第2話

 薄暗い部屋に私は一人でいる。

いや、正しく言えば一人ではない。

一見するとこの部屋は美術館のようだ。

私が集めた様々な標本が並んでいる。

どれもがとても美しい。

一通り眺めてから私は作業部屋へ向かった。

女が一人、椅子に座り机に押し付けられるようにして首と両手首を拘束具で固定されている。

その様子はまるでギロチンで首を切断される人間のようだ。

私は黒いゴム手袋をはめ、女の髪の毛を引っ張り顔をこちらへ向けさせた。

そして、口をこじ開け舌をつまみ出す。

拘束された机の上にもう一つ、赤黒く汚れた銀色の器具が取り付けてある。

その器具は舌を挟むのにちょうどいい道具で取っ手付きのハンドルを回せば上下から舌を挟んで固定できるようになっている。

つまみ出した舌を器具に固定する。

女が泣きながら何か言っているが、私はかたわらに置いてあるハサミを手に取り舌を切り始めた。

ジョキ…ジョキ…ジョキ…

人を切る時どんな音がすると思う?

意外と耳に心地いい音なのよ。

ジョキン…

切り取った舌を標本用のトレーにのせて作業机に持っていき、事前に準備していた熱々のアイロンをつかみ女のもとへと戻った。

出血を止めるためにアイロンで切断した患部を焼かなくてはいけない。

とめどなく血が溢れている舌へ押し付けるとジュッと肉の焼ける音とほんのり赤く色づいた蒸気が立ち上った。


舌は手に入れた。


もうこの女に用はない。喋れなくなったあなたは誰かに助けを求めることもできないだろう。

私は、これから彼女にやってほしいことを耳元に口をつけ指示する。

女は泣きながらうなずいた。

それじゃ、行こうか。


お互い距離をたもちながら駅へと向かい、人で溢れているホームで待つ。

全てがとどこおりなく終わるまで見張っていなければいけない。

余計なことをしないように。

列車が来ることを知らせるアナウンスが響いた。

すると女がこちらを向き、泣き顔で首を横に振り始めたのだ。

私は内心で舌打ちをしてジッと見つめながら先程耳打ちした言葉を声に出さず口だけ動かして繰り返す。


“やらなければ、死ぬよりもっと苦しい目にあわせるよ”


その言葉に顔をひきつらせ固まり、ゆっくりと前を向いた。

電車がホームへ入ってくる音が聞こえる。

彼女はぎゅっと目を閉じた。

頬に涙が伝っているようだ。

そして、泣きながら列車へと飛び込む。

ドン!という音ともに辺り一面に肉片や血が飛び散る。

電車を待っていた人達は悲鳴をあげて慌てて駅の出口へ逃げだした。

線路を見ると長い髪をなびかせた生首だけが綺麗に残っており、こちらを見ていた。



 家に帰ってコレクションルームへと向かう。

美しい樹脂標本となった目玉や手、足、デスマスクなどがライトアップされ、ガラスケースやガラステーブルに飾られている。

私は、愛しい人を見るようにそれを眺めていた。

すると部屋の奥の暗闇から床を這いずる音が聞こえてくる。

あぁ、そうか、ご飯の時間か。

私の足元へやってきた可愛いペットは、両目が潰れ、四肢ししが切断されていて髪の毛も一本残らず引きちぎられたオスの人間だ。

足元に顔を擦り付けて甘えてくる。

キッチンへ向かい食事の準備に取りかかった。

冷蔵庫を開け、標本になった人達から切り取った臓器や肉を取り出して包丁で細かく切断し犬用の皿に盛っていく。

その間も足元でじゃれつくので手元が危ない。

私は、ペットを蹴り上げて大人しくさせた。


もう少しだからお利口にして待っていな

さい。


準備ができた食事を目の前に置くと勢いよく顔を皿に突っ込んで食べ始めた。

本当は新鮮なお肉をあげたいけど、まあしょうがない。

血に濡れた手をタオルで拭き、私はキッチンをあとにして作業部屋へ向かった。


手に入れた舌はそれはそれは見事な代物しろもの

色、形、全て私の求めていたものだ。

標本にするためにはまず下準備をしなくてはいけない。

完成するまでに意外と時間がかかるのだ。

なるべく新鮮な状態で樹脂に閉じ込めたい。

コレクターならきっと同じことを思うはず。

私は数日間、部屋に閉じこもり作業を続けた。

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