争い



「……それで僕はどうしたら良いの……?」

「だから言ったじゃない、他の妖怪と争えばいいの~って☆」

「本当は争いたくないけど……どうしたらそんな展開になるの?」

「ん~、こればっかりはタイミングってやつだからぁ~」


クネクネしながら話すチャーリーが足を止める。


「そろそろ来るかも~☆」

チャーリーのポケットから探知機のようなものを取り出し、嬉しそうな顔をする。


するとそこに大きな妖怪が現れる。

「うわ、空くん、最悪な相手だねぇ~これは」

「え?でかい………、これ、何……?」

「これはねぇ~、牛鬼うしおにって言ってね、とにかく残忍な殺し方するのぉ~」

「は?これと勝負しろって?」

「そうだよぉ、妖怪と遭遇してしまったらバトルのゴングが鳴っちゃうの☆」

「は?え、ちょ──」

そう言いながらチャーリーの背中にいつの間に羽が生え、空高く飛ぶ。


「え?何でもありだな……」

「あ、それとね。牛鬼は現在トップ圏内に入っているから気を付けてねぇ☆」

「は?は?それって──」



無理ゲーじゃん。


そう思いながらも僕は必死になって逃げる。


逃げる。


逃げる。


逃げる。


逃げる。


逃げる、ことしかできない。


そもそもこんな強い相手、勝ち目ない。





「そうなのよぉ~、空くんはもう勝てっこないのよぉ☆だって、良い子だけが取柄な白狐びゃっこなんだもんねぇ」




狐って何をすれば反撃できる?

負けたくない。ここで死にたくなんかない。

せめて引き分けにする方法がないか。


そう考えていると牛鬼の口が、牙が、僕の体にめがけてくる。

あ、もう駄目だ。


こんなことになるんだったら。太一の言うこと、もっと慎重になって聞くべきだった。もう後悔しても遅いんだろうけど。



走馬灯のように今までの楽しかった思い出が頭の中を駆け巡る。

あぁ、これはきっと。僕はもう死んだのか。十七歳、まだまだやれたのになぁ。

真のことも本当は異性として好きだったんだよなぁ。

こんなことになるならダメ元で告白すればよかったなぁ。

お母さんもこれから僕じゃない僕と接していくのか。

それは何だか寂しいなぁ、親孝行もできていないや。


ごめんね。妖怪にもなれない、不甲斐ない息子で。



そんなさよならの言葉を発していたが、どこからか「起きて」という言葉が聞こえる。

起きてる、起きてる。今からそっち逝くから。



「逝くのそっちじゃなーい☆」

僕は頭を叩かれた。


「え?」

その痛みは夢とかではなく、現実だった。

目の前には使者のチャーリーがいる。


「空くん、凄いじゃん」

チャーリーの目線の先を見ると、強敵であった牛鬼が倒れていた。

牛鬼の体から煙が出て、いつの間にかその場から消えて行った。


「負けたものはああやって消える、そして現実世界でも元からいなかったような存在になるんだよね」

「──というか、僕。負けたんじゃないの?」

「え?空くん、あぁなりたかったってことぉ☆?」

「いや、そういうことじゃないけど……なんか、勝った気がしないというか……どうやって勝ったのか全然覚えてなくて……チャーリーさんは見てたんだよね?僕、何してた?」

「あー、うんとね。ピカー、シュパパパパーって勝ったよ☆」

「何、その擬音。ぜんっぜん、分からないんだけど」





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