【終章:竜仔愛穿つ。】


 そこから先の事は、あまり覚えていない。


 ただ一つ言えるのは、彼女の願いは叶わない、という事だった。


 彼女の亡骸を背負い俺が向かったのは、王のいる玉座。


 足を踏み入れ、ルークは彼女の亡骸を認めた瞬間、声をあげて大いに喜んだ。


 ベラベラと御託を並べ、テラの死を嗤い、侮蔑し、最後の最後まで、彼女の全てを踏み躙っていた。



 テラ。


 君は俺にこう言った。


 復讐なんて考えず、私を忘れ、王国を抜け、何処か平和な場所で、暮らしてほしいと。


 君だけはどうか、この呪われた運命から解放されてくれ、と。


 

 ごめん、テラ。


 悪いけど、その願いは叶えない。



 俺は軽く息をつき、声をあげて嗤う人の皮を被った悪魔の首めがけ──竜の素材で出来た剣を、振り抜いた。



 一瞬の出来事で、周りにいた配下も騎士達も、王の首が転げ落ちる瞬間を呆然と見つめていた。



 そして、王が殺された事に気付いた瞬間──



「反逆者だ! 殺せ!」



 誰かの一声で、騎士達は俺に刃を向ける。

 


 テラの子供から作られた、数々の武器を。



 俺はそれらを、一つ一つ破壊していった。



 そして、向かってくる騎士達の首も、王同様に斬り落として。




 そこから先は、血を、熱を、奪い、奪われる、そんな戦いだけが続き……。




 気がつけば、無数の屍が山となり、玉座の間は夥しい量の血で染め上げられていた。


 

 俺は千切れた右腕をそのままに、片目の潰れた状態でテラの元へと向かう。



 そして、血に塗れたまま彼女をそっと抱き寄せた。


 

 溢れ出る血が、止まる事なく彼女を紅く染めてゆく。



 死に近づくに連れて、テラと初めて会った時の事を、思い出していた。



「君は、あの日僕と出会った事を、後悔しているだろうか」


 

 その問いかけに応じる者は、誰もいない。


 けれど、それで良い。

 

 この独白は、出来れば君にだけ、聞いて欲しいから。



「テラ。言っておくけど、僕は後悔していないよ。この結末を望んだのは僕自身だ」


 

 許さなくてもいい。


 憤ってもいい。



 ただそれでも、与えられた、あまりにもふざけた運命だけは、この手で捻じ曲げてやりたかったんだ。



 あの世にいけば、君に会えるだろうか。



 そんなどうしようも無い事を考えながら、僕は君の亡骸を抱えたまま、穿たれた愛を抱いて眠った。


 


 


 

 


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竜仔愛穿つ。-Ryu Ko Ai Utu - 七七七七七七七式(ななしき) @nanasiki774

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