11. リアリティのある異世界転生

 最近、ネット記事で知ったのですが、芥川賞受賞歴のある六十代の作家さんが新作として書いた作品が異世界転生ものなんだそうです。

 何故、ラノベみたいな話を書こうと思ったのか。


『横行している異世界転生ものはご都合主義ばかりで、物語としてリアリティがない。物語としてのリアリティを持って書いたらどうなるか、試したかった』


 だそうです。

 まぁ、言わんとする内容は理解できる。


 ラノベ界隈における異世界転移・転生は、

 社会のカースト底辺な主人公或いは普通の人が「人生詰まんねぇなぁ」と思っている所で交通事故などに遭い死亡。

 ↓

 異世界に召喚されてチートスキルを得る。

 もしくは転生して人生やり直し、あたらな地位や子供らしからぬ大人の知識で無双して自分や世界を救う。

 或いはスローライフで幸せになる。


 ループものだと人生を何度もやり直して蓄えた知識や経験がチートスキルっぽくなって他者の目には優秀に映り一目置かれて幸せを掴む、的な展開ですね。


 中には転生先で散々苦労している主人公もいますが、そっち系は「努力しないといけない立場に追いやられて」頑張る系で、元居た世界ではそこまでの努力をしなくても生きていけたから主人公は普通の人だった、みたいな展開ですね。


 まぁまぁ、ご都合主義以外のなにものでもない。

 いずれにしても、主人公が幸せになる環境が整った世界に飛ばされる訳だからね。


 でもさ、だからウケるワケだよねって思う。

 更に言うなら、今の世の中を反映しているんだろうなと思います。


 正直、今の世の中って若者には生きずらいって思います。

 例えばですが、つい数十年前までコンビニはなかったし、二十四時間営業でもなかった。

 携帯電話を一人一台持っているのが当たり前になったのは、二十年くらい前からです。

 ネット環境だって、使い放題とかここ十年くらいじゃないでしょうか?


 そういう、社会インフラがすっかり整った時代に、つまりあるのが当然の時代に生まれたのは良くも悪くもだと思う。


 加えて、世の中は不景気。コロナとか災害とか他にも理由はありますが、税金高すぎるのに賃金低くて、働けば働くほど貧乏になる社会です。


 周囲の環境は整っているのに金がない。

 金がないと何もできない世の中であるのも事実。

 そういう社会でメンタル健全に生きろって方が難しいんじゃない? って思う。

 

 今の世の中は、私にはとても歪に見える。

 そんな歪な世の中で、やれ貯金だ結婚だ子供産めだと行政は急かすけど、抜本的な改革してる政治家なんかいないよね。


 幸せに生きるのが難しい世の中だし、じゃぁ幸せってどんなん? って考えちゃう世の中でもあると思います。


 だからこそ、ラノベみたいな物語の中だけはご都合主義で良いじゃない。

 こんなクソみたいな世の中以外の世界に飛ばされたなら、チートスキルで無双して幸せになりたいじゃない。

 今の知識のまま赤ちゃんからやり直せば、もっと良い人生になるかもしれないじゃない。

 今の世界じゃない場所で、魔法とか頑張って勉強したら、強くなれるかもしれないじゃない。

 散々頑張って生きてきたんだから、モフモフとスローライフ送ってもいいじゃない。


 そういう夢が詰まったご都合主義がラノベなんだと思う。

 ifの世界というか、人生やり直したら幸せになれた、という夢。

 ラノベとは、今の世の中を生きている人たちの希望というか夢というか、願望なんだろうと思っています。


 勿論、リアリティのある異世界転生も、物語としては面白いと思う。

 作家という立場から、自分が書くとしたら私は後者です。だから好きだし、ご都合主義もリアリティのある話も、両方良い点があるし課題があるなと思う。


 今、日本を動かしている人たちは、どうしてラノベ界隈やアニメでご都合主義が人気があるのかを、真剣に考えるべきでしょうね。

 出版界で言うなら、少年誌の大御所「友情・努力・正義」が下火な理由と、ちゃんと向き合うべきだろうなと思います。

 じゃないと日本て滅ぶんじゃないかなぁと、数年前からぼんやり考えています。


 ヲタクは金を落とすってんで、そっちに経済流通を持っていこうとする動きもあるけど、ヲタクたちが食費など命に関わる部分の金銭を削って推しに貢ぎ、貯金もろくにないって現状には目を向けないワケだからね、政治家は。


 そういうヲタクばかりではないけど、上辺だけ見て小手先の政策しているだけでは何も変わりませんな。


 ラノベに限らず流行するエンタメの内容っていうのは、そういう社会問題の一部を反映しているなぁと感じます。

 せめて物語の中だけでは楽しく幸せでありたい。

 自分がそんな風に思って物語を書いているから、余計に感じます。


 物語の中だけは自由で、自分が好きなように描ける。

 私は常に物語の中に「逃げる」ことで、現実社会での自我を保っているので。


 書く側だけでなく読む側でも、そういう人がいるんじゃないのかなと思います。勿論、全員とは言いませんけどね。

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Web小説を書いてみて個人的に感じたこと経験したことの独り語り 霞花怜(Ray Kasuga) @nagashima

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