現代ラブコメに前世の魔法が必要な理由
アヌビス兄さん
第1話 吾輩は破滅の超魔導士である。今は月島茉莉花、3歳
……超…導……計……
なんだった?
目を覚ます。
すぐに覚醒……
「あsdfghjkl;」
見知らぬ国か? 言語情報の取得……これまでの国家、少数民族言語、古代言語。
該当なし……この超魔導士ドロテア・ネバーエンドに出来ぬ事はなし。超学習、言葉の音、感情から意味の予測変換を開始。
……しかしなんだ。ふぁーあ。眠い。
「あらあら、寝ちゃったわこの子」
「君に似て、きっと絶世の美女になるぞー」
嗚呼、我。超魔導士ドロテア。何度となく使いまわしたホムンクルスで作った自分のコピーに劣化を感じ、無限に生き続ける為の転生魔法の実験中になにかやらかしたらしい。我が何処かの世界の赤子となっている事に気づいたのはそれから数時間後、授乳プレイという屈辱を受ける事になってからなのだが、この身体を成長させる為には致し方ない。
恐らくこの身体、虚弱すぎて生命活動を停止した個体だったと見受けられる。我の持つあらゆる魔法加護と、機能していない臓器の一部を体内生成したホムンクルスにて置き換えて生命を繋いだらしい。
我の生への渇望、思いっ知ったか!
生きる為に一番重要な事は食う事なのだが……
「茉莉花ちゃん、はいアーン」
「あー」
この世界の飯、クソうまいのである!
粗末なパン粥かと思いきや、あらゆる野菜、魚介がふんだんに使われ、そして栄養価も高い。うまい! うますぎる。我が食欲は底を知らず。我を生み育てた人間の大人達は我が名を
魔王を屠り神々を汚し、邪神すらも犯し滅ぼした魔法の母。
数多の世界を滅ぼしたこの超魔導士ドロテア・ネバーエンド、この世界も我が人生の礎に滅ぼしてくれる事をな!
「
ふん、また離乳食とやらか。まぁいい、この世界の思い出の一つに……
「はいあーん」
「あーー」
は?
うんまぁああああああああああ!
なんじゃこりゃあああ!
世界の美味いと美味いが競い合っているようにその頂点にある美味さだ。あの世界のアレとか、前の世界のアレとかクソにも思えるような美味さ。まさに神話級、こんな物がある世界を壊そうとする奴がいれば我が破壊してやるわ。我はとりあえずこの世界の破壊を保留し、しばらく身体の成長。そして置き換えた臓器が馴染み、完全に同一化するのを待っていると、三年の歳月がたった。
「じゃあ。茉莉花ちゃん、今日から待ちに待った幼稚園の日でーす!」
「ワーイ、ヨウチエンダ。ヨウチエンダ」
マジか、我。
幼児を集めて保育する場所にこれより三年間従事する事になるらしい。まぁ、しかしパパとママ以外の人間を知らぬ故、他の人間。そしてこの世界の状況を知るにはもってこいだ。所詮、人間の寿命なんぞ四十かそこらだ。現在、二十代のパパとママもあと十年から二十年で果てる事だろう。その頃には我も成体となり、この世界への未練もない事だろう。お買い物として何度か外出をした事があるが、食事処、ファミレス。買い物市が凝縮したスーパー。今のところ我の知識の領域拡張に幼稚園。
ママの運転する、車という摩訶不思議な乗り物に乗り、キリンやら絵本で学習した動物の絵が描かれた建物。
予想するにここが幼稚園であろうな。
今まで着た事のない制服、これが幼稚園の正装だろう。
それに身を包み、いざ参る。
「これから、三年間お世話になります」
「オセワニナリマス」
「あら、
「親バカかもしれませんが、本当に手のかからない子で」
そりゃそうだろう。我、今までどれだけの人生を生きてきたと思うのか、食事マナー、身だしなみ、日常生活における各種家事全般、魔法で自動化しつつ完璧を意識してきたのだからな。そんな我は、転入という形で五月から幼稚園に世話になった。
月の島に咲くジャスミン。
月島茉莉花として。
実に美しい名前だ。
という前世の名前に勝らずとも劣らぬ。
