親に、勇者パーティの仲間に、巫女である恋人に、 捨てられた俺は魔王と魔物の大群をたった一人で殲滅した。 そして俺を捨てた奴らに復讐するべく、旅に出た。
南北足利
第1話 魔王との決戦
大広間に入り見渡したが、誰もいなかった。
向かいの玉座に座っている、たった一人を除いて。
そいつは、身長2メートルは越そうかという巨人で、
黒っぽい青色の肌、金色の髪、2本の角、大きな唇から
巨大な犬歯がのぞいていた。
そいつから物凄い負のオーラが立ち上っていた。
俺からも、だろうけれど。
「魔王か?」
「うん?たった一人なのか?」
俺の問いかけに魔王は心底、不思議そうな言葉を吐いたので、カチンときた。
「お前こそ、部下が一人もいないのに、王ってか!」
「お前こそ、どうした?これまではパーティだったぞ。
仲間割れでもしたのか?」
俺をあざ笑うかのような言葉にブチンと切れた!
「黙れ!!お前のせいだ!
二度と蘇ろうなんて思わないように、徹底的に嬲り殺してやる!」
「かかか!たった一人で何が出来る?」
そう言うと魔王は立ち上がった。
「俺こそ、最強で最後の勇者だ!」
俺の言葉に魔王がニヤリと笑うと、銀色に光り輝く鎧が装備された。
「そうか。ではお前を殺して、人間を皆殺しにしてやるわ。
文字通り、最後の勇者としてやるわ!」
ギラギラと輝く赤い目だけが見えている鎧姿の魔王が
グングン大きくなって、天井を突き破った!
俺は急いで大広間を抜け出し、廊下に出ると、手近の窓から外へ飛び出した。
「エンジェル・ウィング!」
背中から生えた白鳥の羽を羽ばたかせ、体重を重力から切り離すと、
大空へグングン上昇していった。
爽快感が俺を満たし、憎悪にまみれていた心が解き放たれた。
振り返ると魔王城は崩壊していて、
魔王は身長200メートルの巨人となっていた。
ゆったりと空中で静止し、俺は優しく微笑みながら、
左腰に差した聖剣を優しく叩いた。
「魔王よ、ハンデだ。この聖剣を使わずに圧倒してやる。
二度と蘇るなんて思わないように、絶望させてから殺してやるよ。」
「抜かせ!」
魔王の憎悪にまみれた赤い目がさらに輝いた。
強烈な殺意を感じた瞬間、全速で回避すると、背後の山が大爆発した!
赤い目から凄いエネルギーが放出されていた。
俺は両の拳でぶん殴ってやろうと接近を試みるが、
魔王の拳が思ったより素早く、鋭いため、接近しては慌てて躱していた。
まともに喰らえば、原形を全くとどめず、木っ端微塵になりそうだ。
喰らわなくとも、間一髪躱しただけでは、衝撃波で空中姿勢が保てそうになかった。
まあ、さっきは防御魔法10連を唱えたので衝撃波がそよ風になったけど。
「凄い威力だけど、当たらなかったら意味ないよね?」
「ちょこまかと躱しおって。さっさと死ね!」
魔王は小さく鋭く拳を振り回し、時折魔法を放ってきた。
俺は何度も接近していって、何度か魔王の拳を躱して、
そしてついに魔王の懐に飛び込み、左胸をぶん殴った。
キーン!
高い金属音を発したけれど、傷一つついていなかった!
チリチリと背中に殺意を感じたので全力で上昇して、
魔王の鎧と手のひらのサンドイッチになるのを躱したが、
目の前では魔王の口が大きく開いていた!
「防御魔法10連!」
「ガッ!」
魔王の口から衝撃波が生まれると、防御魔法が突き破られた俺は錐もみ状態と
なったが、何とか態勢を立て直した。
そこに魔王の渾身の右ストレートが飛んできた!
なんとか躱したが、さらに追撃の左ストレートが!
「メテオ・ストライク!」
大空へ躱し、今度は急降下して、魔王が踏み込もうとした右ひざに
最大パワーの体当たりをぶちかますと、
魔王はバランスを崩してすんごい地響きを立てて仰向けに倒れた。
チャンスだ!
「ギガント・ハンマー!」
魔王の右ひざを両の拳で連打する!
頭のてっぺんがチリチリとしたので、慌てて逃げ出すと、
魔王の右手が恐ろしい勢いで振り下ろされ、自分の右ひざを強打した。
「ぐおぉぉお!」
今度は魔王の右ひじを集中攻撃していく。
魔王は右足をやられて動揺しているのか、効果的な反撃がなかった。
何度かぶん殴って、今度は右腕もぶっ壊してやった。
「くそが!」
魔王の右腕、右足の傷口が光始めた。回復か!
