第33話
その言葉を聞いた瞬間ソフィア様が魔法を放った。
「はは、勘のいい小娘だなぁ。だが、もう遅い」
「【命戯縫合】」
突如、僕とソフィア様は黒い糸に包まれる。
「我が糸に絡められし者達よ、今こそその真価を示す時だ」
ラヴィアさんの言葉と共に、僕達は黒い糸に包まれ、そして……体内を何かが流れ始めた。
「ラヴィアさん!貴方は!」
「はは、随分なお人好しだなコハルよ。まあ、その優しさがお前の美点でもあるがな」
ラヴィアさんの言葉と共に、僕の体が変化していく。
「うぅぅぅ!」
「止めろっ!ラヴィアァ!」
「叫んだところで何も変わ……お?」
ラヴィアの意思と反しラヴィアは儀式を中断する。
(何だ、私の意思とは関係なく体が動いた?どういうことだ……)
ラヴィアは少し前の事を思い出した。
「あの時か……」
(恐らく絶対服従、契約の類か……なら)
何でやめた?……そうか、ラヴィアさんは僕の配下だ。
「
同時に言葉を発する。
瞬時に、棺が二つ現れる。
スタスタと歩き棺の扉を開ける。
(成功したはず、これは魔法の効果?自殺する魔法?いや一瞬ラヴィアさんの方が速かった?)
「待て!」
「もう遅い……」
ぼそっと呟いたその言葉は僕には届かなかった。
棺の扉が閉じ、儀式が行われる。
棺の中から絶叫と刃物で肉を切り裂く音が轟く。
「コハル……何が起こってるの?」
ソフィア様が力なく僕に尋ねてくる。
「分かりません、でも恐らく命令が下せました。自害しているはずです」
「それより、大丈夫ですかソフィア様」
ソフィア様は肯いて答える。
「ええ、何とかね」
棺から音が消えていくと同時に、その扉が開く。
中には幾つもの刃物に突き刺されたラヴィアさんの死体があった。
「うっ……」
「……いい気分じゃないわね」
「全くだ、だがこれでいい」
その声はもう一つの棺から聞こえた。
ラヴィア・アリエルの肉声だ……。
「嘘……」
僕とソフィア様は驚愕した。先の死体は間違いなくラヴィア・アリエルの物だった。
棺の扉をこじ開けて、中から彼女が現れた。
「服従の契約、そんな保険をかけていたとはな。驚いたよ」
「……そうです。負けを認めて、僕達の前から去っていって下さい」
何でこの人はこんなに余裕そうなんだ?
体中に悪寒が走る、この感覚はルシュディと出会った時と同じような。恐怖の感覚。
「ほう?契約術を使うのなら知っている物と思ったが、いや無理も無い。所詮近代の魔術師、あの時代には遠く及ばんか」
「教えてやる、契約術はどちらかが死亡した場合。死亡した方の契約だけが無くなり、生存している方は出来る限り続行されるという特徴がある。この場合私は一度死亡し契約は解除された」
「……は?」
ラヴィアさんは淡々と、そしてどこか楽しそうに言葉を続けた。
「つまりだ、コハル。私が一度死ぬことで、お前との契約は無効となり、今こうして私は自由に蘇ったわけだ。いい教訓になったな、それを披露する場は無いだろうが」
「それで、私達をどうするつもりなのよ」
「先ほど見せたはずだろう?人形にし手駒に加える」
僕は全力で戦闘態勢をとる。
「コハル……一つ言っておくわ」
「はい」
「もう二度と魔女の言葉は信じないでね」
「肝に銘じておきます」
(さて、儀式のクールタイムは長い。いっそ死体にしてしまうか)
「さあ、何百年ぶりの死闘だ。精々楽しませてもらおうか」
ラヴィアさんは冷たい笑みを浮かべると、こちらを睨んだ。
瞬時に体の臓物が全てひっくり返ったような強烈な吐き気が僕達を襲う。
体を支えられなくなり倒れ、そのまま血反吐を吐き出す。
「ほう、これに耐性が無いか。全く、なっとらんなぁ」
ラヴィアさんの冷笑が鋭さを増し、僕たちの苦しみを眺めるその目には、容赦ない残酷さが浮かんでいる。
この感覚は容赦なく続き、体中の力が抜け、まともに動くこともままならない。
「この程度で終わりか?お前たちには期待していたが、所詮は未熟な小娘というところか」
ゼラ……何か打開策は無いの?
『も……うし……訳ご…ざいません。私のスキル…の…使用が…妨害さ……れているよ…う』
そこで言葉が途切れる。
ゼラの声が途切れ、僕の心に焦りが広がる。
「誰に助けを求めても、お前達に正答は無い」
「さあ立て、足掻け。楽しませろ」
ラヴィアさんの視線がこちらへ向かってくる。
血反吐を地面に吐き捨て立ち上がる。意識がぼんやりと揺らぎ手足に上手く力が入らないが、無理矢理動かす。
大切な人を失いたくない、救ってくれた人たちを裏切る真似は絶対にしたくない。この意志とケジメだけは通す!
「ソフィア様、休んでいてください。僕が片付けます」
「コハル……まって」
ソフィア様は先の戦いでの疲労もある、立ち上がれないのも無理はない。
それに僕がまいた種だ、僕が片付けなきゃいけない。
「忘れたんですか?僕は貴方の能力を持ってるんですよ」
そんな事は無い、あくまで得られたのはあの人形の時のラヴィアさんの強さ。
今の強さじゃない……くっそ。
「はは、だったらもう少し楽しめるはずだぞ」
「
ラヴィアさんが呟くと辺りの景色が一変し僕は夜空の見える大地に立った。
「…え?は?」
嫌な予感がしてその足を動かした瞬間、大地はひっくり返った。
落ちる、すぐに魔法を発動しようとするが一切出ない。
そのままなすすべもなく僕は落ちていく。
「あああああああああ」
落ちる落ちる落ちる落ちる落ちる落ちる落ちる落ちる落ちる落ちる落ちる落ちる落ちる落ちる落ちる!
どうすれば、どうしたら、どうなるんだ!
そして落ちた先で見えてくる、空にある星。
避けられない、ぶつかる。あ、死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!
「がっ!」
その星に僕はそのまま落下する。体の全てに衝撃が響く。
腕と足があらぬ方向に曲がる、ドボドボと湧き水の様に血が落ちる。
手、足の感覚など何処にもない。
「あ……あ……」
言葉が出ない。体の一つも動かない。
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