龍神とその子孫の女子高生がエセスピリチュアルに鉄槌を下す話

達見ゆう

エセスピリチュアルに制裁を

『このように、このスピリチュアリストは『龍を使う人』を商標登録しているから他のスピの人は「遣う」など字を変えてるのですよ』


『しっかし、どっちも修行代が高いですね。最高で合宿所に修行コースで千二百万、一番安くても五十万円。しかも自習コースってなんですか?』


『教材を送りつけるだけでしょう。それで、感謝の声というのがまた多いんですよ』


『それ偽物じゃないですか?』


「またスピ問題動画を見ているのですか? 龍神様」


「ああ、我のことを悪用してい……」


 学校から帰った私が声をかけると彼は振り向こうとしたので慌てて止めた。


「ちょ、ちょっと。姿で振り向かないで! 家具や壁が壊れる! コンパクトになるか人型になって」


「たまにはリラックスしたいと思って元の大きさにしてたのに」


「た・ま・にぃ? 先月もそのデカさで壁に穴を開けていたじゃないですか。先々月は花瓶を落として割ったでしょう。8畳間でもその姿はぎゅうぎゅうなんですよ」


「あ、あれはちょっと角や尻尾が当たっただけだ。すぐに直したし、テレビはここの部屋が大きくて気に入ってるのに」


「直せばいいってものじゃない!」


「手厳しいの」


 こんなにも人間が神様にズケズケ言って叱ることができるのは我が家がこの龍神を奉る神社であり、私を含む神主一家がこの神様の血を引く末裔だからだ。


 この動画に出ている「龍のパワーがなんちゃら」と言って家が一軒買えそうな値段を投資して修行している人が女子高生に叱られてる龍神なんて風景を見たらがっかりするだろう。


 龍神様は仕方ないといった顔で姿を人に変える。


「これならいいじゃろう」


「若い姿に合わない老人言葉が気になるけど、まあOKです。しかし、ひどいですね。こういうのにひっかかる人は苦しんで藁にも縋る思いで私財投げ売ってるのに、デタラメとわかってへんなグッズや教材を高額で売りつける。だからか、うちにも『弟子入りさせてくれ』と押しかける人がいるのですよね。龍神様、この悪徳業者に天罰与えられないのですか?」


「天罰か……」


「何か問題でも? 私達のご先祖様も龍神様の生け贄として湖に入水したのですよ? 父から聞いた時は村人に天罰与えるべきと怒りましたよ。龍神様が助けてくれなければ私達も居ないのだから」


「いや、さくら……彼女は入水したふりをして村人が見えなくなったら泳いで向こう岸まで行って、逃げて旅をしようとしてた。その逞しさに惚れて嫁にしてしまったのだが。お主もそのさくらに似て気が強いのう。何世代経っても変わらないものだ」


「ご先祖様……タフ過ぎる。話を元に戻してスピかぶれの弟子志願者にも困るし、何より騙しているのが許せないです! ホームページにもどこにも龍神様は映ってないのに『あなたも龍のパワーを得て成功者になりましょう』なんて。そんな世俗にまみれた動機で簡単になれる訳ないし、金持ちにもなれませんよ! 大体水神様がどっから金を調達するんですか!」


「そういう正義感強いところもさくらに似ているの。確かに悪質だからお灸を据えに行ってくるか」


 〜数日後〜


「あ、おかえりなさいませ。龍神様。どうでしたか」


 今日は龍の姿であるが、呆れ返っているのがわかる。


「結果から言うとダメじゃった。姿を皆に見えるようにしたら首謀者が『ついに現れました!』と言うから信者から歓声が上がり、『我を騙る者には天罰を下す』と威圧的に言っても『修行をもっとして精進します!』とズレた反応だった」


「えーと、心理学でいう『認知の歪み』ってやつですね。手強いというか、厄介というか」


「本当に祟っても良いが、水害起こすと近所迷惑だろうし、首謀者を信者の前で雷落として黒焦げにしても信者がトラウマになるか、変な方向に信仰拗らせるかわかったものじゃない」


 ご近所さんに妙に気遣うところがこの神様らしい。長年人間界にいて、染まってきたな。だから動画を観てたりするのだが。


「確かに。『龍神様の怒りを鎮めないと』とか言ってご先祖様みたいな生け贄を差し出されても困ります」


「しかも、西洋の悪魔祓いみたく生け贄の心臓とか差し出されたら、普通に殺人事件じゃ」


「それ、うちにも風評被害が出るやつです。じゃ、ダメ元で私が対策してみます」


 私はタブレットを立ち上げた。


「神がダメじゃったものをどうするのじゃ?」


「人間、それも現代ならではの方法をとるまでです。もちろん合法的にやりますから安心してください」


 そうして私は検索をかけ始めた。


 〜さらに数日後〜


『このように、龍野内龍人容疑者は巧妙に信者を増やし、教材を法外な値段で売りつけたり、合宿を行ってました』


「ただいま、あれ? 今度は珍しく地上波のワイドショーですか? 龍神様。ってまた大きい姿になってる!」


『すごいぞ、あのエセの首謀者は逮捕。ワイドショーや文夏砲までくらって連日この騒ぎじゃ。お主、何をした』


「彼らのことを片っ端からインフルエンサー達と週刊文夏と税務署に匿名でチクったんですよ。宗教法人じゃないから税金の流れが気になりますねえ、と。税務署は乗り気でしたね。週刊誌も警察や探偵並みに調査しますからね。やはり脱税してましたか。洗脳から解けた人は被害者の会作るのじゃないかな」


「ふうむ、人間ならではの制裁か。お主、さくらみたく賢いの。嫁にならんか?」


「ぶはっ! わ、私はまだ十六歳ですよ!」


「だめなのか?」


「法律変わって結婚できるのは十八歳になりましたよ!」


「ふむ、クリアしたら、つまり十八になったらいいのだな」


「え、い、いや、そんな」


「何を赤くなっておる」


「あ、ほらほら。幹事達の記者会見始まりましたよ!」


 私は慌ててテレビの音量を上げて誤魔化した。


「お、始まったか」


 私はドキドキが止まらなかった。だって人の姿のときは好みの姿、でもご先祖様の血も引いているから何親等にあたるのかどうなのかとグルグルと考えが巡ってしまい、画面の幹部のようにうろたえていた。


 まだまだ龍神様にからかわれるようでは跡継ぎになれないな、とも思った。


 でも、気のせいか龍神様も何かをごまかすかのようにテレビに食い入るようにしている気がする、


 まさか、ね。













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