「メテオ・ストライク!」
魔王の目と目の間に最大パワーの体当たりをぶちかました。
俺の攻撃が当たったところがべっこりと凹んだ。
魔王の赤い目が輝きを失うと、銀色の鎧は光を急速に失い、
その姿を失った。
魔王の体も急速に縮んで、元の身長に戻っていった。
気を失っている魔王の体を蹴り飛ばしたたき起こしてやる。
「うがあぁ!」
右足が回復し普通に立ち上がった魔王だが、
もう巨大化できなくて、銀色に光り輝く鎧でさえ出すことが出来なかった。
だけど、腰に差していた大剣を抜くと物凄い負のオーラが見えた。
「絶対に!殺してやる!」
まだまだ凄い闘志だった。やるな!
渾身の力で振り下ろされた大剣を右に躱したが、
その大剣から飛んだ鎌鼬で後ろの大木が何十本か切断されていた。
何度か大剣を躱してから、手刀で魔王の左手首をへし折ってやった。
「ぐはっ!」
振り下ろされようとした大剣はコースが歪んで、地面にめり込んだ。
右ローキックをぶちかまして、魔王の左足をへし折ってから、
魔王のこめかみに左フックを振り抜いた。
吹っ飛んで倒れた魔王のもう一度右ひざを踏みつぶした。
「ぐぉぉぉぉぉ!」
俺は魔王の額に右手のひらを当てて、魔法を放った。
「魔法殺し!」
「死ね!」
魔王の赤い目が一瞬だけ輝いたけれど、それだけだった。
「な、なぜだ!」
「ふふふ。魔王よ、回復魔法を試してみなよ。」
「くっ!な、なぜだ?なぜ、回復しない?」
「ふふふ!魔法を使えなくしてやったからな。
お前はただの図体のデカいオッサンだよ。ウドの大木ってヤツだ。
もう、攻撃魔法も、回復魔法も、俺を呪うことも、蘇ることも出来ないよ。」
「ば、バカな!」
「さあ、たっぷりと絶望させてやるよ。」
俺は無事だった魔王の右手を魔王の目の前に持っていった。
魔王は必死で抵抗しているみたいだけど。
そして、見せつけながら、一つ一つゆっくりと爪を剝いでいった。
「ぐぉぉぉぉぉ!」
魔王の叫び声を聞きながら、俺は微笑んでいた。
「今度は指を折っていくよ。ゆっくりと、ね?」
「ぐぉぉぉぉぉ!」
「あっ、ゴメン。ちぎっちゃったね。」
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「こ、殺してくれ・・・」
魔王は右目だけ涙を流し、震える声で哀願していた。
左目には俺の指が刺さっていたからね。
「いやいやいや、もう少し頑張りなよ。
回復魔法掛けてやるから。魔法も使えるようにするからさ。
もう一遍、全力で戦おうぜ!」
魔王の体を完全回復してやったよ。もちろん、魔法も使えるよ。
で、また腕を折って、足を折って、動けなくしてから拷問する。
これを繰り返してやった。
どちらが悪者か分からないよなとか思いながら。
雨、雪、霧、暗闇、色んな条件で何度も何度も戦ったけど、
俺は傷一つ付けられず、毎度毎度魔王を酷く拷問して終わり。
そして戦い始めてから丸1日、
ようやく戦う前から闘志を失って魔王は「もう楽に殺してくれ。」
って土下座していた。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
森の手前で騎士たちが心配そうに待っていた。
「お待たせ。終わったよ。」
「勇者様!魔王は?」
「殺した。二度と復活しないよ。」
「おお!ありがとうございます!
おい、早馬を飛ばせ!
勇者様、休憩なさいますか?
それとも、すぐに出発しますか?」
空を飛べばすぐに王都まで帰れるし、体力だって、魔力だって充分にある。
だけど、気分はずっと、ずっと沈んだままだった。
「すぐに出発してください。
だけど、小休止まで声をかけないでくれるかな?」
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
俺は馬車の窓から、自分が守った人々、その家、その畑を眺めていた。
「さあ、これからは趣味の時間だ・・・」
25歳にして残っていた人生唯一の前向きな目標を達成してしまった。
人類共通の目標である打倒魔王を達成したのに、気分が晴れることはなかった。
目をつぶると、過去が押し寄せてきた・・・
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