第7話 自然の家・1日目 お風呂の時間

「次、7班お風呂入ってください!」

「茉莉花、のあちゃん、いこ!」

「ああ、入浴時間は」

 

 マジで言っているのかこいつら……カラスの行水じゃあるまいし15分って……馬鹿じゃないのか……学校の先生も少しは考えよ! 我は風呂に基本一時間半は入っているのだぞ! 15分って……!


「おかしいぞ、風呂の時間。15分なんだが……」

「ねー! 短いよね!」

「うん、私も30分くらい入ってるから、でもこういう時だから仕方ないよね」

 

 仕方ないのか? 我がおかしいのか? いやいや……風呂は心の洗濯ぞ? 我は腑に落ちない気持ちで着替えを持って風呂場に向かう。その時、我の班の男子。英雄と木村良治が風呂から上がったらしくコーヒー牛乳を飲んで涼んでおる。

 

「茉莉花に由香、それに中原さん、今から風呂?」

「そうだよー。覗くなよ!」

「覗けねーよ! な良治?」

「あ、あったりめーだろ!」

 

 なんか憂いな! 風呂を覗くなんて犯罪行為、流石にこのガキどもがするわけはなかろう。中原のあは木村良治の前だと俯いて静かになる。好きならこういう時にガンガン行かねばならんだろうが。我らが風呂に向かおうとした時、英雄が、

 

「なぁ! 夜に集まってみんなでウノしよーぜ」

 

 ったくこの悪ガキが、

 

「私はいっこうに構わん。由香にのあは?」

「えぇ、見つからないかなぁ? まぁいいけど」

「……私も大丈夫」

「じゃあお風呂が終わったらあとで」

 

 夜の21時から22時の間に各班交代で風呂、そして22時に就寝。流石に時間がタイトすぎるのではないか……我らが風呂場に向かうと、そこには、

 

「はぁ、なぜ中原あやがいる? クラスも違うし、時間も違うだろう?」

「ちょっとした魔法の応用よ。浴室の時間軸を変えたの」

「いや……何故同じ班の奴らと入らなかった? 只今より私たちの時間のハズだが?」

 

 ハブられているとはいえ、風呂くらいは入れるだろう。ほんと、こいつ一体何を考えているのか……無言で三谷あやは服を脱ぐと……いやいやいや、マジックで腕に目が書いてある。

 

「第三の眼よ」

「……そう、じゃあ」

 

 こんな馬鹿に付き合ってられん。風呂の時間は15分しかないのだからな。「行くぞ。由香、中原さん」

「あ、うん」

「はーい」

「ちょっとドロテア、待ちなさい!」

 

 ほんとやめて! 我らは服を脱衣所に脱いで、浴室へ。

 浴室は広かった。足を伸ばしてゆっくり入る事ができる浴槽。10人以上が同時に使える洗い場。こんな素晴らしい施設があるのに入浴時間15分。我らは囚人にでもなったのか?

 

「早く洗って風呂に浸かろう」

「そうだね」

「うん」

 

 普段は風呂で温まってから頭、身体、そして最後に再び風呂という黄金パターンで締めるのだが、今回は致し方ない。5分で身体と頭を洗って、入浴時間を長く取る。

 

「ちょっと! 私の話聞いてるの?」

 

 デン! とやってきた三谷あや、我も鬼ではない。故に、三谷あやには……「お風呂入りたいならとりあえずいいから身体洗って入れば?」と言ってやると目を輝かせる。


「さすがはドロテアね。同じ魔に生きる者は惹かれ合うのかしら?」


 惹かれ合わんよ。我が魔導を歩む後にも先にも崩壊しか存在せん。我には師匠もいなければ弟子もおらぬ。理の解明も現の根源も全て見てきたが何も感じはしなかった。我と同じ魔導に生きる者などおらなんだ。

 

「フッ」

 

 いかんいかん、思わず笑ってしまった。

 

「今、茉莉花笑った?」

「笑ってない」

 

 由香、地獄耳にも程があろう? 本来は班の人間ではない三谷あやも並んで我らは風呂に浸かる。

 

「ほふぅ……」

 

 誰かの吐息が漏れた。最高に気持ちがいい。そんな最高の環境をぶっ壊すのは由香の言葉。

 

「あやちゃんって、胸大きくない?」

「えっ? へっ? な、何を言っているのかしら? 園田由香」

 

 ン? あー、確かにこやつ我らとは比べものにならんくらいいい物を持っているな。早熟な奴め。しかし、見れば見る程でかい。同じ11歳とは思えんぞ。我がまじまじと見つめるので、三谷あやが、

 

「なっ、ドロテア! 見すぎよ! もう、せっかちなんだから、後でね」

 

 顔を赤らめて、我と夜伽でもする事を仄めかすようなセリフを残す三谷あや。いやいやいや、我は……そういえば我、魔法の研究に没頭しすぎて色恋沙汰という物を行った事は無かったな。まぁこの世界を滅ぼすのに今しばらくの猶予はあるわけだし、我も恋人という者を作ってみるか?

