第6話 本当のこと、それから

なんだよ、これ!

エトワールたちの裏切りは、俺の戦意を高めるための芝居だったのか!


みんなは、エトワールは、俺を守ってくれたのか!

エリクサーとアイテムバッグは俺のためだけに用意してくれたのか!


エトワール!エドアルド!カリン!グスタフ!フィリス!


自分たちを犠牲にして、世界を、いや俺を、俺を、助けてくれたのか!


俺は泣きながら飛んだ。

翌日には王都に着いて、すぐにダンジョンに潜った。


みんなでキャンプした場所。

誰かがケガをさせられた魔物。

通るたびに笑った人面岩。


思い出に触れる度に涙をこぼしながら、どんどん下へ降りて行った。


100階のボス部屋の前にたどり着いた。

4年前と何にも変わっていなかった。


くそっ!


穴が開いていて欲しかった。


部屋がぶっ壊れていて欲しかった。


ああ、みんな!


ボス部屋に入る前のみんなの顔が目に浮かんだ。

エトワール、エドアルド、カリン、グスタフ、フィリス。


いつもより気合が入っているなあってのんきに思っていたけれど、

断固たる決意っていうヤツだったんだ。


自分たちは勝つ!


もし、自分たちが死んでも、ジークだけは守るって。


なんで、気づかなかったんだ!


なんで、俺はこんなにバカなんだ!


扉を聖剣で切り裂いた。


魔法でボス部屋の空気を全とっかえしてから、突入した。



エドアルドとフィリスが抱き合って倒れていた!



グスタフとカリンが抱き合って倒れていた!



そして・・・

「エトワール!!!」


エトワールは一人離れて、祭壇に向かって両手を組んで祈っていた。


魔力が充満していたためか、みんなは呼吸をしていないだけのような状態だった。


エトワールの栗色の髪は相変わらず艶々で、肌も瑞々しいままで、

相変わらず可愛らしかった。

ただ、血の気は全くなく、死を実感させられた。


「エトワール!君たちが苦悩していたのに、気づかずごめんなさい!

君たちのお陰で魔王を倒せたよ、ありがとう!

俺の言葉を聞いて欲しい。目を開いてくれ。そして、笑ってくれ。頼む!」


結局、使わなかったエリクサーをエトワールの口に注いだ。


「エトワール!帰ってこい!頼む!」


★★★★★★★★★★★★★


エドアルド


フィリスが、ジークを転移させ、

僕たちの最後の役割が済んで、肩がずいぶん軽くなった。


「終わったな。」

「うん。」

グスタフとカリンが脱力した声を出した。


「うわぁぁ・・・」

肩を抱いていたエトワールがしゃがみ込み号泣し始めたが、

僕の目はフィリスに釘付けだった。


「フィリス・・・」

君が、転移してほしかった。

君が、助かってほしかった。

君が、生き残ってほしかった。


これらの言葉は言えなかった。

僕は勇者だって矜持が、こんな状況になってさえ、邪魔をした。


本物の勇者はジーク、ただ一人だったのにな。


「ちゃんと隠しダンジョンへ転移したと思うよ。」

フィリスの口調はやり遂げた満足感を滲ませた。


その後、僕にだけ聞こえる小さな声を出した。

「エドアルド、ごめんね。

今の私じゃあ、一人しか転移は無理だったんだ。」


「フィリスは悪くないよ。いや、よくやってくれた。」

僕が褒めると、フィリスは邪気のない笑顔を浮かべた。

「ありがと。」


突然、カリンが不審そうな声をあげた。

「なに、この臭い?」


4体の魔族、竜人、狼人、山羊人、吸血鬼の死体の色が変わっていた!

そして、竜人が勢いよく燃え始め、他の3体からは白い煙が少しずつ噴き出し、

地面を這っていた。


「出口を探せ!ぶち壊せ!」

「おう!」


グスタフとカリンが入り口の固く閉まった扉に猛烈な攻撃を始めた。


フィリスは燃えている竜人を消火するべく、水魔法をぶつけたが、消えない!

僕は3体の死体に、火魔法をぶつけたが、こいつらは燃えない!

くそっ!

どういうことだ?


「パーフェクト・クリア!」

エトワールが伝説の状態異常回復魔法を唱えたが、

3体の死体から噴出する白い煙は全く変わりがない!


どういうことだ?

毒や呪いじゃないのか?


「くそっ!扉以外も攻撃だ!

抜け穴があるかも知れない!」

「おう!」


部屋中を剣で、魔法で攻撃しまくったが、

壁も床も天井も欠片でさえ壊れなかった。


「エドアルド!どうすりゃいいんだ?」

どんな困難な状況でも笑顔で、余裕ぶっていた

グスタフが悲鳴をあげた。


どうする?

どうすればいいんだ?


「「「「「うっ。」」」」」

眩暈が俺たちを襲ってきた。

頭がガンガンと痛くなってきた。

鼓動が激しくなって、どんなに息を吸い込んでも苦しさは増す一方だ。


「ああ・・・もうダメ。」

カリンが呟くと力なくしゃがみこんだ。

「カリン!」

グスタフがカリンを強く抱きしめた。


「イヤだ!怖い!死にたくない!」

「カリン!」

二人は抱きしめあい、泣きわめき続けた。


「・・・エドアルド!」

フィリスが泣きながら抱き着いてきた。


「フィリス、今までありがとう。愛しているよ。」

「ごめんね。貴方を助けなくって。」

「いいや、君を置いて行けないよ。」

「ありが・・・でも、死にたくない!死にたくないよぉ!」

「・・・神様、助けてくれ!」


祭壇へ目を向けると、エトワールが透き通った笑みを浮かべて

俺たちを見つめていた。


「みんな、今まで、本当にありがとう。

ジークを助けてくれて、

こんなことになっても、ジークを非難しないでくれて、

ありがとう。」


エトワールは俺たちに丁寧に頭を下げると、

祭壇に向かって祈りをささげ始めた・・・



★★★★★★★★★★★★★


春の早朝、爽やかないい天気だ。


王に願って、3つのお墓を作った。

エドアルドとフィリス、グスタフとカリン、そしてエトワールのお墓。


「エトワール、みんな、今からみんなの家族に会いに行くよ。

みんなのお陰で魔王を倒せたんだって、

俺を守ってくれてありがとうって言ってくる。

それから、みんなを守れなくって、ゴメンなさいってちゃんと謝るよ。


それが終わったら、両親のお墓を作って、

その後は世界を見て回って来るわ。


帰ってくるたびに土産話するから、待っていてくれよ。

寂しいと思うけど、

周りの花壇に出来るだけ花を咲かせてくれるように頼んでおいたから。

じゃあ、行ってきます。」

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親に、勇者パーティの仲間に、巫女である恋人に、 捨てられた俺は魔王と魔物の大群をたった一人で殲滅した。 そして俺を捨てた奴らに復讐するべく、旅に出た。 南北足利 @nanbokuashi

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