第3話 超魔導士とバスの乗り物酔い
3泊4日。服と下着は念のためにと5日分。まぁ、ママが用意したわけなので、無碍にするわけにもいかないが、やや重い。ここは筋力増強の魔法を使っておくか。
「ストレンジ」
よしよし、羽のように軽くなった。着替え以外にはお小遣い3000円。こんな破格のお小遣いはお年玉以来だな。パパとママに何か美味い物でも見繕ってやるか。
水筒、そしてオヤツ。なんと400円分!
四日分という事なのだろう。
まぁ? 小学五年生のガキ共なんぞ美味い棒をメインに組み立てるのが主なオヤツなんだろうが、今回我は大きな100円程のオヤツを四つもっていき、1日、1日に全力でそのオヤツに向き合う事にした。11歳しか生きていないガキ共には分からんだろうな! 我のこのさいっこうの計画が!
普段とは違いよそ行きのワンピースを着た我がリュックを背負いながら歩いていると、見知らぬ男、歳のころは十代後半から二十代後半の間だろうか?
唐突に挨拶をしてきた。
「おはようございます!」
「……オハヨウゴザイマス」
と我が返すと、ニチャリと笑う。
キメェな。
男は回れ右をして、去っていく。なんだったんだあの男は? いつも通りの通学路。そろそろあいつらが……
「おはよう茉莉花! そのワンピ可愛い!」
「おはよう由香。ありがとう。由香も中々にお姫様ちっくだ」
「まーりか! ほれ! お前にもやる」
「おい、ひいろ既にオヤツ食ってんのか? アウトだろそれ。まぁ貰うが」
と水飴という名のクソ硬い飴をくれるのでそれを我もしゃぶりながら一緒に行こうとするが、後ろにもう一人いた。
「月島……よぉ」
「木村良治。おはよー」
「ブ、ブスの癖になにはしゃいでそんな格好してんだよ……」
「は?」
こいつ我と戦争でもしたいのか? 言っていい事と悪い事があるだろうが、元の我程でないにしても月島茉莉花はどう考えても美少女だろうが……あー、こいつガキだから女の良さがわかんねーのか、ったく。
ガキだなぁ。
ガキか……咄嗟に即死魔法詠唱しかけたけど思いとどまったわ。
「き、木村くん!」
俺たちのはるか後方。後ろにいるのは……中原のあ。あまり者として扱われた不憫な奴だ。
「おう! 中原おはよう!」
ほんと、コイツ。我にはおはようの一言もないであろう? なんだこいつ、我、お前に何かしたか? 怒りをなんとかラマーズ法の呼吸で我慢している中。
「中原さんおはよう」
「……おはよ」
「中原おはよ」
「うん、おはよ」
「ナカハラサンオハヨー」
「…………」
と我が言うとキッと再び睨む。
なるほどな、キッと睨むやつか……
うん、うんうん。
なんなのこいつらぁああ!
イラっとするわぁ。世界が世界なら滅ぼすぞクソがぁ。まぁいい。クソガキ共の言う事をいちいちまに受けていたら日が暮れる。今日から三泊四日の臨海学校を心より楽しもうではないか、パパとママに旅行に連れて行ってもらった事はあるが、完全に親元を離れる機会というのは初めてだ。
夜はゆっくりとこの国、果ては世界の大きさを知るとしよう。
しかしだ。
体操座りという囚人のような座り方を強要されるのが小学校のヤバいところだ。魔法も使えないお前たちが腰痛になったらどうするつもりなのだ?
今後、この座り方は間違いなく無くなっていくような気がするな。全ての生徒達が時間通りに集まってくると先生達引率の元バスへ……
「でっか」
凄まじい大きさのバス。その辺を走っている路線バスより目線が明らかに高いな。こんな物を何台も用意できる財力。学校という組織は教会権力クラスなのか?
「みなさーん! これからみなさんは色々な経験をしに行きます! 遊びに行くんじゃないのでしっかり考えて行動しましょうね! 水城くん、早々にオヤツを食べない!」
英雄のばか。
ワハハハハハハハと笑い声が響き渡る。
しっかし、あぶっねー! 我もチョコリエール食べるところだった……、バスでオヤツ食べたらダメだって早く言えよ先生。あと一歩遅かったら我が笑い者にされていたではないか!
さて、我の班の連中は英雄と木村良治ともう一人の男子が座り。我は窓側、真ん中に由香。そして通路側に中原のあ。
我には全く持って分からない感覚だったのだが、バスが発信して一時間もすると、
「先生、気持ち悪い……」
「大変、こっちに来て」
「先生、私も」
おいおい、なんかパンデミックみたいなの始まったぞ。大丈夫かこのバス……何か病気。あるいは、呪いか?「ねぇ、茉莉花。お願い。みんなを」……我は破滅の超魔導士ドロテア・ネバーエンドぞ? なんでこんなガキ共の為に我の至高の魔法を使うと思ったんだ由香?
我がそんな善人に見えるのか?
馬鹿め。
「じゃかりこあげるから」
「症状から察するに、状態異常と考えられる。なら……この辺りか、全ての病源を取り除かん」
“オールライトヒーリング“
我が思考の状態異常回復魔法にて、誰一人して後に知った乗り物酔いでゲロする事はなかったわけだ。我らは安心して臨海学校の宿泊施設に到着した。
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