第34話

辺りの景色がさらに変わり、元の場所に戻ってくる。

「コハル!」

「随分惨めな姿になったな」

ソフィア様が前に立つ。その目は正しく仇を見るかのように憎たらしく険しい。

「何で人を思いやれないの?人を傷つけられずにはいられないの?」


「ハッ、お前のような小娘に人生を説かれるとはなあ」


「だが、そもそもなぜ私が人などを思いやらなければいけない?他人に好意を持つこと自体は理解できなくもない。だが自分の欲より大事なものなど私にはない」


「そうなのね、随分一人がお好きなようで。でも何でかしら?人形を作って従えて、孤独を怖がっているように見えるわよ」

「……あ?」


ラヴィアさんの表情がピリピリと変わっていく。

「はあ、少し話し相手になってやれば。実に下らん、貴様など人形にする価値も無い」

髪をかき上げその目でソフィア様を見ると、溜息を吐いて指を鳴らす。

ラヴィアさんが指を鳴らした瞬間、ソフィア様の体が無情にも地面に叩きつけられ、そのまま転がってしまう。

そして素早く距離を詰め、さらなる追撃を狙っている。

ソフィア様が空中で止まると同時に氷柱が地面からせり上がりラヴィアさんの体を貫通する。

その隙に瞬時に体勢を立て直し距離を取る。

ソフィア様の体から魔力が溢れだす、凍てつく空気が宙を舞い吹雪が降り始める。



「行くわよ」

ラヴィアさんは氷柱を糸へと変え自分の体を治していく。

「ふん、【命戯縫合:加羅紅カラコウベ】」

糸から釣り下がる人形が現れる。

その奇妙な複眼は人間の不快感を煽るようなデザインであり、その人形はまるで一見すれば龍人のような姿だ。

巨大な爪と鱗のついた腕。そして紅に輝くは大きな尻尾……



「龍人の人形……それも人の命を弄んで作った物なの?趣味の悪さなら世界一ね」

「死人のプライドなどはなから無いだろう」

「さて、お前はどこまでやれる?」

釣り下げていた糸が切れ加羅紅が動き出す。


それは大きく腕を広げこちらに歩を進めてくる。その一歩は巨大であり、僅か一歩でソフィア様との差が一気に詰まる。

振り払われた腕を氷壁で受け止めるがいともたやすく砕かれる。

加羅紅の拳がソフィア様を襲う、それを氷壁で受け止めるも、その氷は一瞬で砕かれてしまう。

そして加羅紅はもう片方の腕でソフィア様を殴り飛ばした。

(……っ!)

「ぐるぅぅ」

加羅紅が苦しそうな声を上げると、人形の殻を破り背中から翼が現れる。


「……やっぱり、性格の悪さならナンバーワンね」

「言ってくれる、小娘が」

加羅紅の容姿は一変し、全身から強靭な皮膚が備わる。

そしてその足でソフィア様に肉薄する。




立ち上がらなければいけない、でも体が動かない。

『コハル様』

ゼラ……

『妨害が解除されたようです……ですが』

うん、分かってる。この状況は、もう積みだ。

どれだけ足掻こうと、どれだけ立ち上がろうとしても無駄だ。

『一つだけ、可能性があります』

可能性……。


『【命戯縫合】です。このスキルは想像した人形を作り上げます。命が宿り意思が生まれ、どんな物になるのか私にも分かりません』

『さらなる地獄になる可能性も捨てきれません』

『それに対価も能力と共に吊り上がる様です。が、それを気にしている場合ではありません』

『想像してください、貴方の思う、最強を』

――血反吐を吐きながら、コハルは僅かな意識を保ち、心の奥底で想像を膨らませた。


想像………圧倒的で無敵な、それは……

強い。何者にも屈しない存在。圧倒的で、理不尽を凌駕する力。全てを覆す最強の魔法使い。主人公の様に無敵で圧倒的で。美しい体、無限の魔力。目には宿るは、絶対的な威厳。その声は、神々をも黙らせる威力を持つ。その力は大地を裂き、その力は世界を守る。纏う光は悪を浄化し、影すら寄せ付けない。その存在そのものが、敵を震え上がらせる威圧感。強い。神話すら覆す存在。その足音は雷鳴を呼び、その一歩で地平が崩れる。目に映るもの全てを見通し、語る言葉は真理そのもの。無数の剣を振るい、千の呪いを打ち砕き、万の軍勢をひとりで薙ぎ払う。時間をも凌駕し、未来と過去を自在に行き交う力を持つ。輝く髪は星々の輝きを集めたようであり、その手には宇宙をも掴める力が宿る。流れる魔力は川のように途切れることがなく、触れるだけで生命を浄化し癒やす。しかし、敵にとってはそれは破壊の嵐、絶対に逃れられない天罰そのもの。その声が響けば、空気が震え、大地が揺れる。一言一言が法則を変え、世界の在り方すら書き換える。その存在が現れるだけで戦場は静まり返り、剣を握る者は膝を折り、魔法使いはその杖を捨てる。無限の知恵を持ち、創造と破壊を同時に行う力。彼女の怒りは天災となり、慈悲は奇跡をもたらす。その瞳に宿るのは、絶対的な威光と深淵のような静寂。敵対する者には容赦なく、すべてを無へと還す圧倒的な力を持ち、味方する者には、どんな絶望の中でも希望を見せる光となる。彼女の存在は単なる力ではない。それは信仰そのものであり、畏敬の象徴。世界の理を凌駕し、全ての物語の終焉と始まりを握る者。絶対に抗えない、至高の力。絶対に覆らない、無敵の存在。



「【命戯縫合:不理解の女王アルケイン・エンプレス】」

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TS転生した僕っ子サキュバス。手を差し伸べ続けたらいつの間にか大事に巻き込まれてました。 アイスメーカー @aisumeika

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