第13話 ちゃんと不法侵入で終わらない
パリンという音と共に砕け散った一つの壺があった。
あ
という俺の声が発されることは無かった。うん、まぁ…これも勇者の諚か。
俺は不法侵入とアイテムの窃盗だけで終わらすつもりだったんだけどなぁ。
「レト、上出来ではあるんだけど…」
そして先程と同じ状況を繰り返すかの様に、続きの言葉を発することが俺は出来なかった。だってメチャクチャに褒めてって顔してる、尻尾がユラユラ揺れてらぁ。まぁ…目当ての物が見つかったから良いと言えば良い。
「ありがとうなー…」
フスッと鼻を鳴らすレトは得意げだ。
いや今はそんな事よりも目の前の店主だな。
「…さてとコイツが割ったツボとその中にあったモンでチャラって事で」
散々露店を漁られた挙げ句、高そうな壺を割られ裏への切符を盗られてしまった。可哀想にコレからやっていけるのか?
グレーゾーンでの露店はブラックからの輸入が多い。ブラックゾーンに入れ無くなったのならグレーゾーンに居場所は無い。
まぁグレーゾーンで露店なんて物を出してる奴がホワイトゾーンでやって行けるかと言われれば難しいだろう。
俺には関係無いけど。
「レト行くぞ」
魂抜けた店主をつついて遊んでいたレトに声を掛けて歩き進める。
はぁ…これ主人公なら回想シーン入るんだろうな。
えと何処から回想すべき?
昨日夕飯食ってた時、課題が終わらねぇって潰れてる奴が居て…いやこの話要らねぇわ。
そもそも俺は宝物庫に不法侵入してから週に一回はグレーゾーンに来ていた。ブラックゾーンと呼ばれる所は裏市場や地下闘技場など表の法律が通用しない場所だ。法律が無い訳では無くてブラックゾーン特有の法律があるという言い方が正しい。
ブラックゾーンに入るには通過証が必要で…一応金の力でも何とか出来るが、金の力で入って来た奴の事は徹底的に調べられるし監視が付くから選択肢に無かった。
通過証はグレーゾーンの何処かに隠されている。通過証を見つけれる場所は毎日ランダムな為、ゲームでは根気強く探し続けるしか無かった。
現実だからランダムって事は無いんだが、通過証を落としたりする奴や死んでそのまま残るっていう事もそうそうに起こらない。
あー…今日で見つかると良いなぁ程度の認識でグレーゾーンの露店を覗いていた時に服を掴まれた。
心臓止まるかと思った、ほんとに。
レトが噛んでくれなきゃ檻を蹴り殴ってたかも。いや檻掴んでるわ俺…って感じで関わらない選択肢が消えたんだよな。
「助けてくださいっ」
泣いて後が残りながらも必死そうな表情で助けを乞う小綺麗なドレスを纏った少女。
「………ああ」
「っ」
助けて貰えると思ったのかパァッ…という嬉しさや希望を持った表情をし出した少女の檻越しに立つ俺。
ニヤニヤと店主が近ずいてきて
「買っていくよな?」
って言ってきた。
「いや買う訳ねぇだろ客に許可無く触れてくる奴隷とか」
「「え」っ…?」
阿呆ズラを数秒晒した後に今度は青白くなっていく店主。この露店の土地を貸している奴がよぎったか、噂が広まり全て後の祭りになった未来を考えたかは知らない。1つ言えるのは俺の都合に良くなっているという事。
「調教すらまともに出来ないとか随分と良い露店やってんな?」
「お、お客様…騒ぎにしたく無いんです!何か出来る事なら何でもするので…どうか、どうか」
「まずは露店見るなー?話はそこからって事で」
相手を詰める時は間を開けずに…パニックになればラッキー、判断力を削げればラッキー、得はあれど損は無い。
そして物色中に冒頭へ戻るって訳…冒頭何処か知らんけど。
「止まれ」
「ああ」
「通過証は?」
「はい」
「通って良し」
…このまま俺の運が良い事を願うな。ここからは良い悪いがグレーよりも更に別れるブラックゾーンだ。
勇者に転生した俺、闇堕ちルート入ります。 ロネ @Gianduiachocolatemoca
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