ぎゃはは

藍田レプン

ぎゃはは

 私、アトピー性皮膚炎で月に一回皮膚科に通っているんです。小さな個人のクリニックでお医者さんも50代の男性が一人、看護師さんは全員女性で、玄関を入るとすぐに待合室があって、その左奥にカーテンで仕切られた診察室があるだけの簡素な病院なんですけど、割と先生との相性がいいというか、話しやすくて。いつもそこに通っています。もう通い始めて10年になるでしょうか。

 それで先日その皮膚科に行ったんですけど、予約制じゃないから結構待合室に人が多くて。ああ、こりゃ一時間くらい待ちそうだなと思いながら、受付を済ませて待合室の椅子に座っていたんですね。

 そうしたら突然診察室の方から「ぎゃはは、ぎゃはははは」って笑い声が聞こえてきて。

 そうですね、カーテンで診察室は仕切られているから姿は見えませんけど、歳をとった男性の声に聞こえました。大声で笑っているというか、こういう言い方は失礼かもしれませんけど、その、たまに電車に乗っていると見えない人にずっと話しかけているようなタイプの方、いませんか?

 そういう人がずっと笑い続けているような、何か私たちに理解できないことで笑っているような、そんな感じの笑い声で。怖くはありませんけど、なんだかずっと笑っているなあ、と気にはなっていました。

 で、ですね。笑い声が止まって、やっぱりどんな人が笑っていたのかちょっと気になったんで、ずっと診察室のカーテンを見ていたんですけど。

 私が呼ばれるまで、結局お爺さん、一人も出てこなかったんですよ。

 狭い病院だから待合室にいれば診察室以外は全部見渡せますし、ベッドも1床しかないから中に残っているはずは無いんです。でも、あの笑い声は確かに高齢の男性に聞こえました。

 それから特に何かあったわけでもないですし、先生もいつも通りだったんですけど、結局何だったのか、謎のままです。


 という話を友人の紹介でLさんという中年の男性から聞いた。

 私は少し考えた後、

「ひとつだけ現実的な解釈ができるとするならば」

 そのお医者さんが笑ってたってことになりますよね、と控えめに言うと、

「それ、幽霊よりもなんだか怖いので、とりあえず幽霊のせいってことにしておいてくれませんか?」

 とLさんは嫌そうな顔をして、話を結んだ。

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ぎゃはは 藍田レプン @aida_repun

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