バースディ
六月の朝、通勤電車の窓から、薄曇りの空を見た。
遠くの雲の形もはっきりと見える、やわらかな明るさの空だった。
瑞々しさと深さの両方をまとった緑は、川辺でも街路でも、線路沿いでも、輝いて見えた。
昨晩は雨が降っただろうか。洗い流された後のようなきれいな風が、灰のビルを抜け、駅前の人々の側を流れ、木々を揺らし、空へと立ち上る。
単純に、美しい世界だな、と思った。
同時に、今、もしも死んだとしても、何かをやり残しただとか、悔いが残るだとか、そういった感情は生まれようがないと思った。
――意外と、精一杯生きている。
これまでの人生に、こうしたらよかった、ああすればよかったと思うことは山のようにある。
けれど今は、仕事も、小説も、やれるだけのことは十分にやっている。
他の誰かに足りないと言われたとしても、自分の力は、惜しみなく、全力で注いでいる。
だから、今死んでも、それはそれで構わないと思った。
何人かには怒られるかもしれないけれど、その人達には申し訳ないけれど。
くっきりと。
思い残すことがないと言い切れるほどに、美しい世界だった。
そんな風に思える朝を迎えることができたのは、本当に幸せなことだと、今の私はしっかりわかっている。
――お誕生日おめでとう、私。
お誕生日は先日のことでした。大丈夫です。まだまだ生きます。
明日、冷蔵庫を買いに行きます powy @powy
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