最強のメイド長、味方になる 2
お母様との話が終わり、帰る頃には空が茜色に染まり、星が見え出していた。
馬車に揺られながら乗る時は居なかった協力者に話しかけた。
「お母様が、協力的になってくれたのも貴方のおかげよ。本当にありがとう、エマ。」
正直、こんなに話が早く進むとは思っていなかった。絶対に成功させる為に侯爵家にサポートはしてもらうつもりだったけど、この行き来を後数回繰り返す予定だった。
「私を伯爵家へ、と元より申し立ててはいたのです。こんな形でとなりましたが希望が叶い嬉しく思っております。」
ありがとうございますと言われたが、エマが私を心配している事は前からお母様との手紙のやり取りで知っていたのでくすぐったい気分になる。
(本当にありがとうね、エマ)
色々と考えているものが少し軽くなるのを感じながら揺られていると馬車が止まり、ドアから出ると辺りは真っ暗になっていた。外に出たらリリアナがうげっという表情をした。
その先には玄関で不貞腐れているジャックがいた。
「アシュリーってば酷いよ! 夕方には帰ってくるって言ったじゃん!! 」
そう言ってこちらに向かってきたけどエマを視界に入れた途端ぴたりと足を止めた。
(エマの事はジャックにどう説明しようかな……)
伯爵邸に帰ってきた私達を侯爵家に行った時とは違い、1人増えている事に驚きはせずただじっとエマの事を見つめていた。
「君は誰? ……って、聞かなくても予想出来るけど。」
アシュリーとリリアナを傷つけないなら何でもいいよと言った言葉にエマはピクリと反応した。
「私はアシュリーお嬢様に16年仕えた身でございます。これまでもこれからも裏切ることはございません。」
「エマ……。」
そうだ、エマは最後までアシュリー侯爵令嬢は死んでいないと主張してくれた。言い続ければどんな目で見られるか分かっていた筈なのに。
しかし、ジャックはその回答ではお気に召さなかったらしく不機嫌を隠そうとしない。
「一緒に居た期間は関係なくない? 長い間一緒に居たから裏切らないなら何で皇后陛下は今の地位にいるのかな? 」
そう言われてエマは黙ってしまった。その反応を見たジャックは肩をすくめて屋敷に入っていった。
「エマ、ごめんなさい。あの人はこの話になると人に強く当たってしまうみたいで……。」
「いえ、伯爵様の仰られた事は事実です。……それよりも本当にお嬢様方を大切に思っていらっしゃるのですね。」
私はそれに安心いたしましたと喜んでくれているが、私の事を思って反逆を企てる可能性のある彼の愛情を素直に受け入れられないので曖昧に笑っておいた。
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「これは、どういうことでしょうか? 」
邸に入ってエマが放った一言がこれだった。
(エマの言いたいことは凄く分かるわ……)
屋敷に入ると花瓶や絵画はともかくカーペットすら敷かれていない。言ってしまえば入居前の家みたいに家具がないのだから驚かれるのも無理はない。
くるりとエマが私の方を見るとにっこりと微笑んでいたが目は全く笑っていなかった。
「ご説明いただけますね、奥様? 」
(これは絶対に長引くわ……)
私は悪くないという言葉をぐっと飲み込んでこれから始まるエマへの説明に憂鬱な気持ちになるのだった。
追放される悪役令嬢だと思ったら産んだ娘が『稀代の悪女』だった 霜月かつお @emi_1012
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