第5話 自然の家・1日目ナイトウォーク①
信じられん事に夕方の17時に夕食を食べさせるらしい。各自の席には小さなお櫃と小さな鍋のような物。そして入室した者から食事のプレートを受け取り自分の席へと向かうのか、うーむ。こんなに早い食事とは……我に夜にオヤツを食べろと言っているようなものではないか!
「うお! めちゃうまそう!」
「そうだね。木村君」
中原のあが大声を出すウチの班のトラブルメーカーにそう言うが、奴はすぐに我につっかかってきた。
「月島、どっちが早く食べ終わるか勝負だ!」
「しないよ。私は味わって食べるんだ」
「おい、木村! せっかくのご馳走なんだしお前も味わって食えよー」
「そうだよ木村君!」
「あははー! そうかな? そうだよなー!」
由香と英雄は本当にいてくれると助かる。何故だか我が話しかけてもまともに木村良治を操ることはできんからな。もういっその事、魔法でチャーム(魅了)でもかけてしまおうかと何度思った事か……
さてさて、今日の晩飯は……
・お櫃ごはん。
・一人用すき焼き
・お味噌汁
・ハンバーグ
・エビフライ
・ポテトサラダ
・フルーツヨーグルト
おいおいおいおい! なんだこの豪勢な飯は! 昔、どこかの宮殿を襲った時、そこの料理長に作らせた最高の料理とかいう物がクソに思えるくらいじゃないか! くそー! うまそー!
「手を合わせてください!」
合わせる合わせる!
せーの!
“いただきます!“
どれ、まずは落ち着いて、味噌汁からだな。うん、インスタントじゃない。ちゃんとした味噌汁だ。我のママが作る物よりやや濃い目の味付け、色も赤みが強いしな。悪くない!
「そういえば、飯食った後のナイトウォーク、ちょっと楽しみじゃね?」
英雄が我ら全員に笑いかけてそう言うので、皆頷く……が、我的には夜に出歩くとか危なくね? と思うのだよ。この世界でも獣や毒蟲は当然いるし、驚いた事に少年嗜好、少女嗜好のど変態も同じく存在している事を最近我も知ったからな。こやつら、それなりに良い身なりをしておるし、見てくれも悪くない。
しかしだ。我も十一年この世界で生きたから分かるが、危険に対して疎くなるわな。パパとママに愛されて何不自由なく生きてきた。世界全てが美しいと我ですら錯覚したくらいだ。
しかし……エビフライうめぇ!
もっもっも! と我が皆がナイトウォークで盛り上がっている中興味なさそうにというか、飯の方が興味があるからな。食ってたら、木村良治が煽ってきよった。
「おい、月島! お前、さっきから黙ってるけど、夜に出歩くの怖いんじゃないのかぁ?」
は?
はぁああああああ!
我があ夜が怖いだと! ぬかしよって! もうこいつなんなの! ハンバーグをお箸で切り分けて一口大に、そしてパクリ。
「別に怖くないけど?」
「ムキになったっ事は怖いんじゃねーか!」
あー、殺して〜!
即死魔法でも使ってやろうかなこいつ。由香と英雄、なんでニコニコしてんだよ。そこは、木村君、なんでそんなこと言うのー! とか、木村! 茉莉花に謝れ! とか言えや! お前ら、まかりなりにも我の友達であろうが!
そしてだ。
むすーっとして我を見ている中原のあ、こいつが一番分からん、意味不明に我の事を忌み嫌っておるからな。なんかこの感じ幼児園の時にもぶつけられたような記憶があるが……
まさか!
中原のあ、英雄を好きなのか? だとすると厄介だぞ! 由香と英雄はもう幼稚園の時にはいい感じになっていまだに続いておるわけだ。恋仲というわけではないが、いつも我と一緒にいるしな。
もし、中原のあが由香と英雄を取り合うような事になると、それは死ぬほど気まずいじゃないか!
まずい。
どうすれば……妙案だ!
「男子と女子、別々にナイトウォークすればいい」
我と、由香と中原のあ。
そして木村良治と英雄。
このペアで時間差でナイトウォークをすれば悲しい結末には至らぬという我の天才的な提案だ。
「おい、月島。それだと!」
「何? もしかして、木村君。英雄と二人だけだと怖いの?」
「こわ……って、そんなわけねーだろ! いいぜ乗った! じゃあ俺と英雄。月島と園田に中原の二組でナイトウォークだ」
ふぅ、悲しい結末にならぬように我の采配にてナイトウォークで揉めるような事が起きなくなった。ナイトウォークは19時から21時までの二時間近くある。そしてそれが終わったら風呂、就寝。こんな興奮冷めやまないイベントを入れてきて、教師陣は何を考えているんだろうな?
食事が終わり、しばらくの食休みの後。
施設まわりを探索するナイトウォークが始まった。
ドコドコドコ!
と教師陣の仕込みらしいBGMにどこぞの原住民の声のような物が聞こえてくる。それに足がすくんで泣き出すガキ共もいるぞ。やべぇな。本当に臨海学校のイベントなんの意味があるんだ?
我らの出発の時間。
「きゃ!」
「由香、ただの羽虫だ」
ライトを持つ由香に向かってきた蛾を我はつまみ、空に返してやる。我の少し後ろを歩いている中原のあがトテトテトテと我の横まで来て、我をじっと見つめる。
「何?」
「……あの、月島さん、木村君の事どう思ってるの?」
「いちいち絡んできてうっとおしい、消え去ってほしい」
「こら、茉莉花! 言い過ぎ」
いやだって……
「え……木村君の事、好きじゃないの?」
「今の話聞いてた? 好きになる要素がない」
我のその話を聞いて、中原のあは、めちゃくちゃ笑顔になっていく。そして我も察した。
あーそう。
そう。
そういう事ね。
マセガキが!
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