人面
藍田レプン
人面
北海道でMさんという30代の女性から聞いた話である。
「私の住んでいる町、北海道の札幌を離れたらどこにでもあるような小さな町で、小規模な住宅街って言えばいいんですかね。大きな町に働きに行く人たちのベッドタウンになっているというか、まあ普通に家と家の感覚は狭くて、路地がたくさんあるような、普通の町です。でも北海道だから、やっぱり広い空き地とか家の無いスペースは結構あって」
その空き地に、最近雪だるまがいつの間にか作られている、という。
「小さな町だからわりとすぐその話は広まりまして、私の耳にも早い時期に入ってきたんですけど。体は普通の雪だるまなんですよ。丸い。でも顔が妙にリアルで」
その顔が、町の住人によく似ているのだとMさんは話した。
「もう雪だるまの顔見ただけで、あっこれはあの角に住んでる○○さんだ、とか、あっこの顔はあそこのお爺ちゃんだ、って皆すぐわかったらしいです」
その雪だるまは前日の夜まで何もなかった場所に、朝になると突然出現するらしい。しかし誰が、何の目的で作っているのかはわからない、と皆一様に首をひねるばかりだったという。
「それでまあ、雪まつりの真似事みたいな感じで誰かが作っているのかもね、でもそれなら体もちゃんと作ればいいのに、なんて最初はいたずら……じゃないですけど、町の住人の誰かが遊びでやっているんだろうなって話していたんですけど」
その雪だるまの顔は、作られた翌日にはすべて、ひとつの例外もなく打ち砕かれているのだとMさんは話した。
「それはもうぐっしゃぐしゃに潰されてて。そりゃあ元々はただの雪なんですけど、一度人の顔に似せて、それも精巧に作ってあったものが壊されているところを見るのって、なんかあんまりいい気分じゃないですね」
誰が作ったのかもわからない雪だるまの顔が、誰かに壊されていく。それが何度も何度も繰り返された時、町の人々は気がついた。
その雪像の顔の『持ち主』は、皆雪だるまが壊された後に、顔に怪我をしている。
「大怪我ってわけじゃないんですけど、転んで顔をすりむいたり、料理中に油がはねて顔にかかったり、髭を剃っている時に剃刀で切ったり、理由は色々なんですけど、偶然にしてもこれだけ続くとちょっと雪だるまの件もあるし、気味が悪いよね、って話です」
そう言ってMさんはつけていたマスクを外すと、右頬の青あざをそっと触った。
「実は私の顔も、この前壊されちゃって」
人面 藍田レプン @aida_repun
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