第4話 自然の家ともう一人の魔法使い?

「手を合わせてください」

 

 この食事前の掛け声、並の宗教を上回るな。我の記憶が正しければ既に幼稚園の時には完成していたような気がする。

 返しの言葉。

 

“いただきます!“

 

 命をいただきますという意味らしいが、まぁ我もさすがに八年近くこの儀式を繰り返しているので定着もしたわな。さて、臨海学校の宿泊施設、自然の家での最初の食事は……ボックスランチタイプのお弁当だ。下にサフランライス。焼き鳥と魚のフライ、ポテトサラダまで一つのボックスに入ってやがるな。本来、我ら小学生が配膳やら何やらを行うのであろうが、到着の第一食は準備されているという事か、まぁ、教師陣の手抜きとも言えるが、まぁ大人には大人の面倒ごとがあるのであろうな。

 

「コラー! 吉田、スマホはしまえー」

「はーい」

 

 テンションが爆あがりしている連中は友人同士で自撮りとか始めよってからに、全く食事時に行儀の悪いことだ。しっかし長いテーブルがいくつも並んでおるな。我が班の連中以外にも部屋全部で2クラス、全生徒が収容されておる。

 男女男女で座らせているのは何か意味があるのだろうか?

 まぁいいか、昼食の味は……うん、まぁ普通に美味いな。

 しかし、しかしだ。

 

「んふっ!」

 

 めっちゃ我の事を見てくる他クラスの女子生徒。いや、自意識過剰であろうか? 我の斜め前にいるので視界に入っているだけだろう。

 すっと我に紙を送ってくる。

 うん、我の勘違いじゃなかったわ。しかしラブレーターか? それとも果たし状か?

 

【わたしもまほうつかい】

 

 !!!!!

 

 なん……だとぉ……

 

 よく見るとこいつ、なんか他の女生徒達と服装が明らかに違う。黒を基調とした服装。フリルとリボンが異様に多く、小学生の癖に化粧まで施してやがる。

 こやつまさか……黒魔術系の魔法使いか?

 

 ※地雷系

 

 そしてその手紙には、食事の後、割り振られた部屋で荷物の整理とシーツ配布の後の休憩時間に自然の家の外に我を呼び出す文言が書かれていた。我以外にも魔法使いがこの世界にいるのか? いや、いるのだろうな? 今のところ一度も会った事はないが、この世界。魔法という概念に関しては超魔導士である我ですら舌を巻くほどに理解がある。

 幼稚園の時に由香と英雄に我が魔法使いであると指摘された時は焦ったが、今回はどうも様子が違うな。

 

「ねぇ、茉莉花。さっきの手紙なんだったの?」

「……我が、魔法使いであることがバレている」

「えっ? なんで? どうして? 何処で?」

「わからん。声が大きい由香」

「あっ、ごめん」

 

 配布されたシーツを畳んでいるときに由香が大声を出すから、同じ班の中原のあは不思議そうに我らを見つめ、他の同室の女生徒達も同じような表情を浮かべていた。そして、こういう女子だけが沢山集められた部屋では、

 

「ねぇ、みんなって好きな人いるの?」

 

 とまぁ、恋バナが始まるのが世の常なのだろうな? 付き合ってやっても良いが、我には先約があるからな。我の荷物を纏め、邪魔にならないところに置くと、「由香、先ほどの奴に会ってくる。ここを少したのむ」と言って由香の笑顔を返事がわりに我は自然の家の外へ向かう。そこではスマホをいじっている先ほどの奴の姿。

 

「貴様は?」

 

 !!!!

 

 なんだか、凄い嬉しそうに瞳を輝かせよった。こやつ、交戦的な魔法使いか? 我は身構え、高速で魔法詠唱を自動化。

 

「三谷あや。というのは仮の姿。本当の私はウィッチクラフトを操る魔法使い」

 

 ウィッチクラフトだとぉ? 通りで暗黒系魔法使いがよくする黒を基調とした格好をしていたわけか、それもウィッチクラフトは魔女の希少魔法。この世界の魔法、どれほどの物か見せてみよ。

 

「その力、見せてみよ」

「あははは! そんな簡単には見せないわよ。それに私、前世は魔女と王の間に生まれた姫だったの! それで、私をめぐって騎士達が取り合っていたの。そんな中で私が唯一愛した王子ユリウスと叶わない恋の果てに二人で……ね?」

 

 ほぉ、悲恋の魔法使いという事か、しかし、転生魔法をこやつも使えたという事か? でなければ過去生をここまで鮮明に、今見てきたかのように語る事もできるまい。

 

「目的は?」

「貴女、普段は大人しいのに、特定の子といる時だけ、言葉遣い変わるわよね? 隠しているつもりでも私にはわかるのよ。第三の目で」

 

 第三の目!

 なんだそれは、聞いた事がないぞ。

 しかもこやつ全く魔法力を感じさせない。いや、魔力を隠しているのか? こんなに完璧に? ありえん。我ですら不可能な頂に到達したとでも言いたいのか? 舐めよって……我を舐めよって……

 

「御託はいい。貴様の魔法を見せてみろ」

「……ふふっ、あんまり吠えると弱く見えるわよ?」

 

 くっ、こいつ。

 

「じゃあ、仕方がないから見せてあげるわ! アーユル・セグヴェータ・イオ・ドゥラシオス! ほら! 精霊が集まってきた!」

 

 えっ? どこに?

 いや、そもそも魔力を感じないんだが、なんか三谷あやという小娘、何かを見えているのかイッちゃった目で何かに触れているが、我には何も見えぬ。なんだか分からんが、敵意があるわけじゃないらしい。

 

「話がないなら、我はいく」

「我、いいわね! 私の本当の名前はセリアンよ」

「超魔導士・ドロテア・ネバーエンドだ」

 

 なんかめっちゃ三谷あやはゾクゾクして嬉しそうな顔をしているが、意味が分からんから、我は部屋に戻るとするか、そしてスマホで由香を呼び出した。由香は我の分もパックのオレンジジュースを買ってくれてそれを飲みながら我の話を一部始終聞きき終わり、

 

「あー、同じ部屋の子に聞いたんだけどさー」

「ん?」

「中原さんって、いまだにゴッコ遊びとか卒業できない子みたいで、綺麗なのになんかそういう……前世がお姫様だったとか、魔法が使えるとか、気に入った子……というか、自分と同じタイプの子によく言う子らしいんだよね」

「ん?」

 

 それって、あのセリアンという名は全部作り話で? 我はそんな事も知らずに、我の真名を平然と答えてしまったのか……まぢか……夕方のマークテーリングの時に三谷あやが由香と我の間に無理矢理入り込み、こう耳元で囁いた。

 

「ドロテア、夜のナイトウォークで悪魔とお話ししましょ」

「いやだ、去れぇ!」

 

 なんだこいつ、怖ぇ……

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