第16話 ライク村の落とし前②
【語り手:イザリヤ】
「イザリヤ!」
「何だレイズエル」
「しばらく、『絶対能力:防御』を一人で持たせられる!?儀式魔法で一気に片を付けるから!」
「必ず貫通はしてくるぞ、それでもいいんだな」
「仕方ないでしょ!」
レイズエルが何を使おうとしているのか分からないが、信じるほかあるまい。
私は出力を上げて『絶対能力:防御』を維持する。
淑女はどんどん近づいてくる。
足の釘が残っているので速度は遅いが、槍の射程には入ってしまっているのだ。
(早くしろよ、レイズエル………)
また一つ、槍が貫通してレイズエルをかばっている私に刺さる。脇腹だ。
『治癒魔法:大回復』を防御と併用して使って治す。
とはいっても、淑女が結界まで辿り着いたらおしまいだ。
レイをチラリと見たが、床に紋様を書いている最中だった。
【語り手:レイズエル】
私は焦りながら魔法陣を構築していた。
最上級の儀式魔法だ、紋様はややこしい。
イザリヤが傷つきながら回復魔法を使っているので、私もあせる。
………あ、ダメージ過多でイザリヤがバンパイアモードになった。
その間に魔法陣が完成する。
「くらえ『儀式魔法:ディスインテグレイト(原子分解)』!!」
書いていた魔法陣から積層型魔法陣が出現、効力を発揮する。
悪魔にも滅多に使い手の居ない秘術である。
魔法陣が体を包み込み、あっけなく淑女は光の粒子になって消え去った。
「ふぅ………」
イザリヤが血の麦でダメージを回復『定命回帰』をかけ直す。
私も自分に回復魔法をかける。
「さぁ、あとは色彩花刃・白を捕縛して神を召喚してもらいましょう」
「色彩花刃・黄はどうするんだ」
「神の召喚の後で、プチっと潰せばいいんじゃない?」
「わかった」
先に進むと、白装束の男女が激しく言い争っている部屋を発見した。
どうも逃げる逃げないで争っているようだ。
どっしり構えているのは、恐らくこの国に君臨する祭祀であり国王だろう。
「ハロー、みなさん。抵抗しないで捕縛されてくれると嬉しいな」
部屋を覗き込んでそう言うと、ウィルオウィスプが大量に召喚されてこっちに向かってきた。
10レベルの時に撃破した相手よ。
わたしたちの『魔法個人結界』を貫通できるとは思えない。
『シェイド(闇の精霊)』を召喚して相殺する。
そしてその場が静まり返る。
【語り手:イザリヤ】
わたしは奥の玉座に座っている男―――多分国王―――に声をかける。
「手荒に突破したのは詫びる。だが私たちには神の召喚をする理由がある」
協力してくれるな?
そう言うと力なくうなずいた。
「わたしたちはこの星の住民じゃない。元の星に戻るのに神との面談が必要なのだ」
そう言うと聖堂の中に光が満ちて、スターマインドの声がした。
「至高神は私なので、ここまで来てくれたら召喚の必要はありません」
「この声は至高神様の声!皆平伏するのだ!」
色彩花刃・白は揃って平伏した。
「面を上げよ。私はこの者たちにギフトを与える。ギフトを持つ者に決して害をなさぬように。むしろ協力しなさい」
ははーっと、もう一度平伏する国王と色彩花刃・白の面々。
神の飼い犬といった所か。
至高神―――スターマインドの与えてくれたギフトは、透明な水晶の欠片だった。
これを組み合わせて完全な球にした時、効力が発揮されるのだとか。
レイズエルの亜空間収納に、まとめて収納することにした。
「
「いいえ、滅相もない………他の神にも話は通してありますからね」
その声を残してスターマインドの声は遠ざかって行った。
「さて、色彩花刃・黄だが。無様にも逃げたとの事」
わたしは奴らの隠れ家をあげてみせ
「他に隠れ家を知っている者はいないか?」
と聞いた。
【語り手:レイズエル】
隠れ家について有益な情報を得られた。
それどころか、こちらで捕縛しようかという提案をもらった。
神の一言は絶大な効果を及ぼしたらしい。
「ただ、彼らにもどうぞお慈悲を」
「村人を殺傷し、私たちまで殺そうとしたのにか?」
「あれで役立つ連中なのです」
「まあ、いいでしょう。強制力のある誓いで、二度と私たちの時と同じ事ができないようにさせてもらうけれど、それに異論はないわね」
国王が「異論はない」と言った。
「イザリヤ、この辺で納めておかない?」
「本当は全員処刑と言いたいのだがな………2度はないぞ?」
では色彩花刃・白には色彩花刃・黄を捕縛して来てもらいましょう。
それまで聖堂で待たせてもらう事にしましょうか………と思っていたら、時間がかかると思うので、聖堂の上の施設、教会でもてなしてくれると国王の発言。
それでは、それに甘えましょうか。
教会の客間は居心地がよく、お風呂も温泉を堪能させてもらった。
