第3話

「豪華な男」


それはおそらくコヨーテ一族の長のことだろう。


コヨーテ一族は魔導杖はもちろんのこと、あらゆる書物や金品を収集し続けるキャラバンの一族だ。

もちろんその中には「情報」も含まれている。

その一族に接触を試みることはつまり自分の人生全てを知らされることになる。

誰だってある人生の分岐点での「あの時こうしとけばよかったのに」を知りたいとは思わないはずだ。

それこそ「過去に戻ろうとしない限り」は。


「なんでそんな男の情報が必要なんだよ。彼がどこにいるかは公開されてるだろ」


ウィンデリアは焚火を見ながらこちらを向かずに僕の言葉を聞き「わかっているくせに」とつぶやいた。


「情報の対価が必要なんだけど、誰もそれを持ち得ていないんだよね。その代価としての」

不老の魔導杖ってことか。


なんとなく合点はいったが。


「で、だ。不老の魔導杖を使って一族から情報をもらいたいのは分かった。だがそうなると僕の目的が達成できない」

なんでこっちが必死こいて探した魔導杖を渡してしまうんだ。

自分が取りに行けよ。


「君は、持っても意味ないでしょ。だってさ...おっと能力はつかわないでください離せなくなるのでね」

僕の雰囲気が変わったのを感じたのかウィンデリアは両手を挙げた。


「分かりました、ではこうしましょう」

ウィンデリアは懐から木の板を取り出した。

「これを五辿機関にもっていってくだされば分るでしょう。なるべく偉い人に渡してくださいね」

なんだこれ、なんの変哲もないただの木の板じゃねえか。

大きいならまだしもポケットに入るサイズだし、使用用途がわからねえ。

「これを渡してどうするんだ?」

五辿機関といえば研究することを研究しすぎた世界でもトップクラスの研究機関だ。

そこの偉い人にこんな木の板を渡そうともしたら、何されるかわからん。


「ウィンデリアはあなたと話がしたい、と言ってくれればわかりますよ」


そういったウィンデリアはにやにや笑っているように見えた。

つまり。面識もしくは近いもんがあるのかあの狂った機関に。


「そうそう、言い忘れてましたけど、島の真ん中の遺跡の一番上に杖はありますよ。早いもの勝ちですからね」

おいちょっと待て、まじかそれ。

だったら自分で取りに行けよ。

最後にとんでもない発言をしてウィンデリアは来た時と同じように歩いて消えていった。


セイたちを起こそうか迷ったが、生物がいないとはいえ、この森の中は歩きたくはない。

その板は結局ポケットにしまい、ウィンデリアが追加した薪は煌々と燃え続けたので明るくなるまで焚火をみて過ごすことにした。


結果から言うと、夜歩かなくて正解だった。

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天生ゲーム~僕が僕であるための話とそれに付随したいくつかの生き様について~ @hmgtnrt

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