第4話 長相守

〜月白目線〜

鬼が三界に身を隠していた頃、私は魔界に身を置き長年暮らしていた。

それほど不自由はなく、現在は明月白荘(ミンユエハクソウ)の荘主として弟子を取り、過ごしていた。

しかし、私は物事に興味を持つこともなく、楽しむなどの心もない。明月白荘の荘主も気まぐれであり、弟子の面倒なども全て私の手下である千鍾(センショウ)が見ている。


ある日、私は魔界一権力を持つ黒嵐門(コクランモン)に呼ばれ、黒宗主が自分に用があると告げられた。


「黒宗主、お呼びでしょうか。」

「おぉ、これはこれは月荘主。来てくれましたか、この度は月荘主に頼みたいことがあって呼ばせてもらった。」

「はい、黒宗主。何なりとこの月白にお申し出ください。」

「そう言ってもらえると助かるよ。その頼みなんだがな、私の息子、梓睿(ズールイ)を明月白荘で10になるまで育てて欲しいのだ。」

「明月白荘で・・・でしょうか?失礼ですが宗主、このまま黒嵐門では見ないのでしょうか。」

「ふむ。実を言うとだがな、梓睿は霊力が異常に少ないそうでな。黒嵐門の門術は霊力がある程度ないとできないんだ。悪いが10になるまでは・・・月荘主、頼めるだろうか?」

「なるほど、霊力を安定させたいのですね。分かりました。お任せください、私がこの子の師となり育てましょう。」

「月荘主ならそう言ってくれると思ったよ。感謝しよう。」

「いえ、黒宗主のお頼みです。喜んでお受けいたします。」

「では、よろしく頼む。」


 ・・・面倒なお荷物をもらってしまった。黒宗主にはそう言えば既に一人ご子息がいたな。名は確か、黒轩円(コク・シュンエン)だったか。

噂では、若くして魔界上位者の霊力にも及ぶものを操り、武術も悪くないそうだ。

私に頼むと言うことは、面倒なお荷物を黒嵐門で扱いたくないのだろう。

まぁいい、どうせこの子が10になるまでだ。適当に育てておけばいい。



「小白!!小白〜?あっ!!見つけた!小白〜!!」

「こら、そんなに急いだら転んでしまうぞ。あと小白と呼ぶのはおやめなさい。一応私は君の師匠なんだ。師匠と呼びなさい。」

「え〜、小白のが可愛いよ!ねぇいいでしょ?小白の方がもっと仲良い感じするよ?」

「全く、ふふっ仕方ない、ここでだけだ。皆の前ではちゃんとしなさい。」

あははっ!やった!!やっぱり小白は優しい!」

「もう授業は終わったのか?」

「うん!早林心歩(ソウリンシンポ)でしょ?あれ簡単すぎて一回でおぼえたよ。あっ!白兎だ!!」

「あっ、こら待ちなさい。はぁ、仕方のないやつめ。」


「千鍾。」

「はっ!月白様、どうなさいましたか。」

「・・・梓睿はどうだ。」

「はい、やはりこれは隠し通せるのも時間の問題かと思われます。」

「そうか・・・・・」



 7年前に適当に育てて返すつもりだった心はいつの間にか消え去り、こうして梓睿と一緒に過ごしていると情も湧き、この子といると心が落ち着くような気がした。

 そうして7年前とはもう一つ変わったことがあり、この黒梓睿(コク・ズールイ) は、霊力が少ない訳ではなかったのだ。

うちに秘めた霊力が特殊なもので、赤子の時点では判断できなかったのだろう。

5つにもなれば秘めた力が解放され、この魔界、ましてや天界にも勝る力になった。

・・・私は鬼になる前の記憶は忘草薬(ワンソウヤク)によって無くしているが、何故だかこの子は私に似ているきがした。この子にはただ自由に、幸せに生きていてほしい。黒宗主がこの子の力を知れば、きっとこの子の未来に自由はない。

そう思い私は、この力のことは宗主には秘密でいるように言ってきた。

 しかし、黒宗主の長子である黒轩円が、青鬼青深(チンシン)と戦った際に、重傷を負い、霊力の半分を失ってしまったらしい。未だに昏睡状態で、いつ目を覚ますのかも分からない。


「月白様、黒宗主が参られました。」

「そうか、ついに・・・か、案内しろ。」

「はい。月白様の仰せのままに。」


 このまま黒轩円の目が覚めたとしても、失った霊力を取り戻すのは簡単ではない。きっと黒宗主は梓睿を次期宗主に任命するだろう。この子の力が利用されないためにも梓睿には、人の前で半分以上の力は出さないよう言いつけてある。

 他の鬼はきっとこの子の霊力を喉から手が出るほど欲しがるはずだ。三界を滅ぼし、鬼界が世を統一させるために力を利用するだろう。


「千鍾、私は当分鬼谷に行く。梓睿を守ってくれ。」

「はい。仰せのままに。」


 梓睿に手を出さないよう、こちらから手を打たなければ・・・私がついていることを知れば、下級の鬼はもちろん上級の鬼も簡単には手を出せはしない。

あとは、天界と魔界だ。




*忘草薬・・・これを飲むと、鬼になる前の記憶をなくすことができる。(鬼谷にしか生えない)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

浩梓情 牡丹のボタン @kawaiibotann

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