第3話 攻略対象者その1 ギルバート

義兄ギルバートは攻略対象者だ。


ゲームだとギルバートは母親の生命を質に取られ、ティアレーゼの言いなりだった。

後妻の連れ子、卑しい身分の癖にと蔑まれ、公爵家では冷遇されて辛い日々を送る。

まだ子供のティアレーゼに何故そんな事が出来るのかといえば、それは魔力の力が父親を超えているからだ。

八歳にして既に。

天才肌で、悪役だけあってスペックが相当高い。魔術も学校行って学ぶ事があるのかな?って位にバシバシ使う。

娘が恐ろしく、臭いものに蓋をした公爵は母親が居ればまともになるだろうと、ギルバート共々引き取り、後妻に丸投げ、本邸はティアレーゼの天下と言う訳だ。


ギルバートは魔法学院に入学する頃には後ろ暗い組織に出入りしてたし、母親も実は殺されていた。


現実は•••••あれ、ギルバートは学院生だけど、ママン生きてるよ。

商才が有ったようで、好きな事をしてイキイキしてる。

ティアレーゼが風邪引いたと聞いて、領地の視察先から帰るって契約精霊がお手紙持ってきた。さっき。



因みにギルバートはヨーゼフによって学院へ強制送還されたらしく、ティアレーゼの側にはいない。


義妹にはメロンメロンで、甘いギルバートだけど、あれで学院では氷の貴公子とあだ名が付いているらしい。

数多の美しい令嬢にニコリともしないとの噂だ。どこまでが本当なのかわからないけど。

とてもじゃないけどティアレーゼには想像が付かないだろう。


確かに氷を連想させる容姿だとは、思う。

薄い水色に輝く髪、少し癖のある長めの前髪から覗く瞳は冷たい冬空の色。

しん、と凍りつく眼差しは鋭利で、その美貌と相俟って触れれば切れそうな剣みたいで。

文武両道、眉目秀麗など、類似の四字熟語が勢揃いで、ペカッと光るロイヤルストレートフラッシュ喰らった気分を味わえる。


「これから要注意な出来事でもあるのかしら?」


パタンと読んでいた本を閉じる。

朝食後の後に籠った図書室は空調が効いていて過ごしやすい。

ハンナにお茶を淹れて貰うとひと息付く。


ティアレーゼは出来が良すぎる為に、家庭教師は今の所は、週に三回しか来ない。

その間の暇潰しは専ら図書室か庭弄りだ。

勿論、ゲームのティアレーゼはそんな事しないが。


乗馬も教わる予定だが、生憎、馬具と馬の選定に時間が掛かっているらしく、ギルバートの許可が中々出ない。


(うーん、闇堕ち要素が無いのよね)


これではヒロインとの恋愛攻略の道が開かない。


『ホシキミ』は攻略対象者全員が闇堕ちしていて、それを全て、ヒロインが光の中へ連れ戻す事が前提だ。


そして光の中へ戻った攻略対象者の誰かを選んで攻略していく。


ヒロインが学院1年生の時に全員の闇堕ちを掬い上げ、2年生の春から対象を選んでラブラブを目指す。イベントも結構あった気がするけど、このイベント辺りの話は、ゲーム参加はすれど、穂乃果によく聞いていなかったかも知れない。お宝ゲットで喜んで終わってたし。




ティアレーゼが悪役になるのは御免だが、ギルバートの恋路を邪魔するのも心苦しい。

どうしたものだろう。



席を立ち、次に読む本を選ぶが、ティアレーゼの身長が少し足りないようだ。

梯子を持って来る程でも無い位置。

何とか背伸びをして取ろうとした時に、フッと影が指す。


「お嬢様、こちらの本で宜しいでしょうか?」


そう声を掛けて本を取ってくれたのはティアレーゼの専属執事見習、オスカーだった。


切れ長の青い目、涼やかで綺麗な顔。銀色の髪。

ティアレーゼよりも二つ年上の男の子。

一見美少女の様な、と付きそうな風貌で、庭師の爺や、ロンバードの孫だ。


あ、ここにもいた、攻略対象者が。



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