機密写真B

柩屋清

1話完結

包丁を手にした男が侵入ーー

ボクは夢を見ていた。

しかし、これは単なる夢ではない。

現に起こった殺人事件の回想だ・・

ボクの仕事は夢を見る事。


数年前より犯人が逮捕・出来ない事件ーー

それが泉町一家惨殺事件だ。

凶器は包丁だけなのだが、殺害された一家の住宅が通常の一軒家よりも屋敷に近い趣で、悲鳴や、競った形跡が近隣の聞き込みより、拾集・出来なかった過去がある。

そんな背景もあり”千里眼”と呼ばれる人種の中のひとりである、ボクに白羽の矢が立った訳だ。

ある意味、責任は重大である。


*****


「犯人はひとりですが・・何故かもう一名ひとり、現場に誰か、居た模様です」


ボクは、この朝、八時に出勤して来た・大城刑事に夢の内容を伝えた。


「もう、ひとりとは男かな?」


そうですと刑事に伝え、ボクは鏡を見て、寝グセを軽く直した。


「何故、一人なんだろう・・」


「判りません」


ボクはそう告げて缶珈琲をひと口すすっていた。


「犯人は警察内部に居ます」


「間違いないか?」


大城刑事は少し身を乗り出し、問うていた。

昭和の大事件では案外と未解決の時、警察サイドの動きを知っている内部の人間が、犯行グループと関与以上の状態にあったのでは?ーーという見方が今日、尚も強く残っている。


「だと、したら、今回のこの活動は的を射ているかもしれない・・」


大城刑事は千里眼を肯定的にとらえている様だ。


*****


まず、ボクが、どの様にして回想しているのかを伝えておきたい。

書類か写真を渡してもらい、それに数分、手をかざし、納得のいくところで眠りに入る・・

一日の睡眠が六〜八時なので、回想・出来るパートも、それが限界だ。

ただし、事の順序は従来どおり回想・出来る。

今回は初の勤務ーーという事で、大城刑事からは、封書は未開封で頼む・・と云われている。

無論、開けずとも、泉町の事件と判明・出来たが、大城刑事とは、この事件であるーーという確認は今のところ一切、取ってはいない。何しろ、警察が、他力本願になっている形である訳だし、一応、機密を公開してはいない・・という段階に警察にはされていたーーとボクが後世、伝えれば世間にも聞こえがいい。


*****


「この仕事は水面化なんだ・・極秘で頼むよーー」


契約書にサインする際、大城刑事にそう促された日の事を思い出す。

それ以降、親にも”公務員の下請け業務”としか伝えていない。

ただ、変わっているのが、この仕事が”派遣枠”で紹介された事だ。

要は警察にとって未解決時間は恥であり、そんな、やたら滅多に存在されても困るからだ。


「取りえず試験的だから・・」


万一、役に立たなくても心配は要らないとの意で大城刑事は伝えてくれた。

FBIでは、もう当たり前の様に行われている、この手法は日本では認められている訳ではない。


「犯人が捕まったり、行方不明者の所在が、判明した方がいい・・」


世間では、そう叫ばれるだろうが日本では、ひとまず歴史の浅い分野なのだ。


*****


「大城刑事は逮捕されたよ」


ドアを開けるなり矢田川刑事は、そう伝えた。要は泉町一家惨殺事件の重要参考人として、事情聴取される事となったのだーーと云う。


「判りました」


ボクはそう告げて、今後、矢田川刑事がボクの担当になるのだなーーとそう考えていた。


「犯人は同サイズの同モデルのシューズを履いていました・・それから、同ウエア、同キャップを身に付けています。帽子はハット型です。キャップ型では、ありません」


ボクは昨晩、見た夢の話を矢田川刑事にしていた。


「ウエアは灰色のトレーナー!?」


刑事は詳細を書類に記してゆく。


*****


「どうして、こんな事をしたんだ?」


矢田川は軽く呟いた。


「おそらく、逃走ルートを二人、別々に・・各々に逃げ、聞き込みをされた時、混乱を、えて生みやすくしたのが、要因じゃないでしょうか?」


矢田川はまぁ、それしか無いわなーーと、閃いていたかの様な云い方をした。

大城よりキレ味が無いなーーとボクは心・密かに感じていた。


「それから、その犯人と別々に逃げた男、もう死んでますよ。おそらくガンです。十中八九・胃ガンです」


ボクは死んだ男が犯人の義理の弟である事も付け加えた。


「名前は?」


「判りません。そちらで調べて下さい」


ボクは大城刑事が捕まっている事を逆算し、データにより調べ上がる内容は、任せる事にしていた。


*****


 ”課長から、この任務は本日までーーと、指令が出た”


内線を掛け終えた矢田川がボクに伝えた。岸さんからですか・・とボクが、尋ねるとーー矢田川が何で課長の名字、知ってんだ?と軽笑しながら返答をする。

そりゃ、岸課長が真犯人ですからね・・と遂にボクは重大なる事実を発するに到っていた。


「大城刑事はわざと捕まりました。その後、岸課長の独断でボクを解約したら、それが動かぬ証拠になると・・」


矢田川は少し動揺していた。


「本当の犯人の顔写真は資料内・サンプルのAの大城刑事ではなくBの岸課長なのです」


アリバイはどうなる? ーーと矢田川は切り返した。それは一卵性の弟を使った偽装工作です・・とボクは結論付けた。

矢田川は直ちに内線を掛け直した。


*****


犯行現場より逃走したのは、やはり義理の弟・三村淳志で間違いなかった。

課長の妻は課長の目の前でレイプされ、その数年後に自殺していた。

当時、マル暴担当であった課長は、現行犯でその面々を逮捕・出来たのだが主犯格である現・被害者である主を捕まえる罪状が、取れていなかった。


”どうしても許せなかった・・”


岸は取り調べの際、そう述べて全てを話し始めたーーという。


「ゴメンよ、仕事は今日で終わりだ」


大城刑事にそう告げられ、職場を後にした。


”努力し成し得たが継続しない幸せもある。その時に屈折しない精神こそ宝だ”


いつだったか暦に記されていた哲学を、思い返していた。

携帯電話は鳴り、担当の営業より同様の仕事の依頼があった。

大阪まで来てくれーーと云う。ボクは了解ですと伝え晴れた空を独り見上げていた。


(了)

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