食事も美味しいし、待ってる身としては最高の骨休めね。
ただベッドがフカフカすぎて落ち着かない。
ヴァンパイアモードでは私は棺桶で、イザリヤは大地に溶けて寝てるからねぇ。
まあ、色彩花刃・黄が引っ立てられるまでは、我慢しましょう。
そして、地下聖堂に全員の色彩花刃・黄が集まった。
一人一人、2度とああいう事をしないと誓わせていく。
破ったら死ぬ、と告げた時の連中の顔で少し溜飲が下がったわ。
もうここに用はない。セタンマリー王国に戻るとしましょう。
【語り手:イザリヤ】
結構な時間をかけて、わたしたちはむくろの都市ブレウラーケに戻ってきた。
クリムゾンを預け、わたしたちは宿をとる前にアーケの様子を見に行く事にした。
ダークマターを体に宿したのだ、副作用が出てきていてもおかしくない。
ノッカーを叩くと、薬草の束を手にしたエテナさんが出迎えてくれた。
わたしたちの顔を見ると破顔して、奥にどうぞと言う。
アーケの顔も見たかったので、お誘いを受けることにした。
お茶の席が設けられ、アーケも顔を出し、私やレイに抱き着いてくる。
「実は二人に、王室からの召喚状が届いているんですよ」
エテナさんは、それを微笑ましそうに眺めてから、何やら書状を取り出した。
受け取って、開封する。
書簡はセタンマリー王国の第二王女からで、平たく言うと私の騎士にならないかというお誘いだった。
「レイ、第二王女は王位継承権第一位だったよな」
「うん、長女はもう嫁いでるし、第一王子・第二王子は無能と名高いからね」
「その上魔法を使わなければこの国一番の武芸者だとか」
「そして状況さえ整えば、どんな神も召喚する事ができると聞く。死の神レイルロードを除いてね。断る理由はないね」
うむ、今後の方針は固まったな。
エテナさんとアーケには名残惜しいが、すぐに出発しよう。
首都フェリリケまでは何事もない道のりだった。
フェリリケに到着した時、クリムゾンの事でちょっとややこしかったが、無事にうまやで預かってもらう事ができた。クリムゾンは少し窮屈そうだったが。
道に迷いながら王宮を目指す。
これがまたややこしい。
戦女神を奉じるだけあって、市街地が迷路になっているのだ。
結局朝ついて昼までかかった。疲れたぞ。
【語り手:レイズエル】
迷路の市街地を進むのに手間取ったけど、私たちは王宮の前まで辿り着いた。
門番の兵士に召喚状を見せると中に入る事ができ、案内の人がついた。
案内人は私たちを見ると目を白黒させていたが「侍らせるつもりかな」と呟いて頭をふりふり私たちを案内した。
騎士になるという事はそういう事なので、私たちはコメントを差し控えた。
最初入った王宮は白い廊下に白い壁だったのだが、案内されるにつれて赤いマーブル模様の壁と床に変わっていく。
「ここからは紅唇宮でございます。マリーレーン様(第二王女の名前だ)の支配下にある宮でございます」
さらに奥に進むと深紅の両開きの扉があった。
案内人はノッカーを三度打ち付け、
「マリーレーン殿下、召喚状を持つ者を連れてまいりました」
「お入り」
「失礼します」
扉が開いて中の光景が見えた時、私は全力で目の前の光景から顔をそむけた。
イザリヤは居心地悪そうに視線をさ迷わせている
なぜなら、マリーレーン王女と思われる女性がタイトな超ミニの服を着ており、さらにその足を騎士と思われる美青年に舐めさせていたからだ。
彼女は私たちの姿を見ると『生活魔法:ドレスチェンジ』で深紅のドレス姿となり、騎士の青年に壁際に控えるよう申し渡した。
「うふふ「金紅」の2人にはああいう事は申し付けないから安心してね。召喚状に応じてくれたからには、騎士になる気があるんでしょう?」
真紅の髪を揺らしながら同色の瞳で彼女は私たちを見つめる。
「あるけど、先にこちらの事情を聞いて下さいますか?」
「いいわよ、話してごらんなさいな」
私たちは間違ってこの世界にきた異邦人で、神々の召喚が元の世界への帰還に必要だから多数の神を召喚可能なあなたの所に来た。
召喚してもらうかわりに全面的に手を貸すというのがこちらの提案だ―――
と言うようなことをできるだけ丁寧に話す。
「さすがに信じがたいわね………でもラクーンデス王国を落とした実力は本物―――いいわ、とりあえず信じましょう。後は働きで証明してちょうだい。騎士の指輪を授けます」
私とイザリヤは、手に金の指輪をはめて貰った。
魔道具らしく、指にフィットする、馬をかたどった意匠の指輪だ。
こうして近道と信じて、私とイザリヤはマリーレーン王女の騎士になったのだ。
帰還への道標・2 フランチェスカ @francesca
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