楽園の果実

此木晶(しょう)

楽園の果実

 陶磁の肌に唇を滑らせる。抱きしめた体がわななき震えた。

 朱に染まった首筋に舌を這わせる。呻きのような声が漏れた。

 必死で押し殺している、懸命にも漏らすまいとする表情に理性が蕩けた。そう、我慢などできよう筈がない。

 だから、花弁のような唇を貪った。遠慮も配慮も何もなく本能のままに味わい蹂躙する。

 唇を離すと、口と口の間にツゥと透明の橋が架かった。

「兄さん……」喘ぐように彼女が言葉を紡ぐ。

 ああ、兄妹だなんて、血が繋がっているなんて関係ない。

 常識なんぞ知ったことか。

 モラルなんて捨ててしまえ。

 好きになってしまったのだから、どうしようもない。

 だけど。だけどだ。本当にそこには何もなかったのか? 禁じられているから、だとか、許されないとか、そんな背徳的なものに惹かれてはいなかったか?

 だとしたら、それは、それだけはやってはいけない裏切りだ。

 浮かんだ恐怖を誤魔化すように強く抱きしめる。

 そして、抱きしめ返された。瞳に映る俺の姿には迷いが滲んでいる。揺らいでいる俺を映したまま、彼女が微笑んだ。見抜かれたのだと思った。

 でも、それは大きな勘違い。

 とうの昔に、とっくの前にそんなことは承知の上。認めたうえで、それでも構わないのだと彼女は俺の手を取っていた。


 昔、最初の人間はその実を口にして楽園から追い出され、不死も不老も失って、土に塗れて、その日の食い扶持を稼がなくてはならない身に落とされた。

 それを原罪だと宗教家達は嘆くが、果たしてそれは本当か。その実を食べなければ人は未だ楽園の住人であったろうが、それは本当に、幸福か。唆したのは蛇とはいえ、実際に食したのは最初の人間。なら、それは、罪であろうと何だろうと自ら選び取った選択の、結果。


 俺達も、たとえ始めはそうであれ、今の気持ちは嘘偽りのなく。それが許されざるモノであろうとも。

 だから、互いに共犯者なのだと確かめるように、誓い合うように。

 ゆっくりと、ゆっくりと唇を合わせる。

 だからこそ、その口づけは甘い甘いミツの味が、した。

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楽園の果実 此木晶(しょう) @syou2022

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