第13話 最後の王女

 王女が米国に保護された後、国連を通じ全世界にむけて配信が行われた。


 私はこの国の最後の王女となるエリザベスです――


 彼女の演説はそんな印象的な言葉ではじまった。


 彼女は「王政の廃止」と「1年以内に全国民により総選挙を行い、議員と大統領を選ぶ」ことを宣言した。

 クーデターを起こした東軍の兵士には未来の為にこれ以上の武力行為を止めて武器を捨てるように訴え、国民には選挙を成功させるために傍に居る兵士に武器を捨てるように説得し、国の秩序がこれ以上乱れないように自分の地域を守ってほしいと訴えた。


 そして

 

 わたしは、必ずこの国の最後の王女になります。

 そして1年後、新しいこの国のリーダ達を選ぶ選挙で皆さんと一緒に一票を投じたい。

 わたしは、この国の人々と一緒にこの夢を叶えたいのです。


 皆さん、これは、この国の王女としての最後の演説です。

 この国の最後の王女として、最後の願い事をします。

 国民による、国民の為の国を作る……どうか、この願いを叶えさせてください――

 


 そんな言葉で締めくくられた。



 怯えて家に籠っていた国民達も、彼女の言葉を聞いて、皆、家の外に飛び出したと言う。

 そして市民達は、東軍の兵士を取り囲んだ。


 すでに海を国連軍の船が港に姿を見せていたと言う事も影響したと思うが、市民に取り囲まれた兵士たちは次々に投降しはじめ、あっという間にクーデターは収束し、王都に平和が戻った。


 すぐに王女は国連軍に守れながら城に帰還し、城から再び王政の廃止を宣言した後、病床の父王の元に婚約者した渡辺と共に向かったという。




 こうしてこの国の軍によるクーデターは失敗した。

 しかし同時に、現政権である王政も廃止されることとなった。


 そして、この国は民主化への道を歩み始めることとなったのある。 



 ~~*~~



 豪華客船は予定の航路に戻り航海が続けられた。


 直美たちは仕事が終え、船のデッキでトロピカルカクテルを飲みながら寛いでいた。


「しかし、とんでもない仕事だったな。俺たちがCIAにいいように使われていたなんて」

 伸びをしながら良平が言う。

「ほんとよ、悔しいわ」

 直美も同意する。


「その内に借りは返してもらうさ」

 優はデッキチェアに寝ころんだまま言う。

「だな」

 佐々木は同意してからカクテルのストローに口をつける。


「帰ったら写真を分析して、誰がCIAだったのか、必ず全員を調べるわ」

 紀子が目を輝かせながら言った。

「ああ、勿論だ。こっちの情報ばかり取られてたまるか」


「俺、なんとなくわかるよ」

 アイスクリームをスプーンですくいながら勉が言う。

「ずっと単独で少し離れて見てたから……怪しいやつはいたよ」


「あ!?」

 良平、優、佐々木が声を上げて勉を見た。


「お前、なんで報告しないんだ!」

 良平が叱るように言う。

「え? だって、王女を狙っているわけでも、お前を狙っているわけでもなかったし、まあいいかなって……」

 鼻の頭を掻きながら強が答えると、良平、優、佐々木、直美、紀子が呆れたような顔になる。


「ったく……優秀なのか、抜けているのか……」

 優がそう言うと佐々木が首を振る。

「いやいや、これは、早瀬の教育が悪いんじゃないか?」

「そ、そんなことはないぞ!」

 良平は慌てて否定する。

「それに、そう言う事っていちいち教える事か!?」


「まあ、そうだな……海紅でも最近の新人は理解できない事があるという話を聞くけど……こういう事なんだろうな」

 優は勉に呆れた目を向けながら言う。


「話はかわるけどお兄ちゃん。次の寄港地で降りてすぐ東京に戻るんでしょ? 私、こっちで遊んで帰ってもいい?」

 直美は優に視線を向けて聞く。


「ああ、そうか……今回、お前、王女に張り付いてずっと頑張ってたもんな……まあ、そうだな」


「やったー!」

 直美は喜びを全身で表現するように笑顔になり手を上げる。

「フランスいこうぜ! ワイン飲みに行こう!」

 良平も嬉しそうに叫んだ。


「なんで、おまえが喜ぶんだ?」

 優が良平を見て冷たく言う。


「え? だって休暇だろ?」

 良平は優の方を見て言った。


「直美、やっぱり駄目だ。一緒に帰るぞ」

 優は真面目な顔で言う。

「え? なんでよ! 今、いいって……」

 直美は驚いて優の方を見た。


「まだいいとは言っていない」

 優はきっぱりと言い放つ。


「え? なんで? 急になんでなのよ!」

 直美の抗議するが、優は平気な顔でカクテルに手を伸ばす。

「お前達だけで旅行なんてさせられるわけないだろ?」


 がっくりしている直美と良平を気の毒そうに見ながらも佐々木は頷く。

「そうだな……、危なっかしすぎてふたりで旅行はさせられないな」

「だから、なんでよ!」


「だって、お前ら2人そろうと、なんかとんでもないトラブルにまきこまれそうだからな……」

 佐々木がそう言うと直美は怒る。


「失礼ね! 私はトラブルなんか起こさないわよ!」


「ここ数か月、お前と良平が起こしたトラブルで皆休みなしだ。死神を連れて歩く天使なんて、いい事あるわけないんだから諦めろ」


「そんなぁ、酷いよ、優にい! せっかくここまで来てるのにぃぃぃ!」


 直美の悲しそうな叫び声が空しく海の上で響いた。



「最後の王女」の章 完 

「コンフィデンシャル・ドキュメント」に続きます

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最後の王女 = 天使と死神の物語= あきこ @Akiko_world

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