第4話 攻略対象者その2 オスカー
「オスカー。妹さんはもう良いの?」
お嬢様のお陰で大丈夫です、と柔らかく笑う。
オスカーの妹マリーは病弱で、空気の良い山荘で療養中だ。
因みにそこは、公爵家の別荘でもある。
ゲームのオスカーは魔毒に侵された祖父、ロンバードをティアレーゼに見殺しにされる。それなのに、ティアレーゼはマリーを公爵家の山荘で療養させる事を条件にオスカーを手駒として扱うのだ。
ロンバードの魔毒は、エリスの花から抽出される成分で解毒が出来るけど、ゲーム上は絶滅危惧種になっている。
ただ一輪、エリスの花が公爵家の温室で奇跡的に咲いたが、ティアレーゼは誤って燃やしてしまう。
『あら、ごめんなさい?この花、邪鬼がイタズラで植える真似草だと思ってたわ。まさか本物だったなんて。だって、エリスの花は絶滅危惧種だもの。こんな所に咲くはず無いと思うでしょう?』
ティアレーゼ、悪役だけど、かなり酷い奴である。
それなのに妹を少しでも長生きさせたくて、山荘に預けて、手駒として色々悪事を重ねるオスカーに絶望が襲う。
妹が山荘で、娼婦紛いの行為をさせられていたのだ。
オスカーの生命を盾にされていたらく、その身がボロボロになるまで。
重ね重ねピーな嬢様である。
考え事をしていてボゥっとしてしまったティアレーゼに、オスカーが、本をはい、と渡しながら近況報告をくれる。
「先日は木登りが出来たと喜んでましたよ。ランマル先生も後、二、三年頑張れば再発しないだろうと仰って下さいました」
妹はティアレーゼと同じ年で、去年から山荘にいる。ランマル先生が転移魔法で行き来していて、様子を見ているのだ。
「元気になったら、お嬢様のお側で働きたいと言ってましたよ」
「ふふふロンバードが良いって言ったらね」
あれ、死ぬはずのロンバード、生きてるし。
確かにロンバードは魔毒に侵された事があったが、ティアレーゼとオスカーが、エリスの花のが咲いていたと、目撃情報の最も多い、グランツ公爵領の北部にある山間の湖へ取りに行ったんだよね。
ティアレーゼ、飛べるし。飛行魔法は修得済みなのだ。
オスカーは超特急で空を飛んだら目を回すし、(ちゃんと保護魔法はかけた)満月の夜じゃないと咲かないって聞いてたから、こっそり抜け出すのはスリリングだったけど。
咲いていたエリスの花を株ごと持ち帰り、全身ドロドロの状態で、公爵家本邸の敷地内にある、ランマル先生のお宅へ行ったから大騒ぎになってしまったのは失敗だった。
ランマル先生に「そこで私が戻るまで、正座して待っていなさい」って言われた時には、本物の正座待機を経験させてもらいました。
エリスの花も、群生しちゃってるんだけど、どうなんだろう。
義母様が商売に乗り出してるから放って置いても良いかな、と密かに思っている。
オスカーも良い子だし、天涯孤独になるって言う設定だったのに、両親生きてるし、ロンバードも生きてるし。
闇堕ちしそうに無い。
「あ、でも、オスカーの『見習い』を取るのが先じゃない?」
オスカーの父親は伯爵家の三男坊で、母親が没落した男爵家のーーーーロンバートの娘だ。
要はロンバートの代で爵位を返上しているのだ。
だから公爵家の執事を目指せるんだけど•••••
「直ぐに取れるさ!」
図書室に明るい笑い声が響いた。
と、その時、別の笑い声が交じる。
魔女が鍋をかき混ぜている時の様な、その笑いはーーーー。
「おや、楽しそうですね、お嬢様。お薬の時間が過ぎてしまってますよ」
フフフと、丸眼鏡が逆光で光る。
医者のランマル先生だ。
こうして見れば立派な不審者に見えるから、怪しさ満載だ。
ランマル先生の手元を見れば、よく煙が出ないものだと関心する位の色合いが生々しいドリンク、いや薬っぽいナニカがある。
「ウゲっ」
小さかったけど、オスカーが声を洩らしてハンナに注意されている。
執事とはーーーーと。見習いが取れるのはまだまだ先だろう。
まぁ気持ちはわかるよね。
アレはきっと人間の飲み物じゃない。
「そこまで怯えなくても大丈夫ですよ。以前よりも飲みやすく改良しましたのでね」
ランマル先生の何回目の改良だろうか。
その言葉、以前はギルバートの部屋で聞いた気がする。
ランマル先生はティアレーゼやギルバート、言うなればこの屋敷にいる人間は全て実験台だと思っていそうだから怪しい。
「おや、そんな事はありませんよ?心外です」
わざとらしく傷ついた振りをするのだから、尚更だとティアレーゼは思った。
「ささ、お飲み下さいね」
飲んでも生命に別状は無い。確かによく効く。身を持って知っているティアレーゼも、それは否定しないだろう。
ただ別のーーーーナニカの扉を開きそうになるのはなぜなのか。
「さぁ、お嬢様いきますよーーーー」
とってもやる気のハンナの掛け声に、ティアレーゼは敗北を悟った。
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読んでいただきありがとうございました(*´꒳`*)
ダイジェスト版で、お送りしております。
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