第3話

やっと完成した。

丁寧に研磨したそれは見事なまでに美しい輝きを放っている。

また一つ、宝物が増えた。

標本を手に持ちコレクションルームへ向かい、大きなガラスケースの扉を開けてダイヤモンドのかたで作った耳の標本の横へ置いた。

しばらくの間 見惚みとれていたが、私は舌以外のパーツも仕上げる為に作業へと戻った。

一度作り始めたらやめられなくなってしまう。

それほどまでに楽しい。

教えてくれた父には感謝している。


 

 遠くの方で物音がする。

そうだ、作業に没頭していてペットにご飯をあげるのを忘れていた。

手をいったん止め、コレクションルームへと向かう。

私が部屋に入ると気配を察知して嬉しそうに這いずってきた。

さて、ご飯の準備をしようか。

いつものようにキッチンへ行こうとしたその時だった。

突然、私に飛びかかってきたのだ。

不意の出来事に体勢を崩し床に倒れてしまう。


そんなにお腹が空いていたのか。

ちょっと待ちなさいよ。お行儀が悪い子ね。


そう思っているうちに私の足から這い上がってくる。

蹴り飛ばそうとしたが、足に噛みつかれてしまった。

足どころか太もも、腹、腕、色んなところに噛みついてくる。

いつもと様子が違うことに気付き、落ち着かせようとするがやめる気配がない。

噛みついたと思ったら今度はソッと舐めてくる。


なんだ?気持ち悪い。


いい加減にしろ、と剥ぎ取ろうとした瞬間、腕に噛みつきそのまま肉を噛みちぎった。

あまりの痛みに声も出ない。

ペットは恍惚こうこつとした表情を浮かべて美味しそうに咀嚼そしゃくしている。

私の肉を飲み込んだヤツは、荒い息をしながら今度は首筋にねっとりと舌を這わせ顔へと上がってきた。

頬や耳を舐め回している。

そして、血と唾液で汚れた私の顔に鼻を押し付けて嬉しそうに嗅ぎはじめた。

ひとしきり匂いを嗅いで満足したのか深く息を吸い込んだ後、物凄い勢いで顔を食べ始めたのだ。

たまに愛おしそうにペロペロ舐めては食べるを繰り返している。


あぁ、コイツは…

昔とちっとも変わっていない…

だから目を潰し、手足を切断したというのに。


家族には知られたくなかった。


の中に飾られている父と母、妹に凝視ぎょうしされながら私は、意識も顔も無くなっていく中で最後に思った。


食べてしまいたいくらい愛してるとはいうけどさ、愛情表現にしてはちょっと激しすぎるんじゃない?

ねぇ、兄さん。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

秘事 梅田 乙矢 @otoya_umeda

現在ギフトを贈ることはできません

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画