ニャンドロス神聖王国所属、“ドルフィン、EWAC装備型”、接敵す。

touhu・kinugosi

第1話

 星々の海の中に大きなイルカが浮かんでいる。

 背中には流線形の操縦席。

 これは巨大なドラゴンの背中に宇宙船を背負うドラグーンシップのライドバック方式と同じものだ。

 さらに、その上に大きな円形のレドームがついていた。  

 宇宙空間適応型哺乳類の、”イルカ”を活用ベースにした魚型宙間戦闘機。


 ”ドルフィン・EWAC装備型”である。


「ふむ、腰が痛いな」

 パイロットスーツの胸が丸い。

 ヘルメットの左右は少し尖ってふくらんでいた。

 腰には、宇宙服におおわれた

「確かに、ですねえ」

 こちらは同じような姿をした男性だ。


 ニャンドロス神聖王国の高位猫妖精ハイケットシーである。


 バイク型のコックピッドシート。

 バイクのタンクのようなふくらみ。

 それに女性の胸部が当たりふくらみに沿って歪んでいた。

 その前の左右にハンドルバーがついていた。

 前席にまたがっていた女性が、お腹の部分で固定されていたフックを外した。 

 タンデムに配置された複座のシートに、上半身を起こし足を上にして座る。

 周りはアラウンドビュータイプのモニター。

 少し後ろに、円盤状のレドームがゆっくりと回っている。

 前の下には、イルカの頭。

 前席の個別モニターには、紅い鳥居の中に”使役率、70パーセント”の文字が表示されていた。

 

「敵影は無いですねえ」

 後ろの席に着いた個別モニターには三次元レーダーの画面。

 モニターの中をバーがレドームの回転と同じ速さで回る。


「ふむ、少し休憩しよう」

 パシュン

 軽い音と共に女性がヘルメットを脱いだ。

 ネコミミを頭をふりながらパタパタと動かす。


「そうですねえ」

 男性もヘルメットを脱いだ。

 同じようにネコミミが現れる。


「あ、聞いたことあります?」


「何をだ?」


「ここいらに、ガゼフ王国の解放戦線パルチザンが出るみたいですけど」


「ふむ」

 

「”大宇宙おおぞらのサムライ”と呼ばれるパルチザンのエースパイロットがいるみたいです」


「ああ、聞いたことがあるな」

「確か、開戦当初からほぼ十年間戦い続けているとかいう奴だろ」

 ニャンドロスがガゼフ王国に侵略してほぼ十年。

「元の国境近くまで追い返されてるんだよな、我々は」


「ええ、それの原因がそのパイロットの活躍だそうです」


「ああっ、思い出した、たしか名前は、”サカイ・イチロー”だ」


「ええ、”零式艦上宇宙戦闘機”なんていう、装甲ゼロ、あるのは機動力のみというの使い手ですよ」

「そういう命知らずを東和の地では、”サムライ”というらしいですね」


 その時だ。


 ビイイ、ビイイ


「至近にダイブアウト反応っ」

 男性がヘルメットをかぶりながら、レーダーの計器類を操作。


「どこだっ」

 女性が前席にまたがり腰のフックをつけた。

 片手ではたくようにヘルメット装着っ。


「左ですっ」

 

 左に銀色の波のようなさざめき。

 小さな宇宙戦闘機がダイブアウトしてくる。


「くっ」

 女性が左足のフットバーを下に蹴る様にさげる。

 使役率が100パーセントに上がった。

 

「機種判明、ダイブブースターをつけた……」

 宇宙戦闘機を単機で短距離ダイブワープを可能にするブースターだ。

 ブースターをパージ。

 使い捨てで片道である。


「零式艦上宇宙戦闘機……タイプゼロですっ」


 女性の髪が総毛立った。


「逃げるぞっ」

 右手のアクセルを全開と同時に、ねじる様に左に体重移動。


 ドルフィンがそれに合わせるように体を傾け尾ひれを振った。


 結果、左斜めに身をひるがえすように移動。

 

 しかし、その時にはコックピットの真上に濃緑色の機体が覆いかぶさるように飛んでいた。

 腰のアーマーを前に、両手足を後ろにした戦闘機形態(ギャ◯ランみたいな感じ)。

 本体と、太もも、肩、二の腕以外は装甲が無く、むき出しの駆動チューブが見えた。


「にゃうう」

「うわあああ」

 男性が自分の腕で顔を覆う。


 パパ


 タイプゼロの左右の二の腕に装備されたシールドブースターの、20ミリ超電磁砲レールキャノンが光る。

 電磁防御壁シールドを張るも至近距離の20ミリ実体弾には無意味。


 ガガッ


 振動と共にレドームが被弾。

 

「パージッ」


 ボロボロになったレドームを切り離した。

 機体を左右に振りながら必死に逃げる。

 ふり切れない。

 余裕でついてきた。

「ひとおもいにやれー」

 真後ろについたゼロ戦を振り向きながら女性が叫んだ。

 腰の二本の尻尾がピンと立った。

「…何もしてこないっ」

 零戦は、最後に機体を左右に振って(バンクさせて)離れていった。

 尻尾がヘニャリとたれた。


「……非武装の機体は墜とさないのか……」


 女性の頭に、”サムライ”という言葉が浮かんだ。


「…帰投する」


 しばらく飛ぶと、前方に、蛇腹状の体節。

 左右に複数の三角のヒレ。

 複眼が一対、頭から飛び出す。

 海老の尻尾のような触腕が口の左右に二本。

 丸く複雑な口。


 その平たい体の上には鳥居と神社。

 神社の左右に飛行甲板があった。


 アノマロカリスクラス宇宙空母である。


「ふうう」

「助かりましたねえ」

「ああ」

 命からがら母艦に帰ってきた。

 イルカから操縦席を切り離し自由に《フリー》に。

 イルカが神社の鳥居に戯れるように泳ぐ。

 しばらくしたら自分の獣舎に帰るだろう。



 この後、ガゼフ軍の大攻勢が始まり、”地獄のニャンドロス宙域戦”と呼ばれることになるのである。




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