第12話 どうやらCIAがもっていくらしい
一時間後としていた配信だが、大幅に予定が変更された。
人的被害が拡大しないよう、優は1分でも早くと考えていたのだが、すぐに首相と米国からしばらく待つようにと指示があったのだ。
イライラして待つ中、一番近くに居た米国の空母が目視出来る距離にまで寄って来た。
姿は見えないが潜水艦も護衛として近くまできているようだ。
彼らは、自分たちは国連軍として王女を保護する為に来たと連絡してきた。念のため日本政府に連絡しそれが事実だと確認ができたので彼らを受け入れることになった。
王女達を迎えに、空母からヘリがやってきて、強い風を起こしながらゆっくりとヘリポートに降り立つ。
それをこの船の船長と、祠堂、原田の3人で迎えた。
ヘリポートに降りたヘリから、3人の軍人が降りて来た。
上官一人にその護衛という感じだ。
『内閣調査室の祠堂ともうします。こっちは同じ内調の原田優です。それからこちらはこの船の船長、山本さんです』
やって来た米国の軍人に祠堂が前に出て挨拶した。
『わたしは、東部海洋地域平和戦略作戦室の室長、ロバート=ウイルソンです。はじめまして、ミスター祠堂と原田優、おふたりの噂はよく知っていますよ。お会いできて光栄だ』
『こちらこそ、まさかここで、CIAの頭脳と言われているミスターウイルソンにお会いできるとは思っていませんでした。自ら現場に来られているとは……』
祠堂は強い視線をウィルソンに向ける。
『実は少し前からスーバルア国王から秘密裏に民主化へ移行の件について合衆国は事前連絡を受けていましてね。……それでそれを助ける為に人を派遣したりして備えていたのです』
白々しくそういうウィルソンを祠堂は睨む。
『成る程、では今回のクーデターの事も、王女の動向も把握していたと……そういう事ですな』
祠堂の目力に圧倒されたのか、ウィルソンが愛想笑いを浮かべる。
『いや……日本政府も承知していたはずだよ。万が一の場合は王女をこの船で米国へ亡命させる計画だったし』
『なんだと』
優が声を上げた。
『もしかして乗客の中にCIAも?』
『……否定はしない』
ウィルソンの言葉を聞き、優は舌打ちをする。
優の頭の中に何人かの候補が浮かんだ。
直美が溺れた時、良平に続いて素早く飛び込んだ男が居た事と、シージャック犯を制圧する際、いち早く乗客が怪我をしないように効率よく誘導した者たちが居たことを思い出す。
『怒らないでくれ、我々が王女から護衛を拒否されたのは事実なんだ。まあ、その理由が王女の恋心だとは想像もしてなかったがね……』
全部把握してるのか……
優はウィルソンを睨んだ。
それから愛想笑いを浮かべるウィルソンを見てため息をつく。
『はあ、我々はいいように使われていたってことですね』
『まあまあ、そう落ち込まないでくれ。君たちの動きについて報告していた者が君たちの事を褒めていたよ』
『ああ、そうですか、それはありがとうございます』
『怒らないでくれ、今回は君たちの試験でもあったんだ』
『試験?』
『早瀬とCIAは高レベルパートナー契約を交わしていた。早瀬は日本側の窓口として機能していたんだよ。しかし実質早瀬は壊滅状態……今後大きな仕事は出来ないだろう? それで今後は吉良と契約をすることになるので、事前調査の一環として君たちの事を見させてもらったのさ。結果はもちろん優良だったけどね』
『・・・・・・・・』
優は、ニコニコ話すウィルソンを黙って見ていたが、くるっと背を向け、歩き始める。
『怒ったのかね?』
ウィルソンは優の後を追うように歩き、にやにやして聞いた。
『いいえ、我々があなたのおめがねにかなったなら良かったです』
優が無表情でそう言うとウィルソンは嬉しそうな顔になる。
だが、優の言葉はここで終わらなかった。
『次はこちらがあなた方を審査する番ですね。楽しみにしていてください』
優の言葉にウィルソンはキョトンとした表情になり、その後笑い出した。
*
ウィルソン達は王女と面会し、今後について話をした。
王女達とシージャック犯は米国の空母の方に移ることになり、これ以降は米軍の保護下に置かれることになった。
そして、ウィルソンは、渡辺が王女の恋人として同行することも許可し、渡辺も一緒に行く事を決断した。
二人は困難があっても駆落ちするという覚悟を決めていたのだ、今更 離れると言う選択肢はないようだ。
王女を守ると決断した今の渡辺ならきっと王女にとっても頼りになる存在になるに違いなかった。
*
王女が部屋を出て、ヘリに乗るために甲板にでると、多くの乗客も甲板にでて見送っていた。
その中に、直美と良平もいて王女を目で追う。
祠堂と優以外の吉良3Sメンバーは目立たないようにスタッフや乗客にまぎれてしているのだ。
王女が直美をみた。
直美と王女はそっと視線を合わせ、お互い少し頭を下げて挨拶する。
それから王女はウィルソンに促され、ヘリに乗り込んだ。
ウィルソンは船長と祠堂と優に挨拶し軽く握手する。
それからヘリに乗り込むためにヘリのグリップを掴んだ。
そこから勢いよく乗り込むのかとおもいきや、少し動きをとめた。
それから振り返る。
ウィルソンは良平の方に視線をやる。
良平はウィルソンの視線を感じ、「?」という顔をする。
ウィルソンは良平に微笑みそして叫ぶ。
『坊主! また会おう!』
「!?」
良平はわけがわからずに眉を歪める。
ウィルソンはその顔をみて笑い、ヘリに乗った。
「知り合い?」
直美が不思議そうに聞いた。
「いや……初対面だと思うが……まあ、何度かおれもCIAとの共同作戦に加わったことがあるし、向こうが知っていたのかもしれないな」
良平も不思議そうな顔で言った。
「あいつらと関わってもいい事はない。……日本のエージェントの事をバカにしてて、いつもこうやっていいとこどりする」
「……やな奴らね」
「ああ。かなり嫌な奴らだよ」
怪訝そうな顔で見送る中、王女を乗せたヘリは飛び立った。
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