第6話 自然の家・1日目ナイトウォーク②

 ナイトウォーク、チェックポイントでハンコを貰い、最終的にはぐるっと回って元の場所に戻ってくるという、我からすればマヂで意味不明な夜の散歩なわけだが、確かにこの世界安全とはいえ、子供はこんな暗い時間に出歩かないわけでそれなりに気持ちが昂るんだろうな?

 

「ねぇねぇ! 月島さん、これ見てー!」

「何?」

 

 中原のあ、恐ろしく現金な奴だ。我が木村良治の事を好きじゃないと知った途端に友達ヅラしてくるのだが……こやつ長生きできそうだな。由香に至っては笑いを堪えてやがる……他人事だと思ってぇ!

 

「あと、チェックポイントは3つ、時間は20時を少し回ったくらい。普段なら勉強を終えて、パパやママとテレビでも見ている時間か」

「月島さんってどんなテレビ見るの?」

「世界の驚くべきニュースとか、世界の車窓からとか、海外の事を放映してる番組」

「……へぇ、アニメとかアイドルのバラエティとかは見ないの?」


 見ないな。もう少し幼い頃は年相応に見せる為に、食べれるパンが頭で新しいパンの頭を変えるだけで無限コンテニュースる怪人のアニメを見ていたが、全く興味がないな。あんな化け物錬金術でも作れんだろう。

 

「うん、見ないかな」

「なんか、昔から茉莉花って大人っぽかったよね」

「そうか?」

 

 まぁ、大人というか、なんというかだが……やはり大人は騙せても同じ時間軸を生きる者からすれば不自然さが出ていたか……

 

「由香はどんなテレビ番組見るの?」

「うーん、茉莉花が見ているような世界のバラエティ映像とか、のあちゃんの見てるようなアニメやアイドル系の番組も見るし、受験が控えているからニュースとかも見るようにしてるかな」

 

 そういえば、こいつ、いい中学に入るとかなんとか言っておったな。付き合ってやってもいいのだが、我は普通に学区にいれば進める中学に入る事になるだろう。どうやら、大学が人生の全てを決めるらしいからな。とはいえ、あまり苦労をする事もなく大学まで進めるこの世界は我が今まで生きて破壊してきた世界と比べて異質が過ぎる。

 

 ガサガサガサガサ!

 

 なんだ? 草陰から何かが蠢いている。教師陣の演出にしては凝っているが、そこから飛び出してきたのはイノシシ。こんな海の近いところに出てくるのか? 驚きだが……まずはパニックに陥るであろう二人に魔法をかける。

 

「キャアア………」

「…………」

 

 サイレント。悲鳴を上げないだけでも落ち着くだろうが、さらにコンヒュージョンをかけて、とりあえず騒ぎを起こさないようにする。さらに、三つ目の魔法を行使。

 

「悪いが獣、消え去ってもらう。学友が混乱している間に一撃必殺の砲撃魔法で決めさせてもらう」

 

 さて、イノシシよ。貴様は確か上手かったよなぁ?

 

「なぁ? 獣よ。美味かったよなぁ? 貴様ぁ?」

「…………」

 

 イノシシの奴は捕食するつもりの我を見て、尻尾を巻いて逃げよったわ。夜食に喰ってやってもいいのだが、まぁいい今回のみ見逃してやろう。

 あとはサイレントとコンヒュージョンをかけた二人を目覚めさせればそれで終わりだな。我は指を鳴らす。

 

「アンロック」

 

 すると二人の意識が戻ってくる。うん、誰にも見つからずに大きな事故にもならずに魔法を行使して終わらせてやったわ…………

 

「ドロテアぁあああ!」

 

 あぁ、ダメだった。

 どうしよ、黒いイブニングドレスに身を包んだ三谷あやがすんごい嬉しそうな表情で瞳をキラッキラ輝かせてこっちを見ておるわ。どの辺りから魔法を見られていたんだろうか? いちいちこいつに言い訳するの面倒だな。記憶消し去ってやろうかな?

 

「ここは?」

「……んんっ、茉莉花もしかして」

 

 小声で我に「魔法使った?」と聞いてくるので我は小さく頷く。すると由香は我を見て、目の前に何故かいる三谷あや。そして中原のあを見て少し考えると大声を上げた。

 

「えぇー! サプライズ出し物の催眠術の練習してたのに茉莉花、見られちゃったのぉ?」

 

 無理があるだろ由香よ。なんだよサプライズ出し物って、しかも催眠術の練習ってやらせか何かか? 

 

「え? えっ? 何? 私、あんまり何も覚えてないんだけど」

 

 中原のあはガチで数分間の記憶が朧げなので混乱しておる。ガチで催眠術にかかったように思っているみたいだが、当の三谷あやは? 我は恐る恐る半目で三谷あやを見てみるが……うーん、これは無理そうだなぁ。

 

「催眠術? 魔法の間違いよね? ドロテア」

 

 我の真名を軽々と呼ばれるの嫌だなぁ……特にこの中原あやに呼ばれるのが抵抗あるの。しかしだ。我とてガキ共の中で長く伊達に過ごしたわけじゃない。こういう時に話題を変える最強のスペル。

 

 恋バナよ!

 

「ミタニサンハスキナヒトイルノ?」

「ドロテア」

 

 そうかー、我の事好きなのかー! サンキュー。超迷惑だなー。話、終わっちまったぞ。どうしたらいいんだよこんな化け物。というかお前、我と班違うだろうが、班どころかクラスだって違うだろう?

 

「ソレニシテモミタニサンノハンノヒトワ?」

「闇の帷に置いてきたわ」

 

 そうかー、何処だよそれー。幾度となく世界を滅ぼした我でも知らない所に置いてきたわけか?? ほんとこいつなんなの? というか、なんで我らの班についてくるの? トントンと由香が我の肩を叩く? 何事か?

 

「三谷さん、同じ班の人に置いていかれたんじゃない?」

 

 …………

 …………

 置いて行ったんじゃなくて、置いていかれたのか。あれじゃねーか。迷子センターでガキがお母さんが迷子って言うやつじゃんかー! ふっと不適な笑顔で我を見て、我の何もかも分かってますよ的な顔をしている三谷あや、腹立つなー!

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