ?」


 幻聴かと私は自分の耳を疑った。しかし、声の主は分からないが「好き」と言う言葉が頭に響く。幻聴なんかじゃない。

 私はユニコーンの仔を見た。「……好き」見間違いなんかじゃない。この仔は確かに今、口を開けて言葉を発したのだ。

 少し困惑しながらも、私は「人間の言葉、喋れるの?」と訊ねた。

 「……うん。でも……ちょっと……ずらい」

 「えっ、何?」

 「喋り……づらい」

 「あぁ……そぅ」

 ユニコーンにも驚きだが、人以外の動物が人の言葉を喋ることに違和感を覚えずにはいられなかった。私は今、熱でもあるのではないか?今日ここで起きていることは全部、幻覚なのではないか?そう、思った。


 「ちょっと……待って」


 「えっ?」


 「人に……なる」


 ユニコーンの仔は、そう言った。

 その途端、ユニコーンの仔の身体が謎の光に包まれた。眩しくて私は目を伏せる。しばらくして光の気配が消え、私は恐る恐る目を開けた。


 目の前に立っていたのは、角の生えた白髪の男の子だった。

 

 「僕、お姉さんのこと……好きになった」

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