第1章
第1話 蘇る少女
目の前に映ったのは、彼方まで伸びる東雲色に輝いた夕焼け空。
私はそこで、何事もなかったかのようにまぶたを開き、丁度寄りかかれるように設置された橋の欄干にもたれかかっていた。
私はそこで溜息を吐き、空を見上げた。
冬なのか。
吐いた息が白くなり、私の顔を横切る風と共に消え去った。
「やっぱり、神は私に甘くないのね」
気だるそうな声をあげ、またもや溜息を吐く。
先程吐いた息とは微妙に違く、呆れ気味なため息だった。
想定内っていうのは、死んだはずの私が今、ここにいることを指している。
死んでもまた神の力で蘇ることを事前に知っていたので、死ぬと決意した時点で恐怖心などは感じなかった。
なぜ蘇ることを知っているのか、と聞かれれば、私がその体験をしていたからだ。
そう、私は前世で……いや、前前前世ほどの数えきれない前から何度も、死んで蘇る体験しているのである。
通常、神々の独断で死んだ者は異空間にて、死後の裁判のようなもので善悪の判決を下される。
善は黄泉の国へ安らかに昇り、悪は冥界へと連れ去られるという仕組みだ。
だが私の場合、黄泉の国にも昇らず、冥界に連れ去られることはなかった。
理由を説明しよう。
まず、人を殺すことは犯罪であって、悪と判決される。
だけれど、もしもそれが自殺ならば……?
〝他人を殺す〟
いわゆる他殺行為に至っていない為、難しい。
神々は善でも悪でもない中間地点……グレーを創り、中間地点に至った者だけが、
天と地中の境目……地こと現実世界で人生をやり直すことができるのだ。
前前前世ほど前、私は自殺を図り、人知れず他界へ飛び立った。
そこでまた蘇り、その新しい人生でも自殺をし、それを今まで繰り返してきたのだろう。
そして私がそのことを知っているのは、生きている中でもよく耳に聞く、神は気まぐれである。
気まぐれな神が暇つぶしに私を利用し、私に記憶を所持したまま蘇らせた。
それが前までの想定だったけれど、少しだけ誤っていたようだ。
神は気まぐれだったのではなく、無性に気に入らない私に、記憶を所持しながら蘇らせ、自殺を繰り返し苦しみ果てた私が見たくてたまらないのであろう。
なんと頭の狂った神なのだろうか。
一応守護神であった為か、自分の力で生物を死に陥れることは許されない。
だけれど、そう仕向けることは許されているのだろう。
神々もそういうところは甘っちょろい。
まあ心底、神は人間を真に受け止めてすらいないのだから。
「守護神。いや、狂いに狂った神様。いつまでこのお遊びが続くんですk?」
独り言のように、他方につぶやく。
勿論返信は無し。
長年の年月を経て続いてきた、お遊びこと蘇りの連発。
気まぐれな神達は数時間も持たずに飽きてしまう。
だが私についてしまった神は、不運にも無駄な根性のある神なのだ。
「私、また貴方の為に無駄な人生を使うのは嫌ですよ。早く黄泉の国に昇りたい」
そんな叶うはずのない願望を口に出す。
守護神はいつも、まるでこの声が耳に入っていないように見て見ぬふりをする。
(あぁ、次の人生は楽しめるかな……)
楽しめたは楽しめたでも、どうせ最後にはバッドエンドになるんだろうけど。
そう、心の中で誰かさんに皮肉をぶつぶつつぶやく。
そして寒さで悴んだ手を、ポケットの中に突っ込み、橋の上を後にした。
孤独死を願った 仮面の兎 @Serena_0015
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