第2話 過去

俺は王都の西にある商業都市で生まれた。


父は中堅の商社を営んでいて、裕福な暮らしをしていた。

小太りで見栄えはアレだけど、商会を確実に大きくしている父。

その隣には背が高く、美しく優しい母。


兄弟は他にいなかったから、父母の愛を一身に受けて幸せいっぱいだった。


9歳の晩秋、あの日までは。


夜明け前にたたき起こされたんだ。

ひどく寒くて、起きるのが本当に嫌だったよ。


涙を浮かべた父母が俺を抱きしめた。

「ジーク、すまない。・・・お前はこのエルンストさんの奴隷になった。

今すぐ、エルンストさんについて、出て行ってくれ。」


陰鬱な表情の40歳くらいの男が俺を見下ろしていた。


「なんで?そんなの嫌だよ!お父さん、お母さん!」

「ごめんね、ジーク・・・」

号泣しながらお母さんは俺を強く抱きしめた。


エルンストさんに隷属の首輪をはめられ、俺は奴隷になって旅に出た。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


最初の10日間くらいはべそべそと泣いていた。


哀しさがひと段落すると、俺を売り払った両親に対して憎悪が沸き始めた。


エルンストさんはいつも陰鬱な表情だったけれど、

特に虐げられることはなかった。


1か月以上歩いて、王都の南にある宗教都市にたどり着いた。

そこで新年を迎えたので、新年の祈りを奉げるため、

エルンストさんと教会へ向かった。


10歳の新年に教会で祈りを奉げると極ごくまれに職業が与えられる。

噂では1万人にひとりで、その人は凄い能力者となるらしい。


俺が祈りを奉げると「剣士」が与えられた!

驚き、喜んだ神官さんが俺を祝福してくれると

エルンストさんの口がほんの少しゆがんでいた。


俺はエルンストさんの奴隷から抜け出し、

教会が運営する孤児院で育てられることになった。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


孤児院には俺と同い年で、同じように職業を(「神官」だが)与えられた女の子がいた。


栗色の髪をポニーテールにして、

栗色の瞳がいつもキラキラ輝いているエトワールという子だ。


エトワールは、3歳の頃からこの孤児院で育っていたので、

新入りの俺の面倒を見てくれることになった。


50人ほどいる孤児の中で、

ていうか、この街で10歳で職業を与えられたのは

俺とエトワールだけだったから、二人は他の子より大切に育てられていた。


といっても、俺が剣の修行に衛兵の屯所に通うこと、

エトワールが神官学校に通うこと、

そこへ通う時に渡された弁当が他の子より大きかったことぐらいだけど。

ちなみに、その他の子どもたちは日雇いの仕事なんかをしていた。


あとは月に1度、院長先生とのお茶会だ。

色々なお菓子と紅茶を3人でこっそりと楽しんでいた。


14歳になると、俺に剣で勝てるのはこの街には誰もいなくなっていた。


15歳の新年、神に祈りを奉げると、俺は「聖騎士」となって、

エトワールは「巫女」となった。


で、その時彼女が受けた最初の神託がこれだった。


『10年後、魔王が蘇ります。』


驚いた神官長様は、急いで王都へ連絡すると、

すぐに俺とエトワールは王都へ呼ばれた。


この年、10歳で職業を与えられ、

15歳で戦闘職を与えられたのは他に4人いた。


エドアルド 男 魔法戦士 銀色の髪、黒い瞳 落着きあるイケメン

カリン   女 忍者  金色の髪、碧い瞳 活気ある可愛い女子

グスタフ  男 剣聖  茶色の髪、赤い瞳 積極的なイケメン

フィリス  女 賢者  赤色の髪、黒い瞳 大人びた美人

エトワール 女 巫女  栗色の髪、栗色の瞳 にこやかで可愛い女子

ジーク   男 聖騎士 黒色の髪、黒い瞳


この6人でパーティを組むことになった。


6人は古い衛兵の宿舎を無料で貸してもらい、

食事や洗濯、掃除をしてもらうためにお手伝いさんも与えられた。


俺達は王都近くのダンジョンに挑戦することにした。


まあ、歴代の勇者パーティはみんなこのダンジョンに挑戦したらしいからな。

100階を制覇して強くなり、魔王をやっつけるらしい。


ちなみに、勇者パーティ以外は80階までしか行ったことがないらしい。


6人は最初から強いうえに息ピッタリで、ダンジョンを下へ下へと進んでいった。


みんなすごく仲良くて、ダンジョンでずっと一緒にいるにも関わらず、

さらに休みの日まで、6人で色んな所に遊びに行っていた。


17歳になって、6人で出かけているとき、3列目を歩いていた俺は

意を決するとエトワールの手を引いて、路地に入って行った。


驚くエトワールの手をずんずん引いて歩いた。

手を振り払われないか不安だったけど、エトワールはしっかりと

俺の手を握ってくれた。


景色の良い所で両手を優しくつかんで、エトワールを見つめた。

「エトワール。好きだ!」


最初から赤かったエトワールの顔はこれ以上ないくらい真っ赤になった。

「う、うん・・・」

エトワールは少しだけ肯いた。


喉がからからだったけど、怖いけど、訊かずにはいられなかった。

「エトワール、俺のこと、どう思っている?」


「・・・す、好き・・・」

そう言ってくれたエトワールに愛しさが溢れ、抱きしめると、

エトワールもぎゅっと抱きしめてくれた。


最高に幸せだったよ。

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