ん?? 我があれだな。現実逃避している理由。
幼稚園の感想があるとすれば……もうやめたい。
お歌を歌って、謎のダンスをさせられ、積み木で遊び、今はクレヨンでお絵描きだ。
控えめに言って頭がおかしくなりそうだ。
ざわざわと騒がしい。なんだなんだ? ガキどもが集まってきたぞ。我もガキだが……幼稚園のなな先生が我のクレヨン画を見て青ざめている。
「茉莉花ちゃん、それ描いたの?」
「ウン」
あっ、やっちまったかこれ。
女児達の中で人気の高い男児。水城英雄(みずきひいろ)。こやつの似顔絵を描くという謎の遊びに誘われ、嫌々だが我もこの中にまじって不自然無きように絵を描いていたのだが、このクレヨンとやらの描き心地に心奪われ、魔法の補助も含め、全力で描いてしまったそれは生き写しの如く……
「茉莉花ちゃん、凄いな。これ、俺にくれよ」
「ウンイイヨ」
やるやる! ガキんちょがもって帰ればくしゃくしゃになってその内、無かった事になるだろうよ。しかしだ。この一件より、我は面白い状況に巻き込まれる事になる。
それはオヤツの時間。
「まりかちゃん、きらーい」
「わたしもきらーい」
「みんななんでそんな事言うのかな? まりかちゃん、えーん、えーんしちゃうよ?」
いや、しませんけど、まぁ……
「エーン、エーン」
と言っておくか、あれだな。先ほど、ひいろに似顔絵を描いてやった事が起因で嫉妬をしているのだろう。我、友達とか別にいらんし、というかこんな幼児と同じレベルで行動してたら頭がパーになりそうなので。これはこれでいい。
「だってぇ。だってぇゆかのほうがひいろくん、すきだもん。わーん!
おぉ! ストレートに告白しよった。まぁ、あの絵は確かに歴代我の中でもトップクラスによく描けたと自負があるが、この由香という女児もガキンちょが描いたにしては随分達者だと思うがな。
「ソノエジョウズダトオモウヨ」
と言ってみるが、
「!!!! こんな絵!」
とビリビリに
「タイムマジック」
と時間を止める。全く、破滅の超魔導士と謳われた我がこんな事をするのは野暮だがな……園田由香が破った絵を「リサイクル」と元に戻す。そして園田由香をちょんと揺れ、時間を止めた魔法の中で行動できるように魔法をかける。
「なぁにこれ? やぶったハズなのに……」
「園田由香」
「まりかちゃん? みんな動かないよ?」
「我が止めた。その絵。水城英雄に渡してみろ。きっと受け取ってくれる」
「もらってくれないよ……まりかちゃんのほしいっていってた」
「ならば本人に聞くと言い」
我は水城英雄をちょんと触れる。驚く水城英雄に我は言う。
「園田由香が水城英雄に絵をもらって欲しいらしい」
「えぇ、俺。いらな……」
パチン。
「ん? これレッドとゴールドの枠だ。欲しい! 俺。由香の描いた絵も欲しい! それくれよ」
「ゆかのもらってくれるの?」
「うん。ほしい!」
ふぅ! 枠を赤と金色に魔法で塗ってみたのは正解だったな。男のガキ共、こいつらやたらレッド色好きだからな。安堵している我を由香と英雄が見つめる。
「茉莉花ちゃんは魔法使いなの?」
「……何故それを、この世界魔法概念がないハズなのに、幼児と侮っていたか……」
「すげぇ! 茉莉花魔法使いなのか?」
「いや、まぁ。そうだ。だが他の奴等には内緒だぞ? いいな?」
そう、この幼児共。我が魔法使いであるという事を鋭い洞察力で気づいた。
水城英雄と、園田由香の両名がこれから我の腐れ縁となるとは思いもしなかったがな。
いつ我の事をバラすかハラハラしながら、我の幼稚園3年間は終わり、我は小学生へとクラスチェンジする。
これは、あれだ。我、破滅の超魔導士ドロテアが月島茉莉花として短い人生を終えるまでのこれからの我の覇道への通過点のような。
まぁそんな……どうでもいい……話だ。
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