小学五年生編

第2話 破滅の超魔導士 11歳 臨海学校の班決め

「イッテキマース」

「茉莉花ちゃん、いってらっしゃい! 今日もとってもかわいいわよ」

「ソンナ、テレチャウヨ」


 我は小学生になってから五年目、11歳となった。以前と違い、真っ黒な髪にも慣れてきて、最近はママがやたらと二股髪型を作りたがる。なんでもいいのだが、このランドセルという鞄、前世の世界で欲しかったくらいファッショナブルだ。

 物も沢山入るし、何より肩が全然痛くなーい!


「茉莉花、おはよー」

「おはよう由香」

「茉莉花、今日も秘密基地で魔法みせてくれよな!」

「ひいろ。いい加減、魔法飽きろよ」


 我が腐れ縁の由香と英雄が仲良く登校、そして我を見つけると、さらに並んで登校。いつもの風景。幼稚園は億劫としたが、小学校の授業は少しばかり我も楽しみである。特に理科と社会。これはたまらない。この世界の現象の初歩と政治経済の初歩を学べる。

 私は社会科の教科書を読みながら、日々のニュースをチェックする事が最近の日課だ。

 本日は算数の小テスト、国語の授業は読書感想文。これでも我はこの数年間小学生を観察し、それ相応の態度を取る事を覚えた。

 目立たぬように、優等生として日々を過ごす。学生生活においてイレギュラー無き状況においては魔法を行使する必要はない。子供の身体は加護を使って強化するより、日々の健全な生活で育てた方が質がいい。

 これは魔法無き世界で知った境地である。


「月島、今日の算数の小テスト。負けないからな!」

「頑張ってね」


 木村良治、11歳。なにかとつっかかってくる。男のガキ。この前も50m走の記録でつっかかってきた。奴は7‘50秒。我は7秒ジャスト。悔しがって次は負けないとほざいていたが、実際お前は間違っている。いずれ我はお前に加護をつけなければ身体能力で上回る事はできないだろう。周囲を見て少し分かった。女子の方が幼児期からの成長が少し早い、がこれは成長終了も早いという意味だろう。我の世界でも女は子を成す為に、男は女を守るように遺伝子に組み込まれている。

 どうやらそれはこの世界でも変わらない。


 だが……頭脳の方はどうか? 言わずもがな、我は1000年以上生きてきた超魔導士。結果として、算数の小テストなど恐るるに足らん。


「月島さん、今回も満点です」

「アリガトウゴザイマス。センセ―ノオシエカタガジョウズダカラデス」

「まぁ、ありがとう!」


 自身満々で木村良治はやってきて、我に満点の答案をみせてくる。


「今回は引き分けみたいだな!」

「そうだね」


 こいつのウザ絡みはいつまで続くのだろうか? 引き分けという事に何故か納得して木村良治は自分の席に戻って嬉しそうに算数の小テストを眺めている。

 気色悪いやつだ。

 朝礼が終わると担任の花町先生が、大量の冊子を我等に見せる。

 そして黒板に……


“臨海学校”


という文字が書かれる。小学五年生最大のイベント。宿泊学習らしい。学習と言ってもキャンプやらハイキングやら、勉学の時間は殆どないらしく何が目的なのか我には皆目見当もつかないが、


「同じ班になろーぜ!」

「おう!」

「三泊も家から出たくないんだけどー」


 死ぬほど喜んでいる者、行きたがらない者に分かれるようだ。なにやら男子2人、女子2人の4人班にするらしい。我の場合は由香と英雄と一緒の班になるとしてあと一人。男のガキを含める事になるのか、クソ面倒だな。


「じゃあ今から班を決めますので班になりたい人同士で集まってください」


 出たな。

 これ、だいたい一人余る奴がいるんだよな。この世界においてはそれでも生きているようだが、我の元の世界であればハミった奴は大抵ろくな人生を送らぬからな。野垂れ死ぬのが関の山だ。


「おい、俺も班に入れてくれよ」


 木村良治、我に絡み散らかすクソ面倒なガキ、お前、我の事嫌いであろう。なのに、何故我の班に……はっ! 園田由香か、全く色気づきおってからに。


「いいぜ、良治。同じ班とかはじめてだな」

「おう!」

「木村くんよろしくね」

「あー、うん」

「よろしく」

「林間学校でも勝負だからな! 月島」

「えっ……」


 は? おまっ……我にだけ態度違いすぎるだろうが……煉獄の炎で焼き尽くしてやろうか……

 いかんいかん。

 

「ひっひっふー」

「どしたの茉莉花?」

「いや、なんでもない」


 ガキの言う事だ。冷静になろう。我があと一歩のところで踏みとどまっていると、花町先生が予想通りの事をクラスに報告する。俯いている女子生徒を連れて教卓の前より……花町先生、ほんとやめてやれ……

 

「中原さんがあまってるけどどこかの班に入れてあげて」


 やめてあげて! それ、言われている中原さんが一番つらいやつだからな。そんな中、木村良治が手を挙げた。一体何を言うのかと思ったら、


「俺達の班、入れてやっていいぜ」


 ほぉ、我に対してはクソウザいのに、こやつ、中々良い奴ではないか。こやつクラスで我を除き一番足が速いという謎の理由でモテておるが、そんな木村良治を見る中原さんの表情が乙女のそれに代わりよったな。

 そして我を……何故か睨んだ。

 まぁ、なんだ。

 しかし、こうして林間学校の班決めが終わった。

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