最強のメイド長、味方になる 1
アマンダを見送ってからお母様に手紙を書いたら直ぐに返事が来て、翌日には侯爵家に行く事になった。
「じゃあ、私とリリアナはお母様に話をしてくるので戻りは夕方くらいになります。」
迎えにきた侯爵家の馬車にリリアナを乗せてドアを閉められる前にジャックに話しかけると何処か腑に落ちないといった表情をしていた。
「俺たちの結婚式なのにどうして俺は行ったらダメなの?」
(行ったら確実にお母様の平手がとんでくるからよ……)
ジャックがダイナミックな侵入をしてから侯爵家には帰って無かった。あの時のお母様を思い返すと未だに背筋が凍る思いなのに、あの日からまだ日が経ってないお母様の怒りが薄まっているとはとても思えなかった。
「……お母様の気持ちを考えると貴方を連れてはいけないわ。この言葉の意味が分からないなら尚更ね。」
今のジャックではお母様との話し合いも無く離婚の話だって出てくるかもしれない。それくらいには手紙の内容はジャックに対して辛辣だった。
(多額の手切れ金を持たせて離婚も視野に入れているなんて書いてあったから驚いたけど、リリアナが同じ立場なら私もそうするから強くは出れないのよね……)
さて、困った。結婚式を成功させるためにはこの式に乗り気ではないお母様の説得が一番対応に困るなと深いため息をつきながら侯爵帝に向かうのだった。
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「お帰りなさい。アシュリー、リリアナ。」
客室に案内された私達をお母様が笑顔で迎え入れてくれたが、リリアナが困惑した表情で私を見ているが私も困惑している。
(嫁いだ娘に対して『いらっしゃい』じゃなくて『お帰りなさい』なんてお母様の考えている事は明け透け過ぎて対応に困ってしまうわ)
要は侯爵家に私とリリアナを戻そうとしているのだ。きっと、話の内容は結婚式ではないだろうと思っているとお母様が早速なんだけどと話し出した。
「あれから離婚に関する書類をこちらで集めたから後は貴方とハーネスト伯爵の署名があれば何時でもこちらに帰ってこれるわ。」
(仕事が早すぎる!!! )
あまりの用意周到さに少し呆れてしまった。お母様はこれが私達の幸せだと本気で思っている。---これでは私達の意見は何も入っていないのに。
「---お母様、私はあの時に戦うと決めました。その決意は数か月で消え失せてしまうものだと思われているのなら心外です。」
そう言うとお母様が困った顔をして微笑んでいた。
「貴方の意見を尊重はしたいのよ? でも、貴方たちを守ってくれる人は伯爵家にはいないじゃない。」
「ジャックが私達を守ってくれます。これまでだってそうでしたわ。」
そう言うとお母様の目がすわってしまった。
「本当かしら? 私にはリリアナしか守らない様に見えたわ。それとも心変わりをして家族を大切に思う男性になったとでも? この数か月で人ってそう変わるものかしら? 」
(そうですと言っても信じてはくれないだろうな……)
部屋に入った時からきっとお母様の怒りはここにはいないジャックに対して燃えていたのだろう。そう思うと連れてこないでよかったと心底思った。良くない気配を感じたのかリリアナがお母様に話しかけた。
「おばあ様、お母様が仰っている事は本当よ! 素敵な結婚式にしたいってお父様も仰っていたわ!! 」
リリアナの言葉に眉をひそめると信じられないわと言った。
「その証拠はあるの? 貴方達が現状に耐え忍んでいないという証拠は? ……もう、傷ついて欲しくないと願うのは私の我儘かしら? 」
「……っ!、お母様……私は……。」
私の声もリリアナの声も届かないと諦めたその時、私の前に立つ人が居た。
「僭越ながら、私にご提案がございます。」
そう言ったのは幼い頃から傍にいてくれたメイド長のエマだった。
「私が伯爵家に赴きお嬢様のお世話をさせていただきたく存じます。そうすれば、いずれは真実が見えてくるものです。その時は奥様に必ずご連絡をさせていただきます。」
お母様とエマのにらみ合いが続いたけど、折れたのはお母様だった。
「貴方がそこまで言うのなら信じましょう。……私を失望させないで頂戴ね? 」
「勿論でございます。さぁ、伯爵夫人、リリアナ様こちらにおかけになってください。直ぐにお茶をお持ちさせていただきます。」
そう言って部屋を出て行ったエマを見送るとお母様とリリアナが話しかけてきた。
「良く分からないけど、エマが伯爵家に来るって事は良い事よね? 」
理由は分からないけどエマが私達の味方になってくれた確かな事実に嬉しくなってその言葉に強く頷くのだった。
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