第3話 賀来君に話しかけてみた
はあ。
やっと半分終わった。
定例会まで約2週間。ようやくタイムスケジュールのところまで終わった。
「あ、すいません! そこも、お願いします。すみません、すみません。夜遅くに、、、」
夜の7時。
無計画な賀来くんは、迫り来る期日に追われるように、こんな夜遅くに先方に電話をかけている。
私が勤める会社は、アルバイトの求人雑誌、またはWEB広告を作成する会社で、私たちの部署は主に雑誌担当。ポンコツの彼は雑誌の記事を書いてもらっている広告代理店の担当者に連絡を入れているところだ。
課長や他の同僚は先に帰って、私と賀来くんは今、2人きり。
意欲的な残業をする私と仕事が遅くて残業をする彼。
真逆の私たちにはよくあることだけど、数日前から、この時間の私は仕事に集中できなくなった。
今日こそ仲良くなるのよ磯貝潮音!
彼のメンタルをケアして、自殺を防ぐのよ!
なんとしてでも、じんべい先生を守り抜く。
「賀来くん」
「は、はい!!」
いちいち反応が忙しい。普通に受け答えができないのかしら、この子は。
とりあえず、軽い質問を飛ばしてみる。
「賀来は、出身はどこだっけ?」
本当に知らないので聞いてみた。出会って1年経つのに。初対面かよ、私たちは。
「あ、ええと、大分です。九州の」
「へえ。それではるばる東京に来たのね。大分って温泉が有名なところでしょ? 地獄めぐり、とか鉄輪温泉があるとこ」
「あ、はい」
せっかくこっち話しかけてやってるのに、この地味男ったら何様なの?
もっと話を広げてほしい。そう思っていると、彼は喋り始めた。
「僕は温泉には入ったことがないですけど、磯貝先輩のように綺麗な人が入ったらお風呂も喜びますよ」
コメントが返ってきたが、意味がわからないし気持ちが悪い。本人的には褒めてるんだと思うけど、なんかやらしいこと想像されてるみたいでキモい。
鳥肌の出てきた太ももをさすりながら、もういいわ! と私は思い切って彼に言ってみた。
「賀来くん。それ、早く終わらせて」
「は、はい! すいません!」
「飲みに行くわよ」
「、、、え?」
彼は戸惑っているだった。
嫌がっているかもしれない。
「そういう気分だから、なるべく早く終わらせてね。先方に夜遅くに電話をかけたこと、課長に報告されたくなかったら」
「うぐっ、、、急ぎます」
それでも勇気を出して、彼の心の領域に強引に踏み込んだ。
ポンコツ社員・僕のweb小説が知らぬ間に上司の女に読まれていた件―社内では冷徹な彼女が見せる笑顔も動揺も、僕が全部独り占め ヒラメキカガヤ @s18ab082
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