 

「三谷あや、それも悪くないかもね」

「えっ、ドロテア……」

 

 中身はどうあれ、三谷あやは中々、いやこいつよく見るとかなり美しくないか? 由香や中原のあも可愛いとは思う。が、三谷あや。こやつの容姿は別格ではないか? まだ11歳の年齢にして雌の匂いを撒き散らす身体をしておるし、

 

「茉莉花、そろそろ上がる時間だよ」

 

 はっや……通過したようなスピードで風呂の時間が終わってしまった。ありえん。これは実に不快だな。よく考えれば我には魔法があるではないか。タイムマジックで……いや、風呂の温度も質感も全て停止するからな。意味はないか、ええい今回は剛に従う事にする。さっさと着替えて、コーヒー牛乳を一杯やるとしよう。

 

「茉莉花、ちゃんと髪乾かさないとダメだよ」

「いや、我には」

 

 魔法で簡単に乾かせる事を知っている由香は中原のあと三谷あやに視線を移す。まぁ、確かに我が魔法を使える事をこやつらに見せても何も良き事もないだろうしな。わしゃわしゃとドライヤーを使って髪を乾かす事とするか、しっかりと乾かすと、ようやくお待ちかねの……

 

「茉莉花、それ買うの?」

「うん、コーヒーの」

「えー、じゃあ私フルーツ」

 

 ふっ、全くガキだなぁ。フルーツ牛乳は8歳で卒業したわ。やはり大人はコーヒー牛乳であろう? 

 

「私は牛乳」

「ふふっ、私も牛乳よドロテア」

 

 こやつら、頭沸いてるのか? いつでも飲める牛乳をチョイスするなんて……いや、我の識別眼が牛乳を飲む中原のあと三谷あや、そしてフルーツ牛乳を飲む由香とのパラメーターの上昇具合を見て愕然とした。

 牛乳、強すぎる! そして、我と由香より、二人の方が胸がでかい。そういう事か? ほほう。牛乳ね! まぁ、明日の晩は飲んでやらん事もないわ。

 ママから貰った貴重なお小遣いだからな。無駄にはできぬ故。本日は勘弁してやろう。

 

「茉莉花、のあちゃん。私、次の班にお風呂入るように伝えてくるね。ひーろと木村くん、多分待ってると思うから呼んできて」

「……うん、茉莉花ちゃん、いこ」

 

 あー、そういえばウノをするとか言っていたな。全く、臨海学校に何をしにきているのやら! 我のドロフォーで絶望を見せてやるとするかの。我らが着替えて自分の部屋に戻ろうとしているなか、

 

「ちょ、ちょっとドロテア」

「何、三谷さん。あとドロテアって言わないで」

 

 我の真名を連呼して長生きしているのは貴様だけだろうよ。それになんだ? 風呂まで勝手に入りよってからまだ我らに何か用があるのか? 何を申すのか待っていると、もじもじと三谷あやは、

 

「今晩、ドロテアの部屋に行ってあげても構わないんだけど」

「お断り、自分の班と部屋に戻って」

「……どうしても?」

「うん、どうしても」

「分かったわよ! 精霊の加護が私を」

 

 もういい。頭が痛くなってきたので、我は英雄と木村良治を呼びにく、しかし、男子と女子をわざわざ別の部屋にしているのに、見つかるとこれはかなり厄介ではなかろうか? 先生の見回りは案外厳しそうだが、まぁ。人除けの魔法くらい貼っておいてやるとするかの?

 ロビーでスマホを見ている英雄と木村良治。我らを見つけると、英雄は人懐っこく手を振る。木村良治は我と目が合うとそらしよって……生涯こやつとは仲良くなれる気がせんな。

 

「あれ? 由香は?」

「お風呂の順番、伝えに行った」

「そっか、じゃあ俺たちだけで始めよっか?」

「あぁ、私たちの部屋でやれば先生たちに見つからない」

「はぁああ? なんでそんな事言い切れるんだよ。月島ぁ?」

「そういう風になってるから」

 

 と我は面倒臭いので英雄をじっとみると、我に助け舟を出してくれる。本当に英雄と由香はよくできた友だ。

 

「良治、茉莉花の勘は当たるんだよ。マジで、じゃあ中原さんもいいよね? 行こうぜ! オヤツ出し合って夜更かしだ!」

 

 全く、英雄の奴め。

 それは良い提案だ。

 

「あーあー、英雄と月島って仲良いけど、男女でそれってダサくね?」

「は?」

 

 あぁ? 喧嘩売ってんのか木村良治め。我と木村良治が一触即発になりそうなところで、再び英雄が助け舟。

 

「ところでさ、あの子知り合い?」

 

 英雄が指さす先を皆が見ると、我は頭痛がしてきた。黒い寝巻きに身を包んだ。三谷あやが物凄く話しかけたそうな顔で我らの方を見ている。

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現代ラブコメに前世の魔法が必要な理由 アヌビス兄さん @sesyato

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