『夢を取り戻す男』
小田舵木
『夢を取り戻す男』
私が夢を失って何年が経とうか?
夢、将来の展望の事ではない。毎晩見るアレの事だ。
人間の睡眠は大きく分けると2つのフェイズに分ける事ができる。
レム睡眠とノンレム睡眠。
更に細かく分けるなら。ノンレム睡眠が4段階あり、レム睡眠ががその最後に乗っかる。
夢を見るのは、そして夢を知覚出来るのは、体だけが休息するレム睡眠に限れれる。
私は。そのレム睡眠が無くなっているようなのである。
これは。あまり健康によろしい事ではないらしい。
レム睡眠はノンレム睡眠と密接に絡み合っており。レム睡眠がないとノンレム睡眠の質が落ちる。ノンレム睡眠時に出る脳波、デルタ波が出にくくなる。これは脳の再生に必要らしく。私は脳にダメージを負い続けているようなものだ。
今の私は。とりもあえず不眠症ではない。
ただ、夢を見ないだけだ。
1〜4ステージあるノンレム睡眠を取って。仕上げのレム睡眠ステージに移行出来ないだけだ。
これは。もしかしたら、うつの影響かも知れない。
私は。うつである。抵うつ剤を飲みながら仕事をしており。
毎日をなんとか過ごしている。頭の爆弾が炸裂しないようにと。
◆
私は毎日。暗闇の中から起きる。夢がないから。
脳が活動を休止しているノンレム睡眠から目覚める。
これは。あまり寝覚めがよろしくない。
完全に電源オフになった家電を急にフル回転させるようなモノである。
レスポンスが悪い。
だから、私の朝は何時も歯切れが悪い…
私はベッドの上から起き上がるのに一苦労し。
昨晩飲んだ睡眠薬の残りのせいでふらつく脚でキッチンへ行き。
コーヒーを淹れる。
カフェインで無理やり神経を叩き起こそうという訳だ。
コーヒーを淹れると。
私はリビングのテーブルに着く。
そしてコーヒーの匂いを嗅ぎながらゆっくりと覚醒へと移行する。
これが面倒くさい。この作業のせいで30分はロスる。
この作業さえなければ。もう少し寝坊する事が出来るのだが。
何となく点けているテレビのニュースを見ながら朝食を摂り。
朝食を摂ったら、洗面所で身支度。ここらへんになってくると普通の睡眠をする者と変わらなくなってくる。
そして。身支度を終えたら出勤。
私は昨晩の夢を
◆
夢を見ないのはどんな気分かと問われれば。
私は特に困らない、と答えるだろう。
実際問題、夢なんて見なくても人生には支障はない。
むしろ、夢を見ること方が色々と人生に支障が出るのではなかろうか。
何故か。それは夢が脳のカオスからこみ上げてくるカオスだからだ。
今までの人生経験や空想の混ぜ合わせ。それが夢であり。私達を混乱させる事が多い。
私は。そんな面倒なモノに関わりあっている暇はない。
そうでなくとも。
私は人生というカオスに混乱させられてばかりなのだ。
カネを稼ぐために社会に出れば。私が理解不能な人間は数多おり。
そいつらに感情をかき乱される事ばかりなのだ。
私はうつである。
ただでさえ脳に深刻なバグを抱えており。
ちょっとした刺激で暗闇の中に転落する。
今は抗うつ剤のお陰で
生活が穏やかに過ぎる事を願いながらする仕事。
それは特段楽しいものではない。
私は。うつになってから出世コースを外れた。
うつになる前は。管理職になることを期待された人材だったが。
休職と時短出勤を経た今は。閑職に置かれている。
まあ?菅原道真のように大左遷を喰らわなかったのは不幸中の幸いだが。
こういう場合。仕事へのモチベーションは急降下する。
自分の食い
昔は仕事をするのが楽しかった。
だが、その楽しい仕事は私の精神と体を蝕んだ。
オーバーワーカーだった私がうつを引き起こしたのだ。
そりゃそうだ。残業三昧だったし常に仕事に追われていた。
これで体を崩さない方がおかしいのである。
私は今や。
静かにゆっくりと仕事をこなす。
昔なら自分から仕事を背負いまくったモノだが。今は手元の仕事を片付けるだけで精一杯だ。
私はパソコンの前で。ただ、キーボードを叩き続ける。
昔は営業職だったが。今は内勤の事務方なのである。
昔は人と関わるのが楽しかった。だが、今は。人と関わりあいになりたくない。
他人はストレスの素である。私はそう思う。
大体、自分一人で手一杯なのに。他人の面倒まで見たくないのだ。
◆
私は仕事を定時で終わらせる。難しい事ではない。
そも内勤の事務方なんてルーチンワークをいかに早くこなすかであり。
私はデスクを片付けて、オフィスを後にする。
「お先に失礼します」と言いながら。かつての同僚たちは、まだこれからひと仕事しようとしているのだが。
私は会社を出て。
とりあえずは、ボルダリングのジムへと向かう事にする。
定時で仕事を終えると。やる事がなくて困るのだ。
だから私は適当な趣味を見つけ。それに
じゃないと。独りの時間に押しつぶされてしまいそうだから。
ボルダリングのジム。
会社からバスに乗って十数分。町の外れの倉庫のような建物。
私はその倉庫のような建物の前の喫煙所で煙草を吸う。
メンタルを病んだ者には喫煙者が多い。それはニコチンイコールドーパミン仮説…ニコチンで体内で足りてないドーパミンを補っているという仮説で説明が出来ると思う。
私は根本まですっかり煙草を吸ってしまうと。
倉庫のような建物に入っていく。
倉庫のような建物は。
四方を大きな壁で覆われている。その大きな壁には。ホールドがたくさん付いており。
私は今から着替えてこの壁を登ろうという訳だ。
ボルダリングは。
実にうつの人間向きのスポーツである。
そもそも。独りで楽しめるというのが良い。
私はうつになって以来、人と何かをすることが苦痛になってしまっている。
モクモクと壁を登っていく。決められたホールドを使いながら。
ボルダリングは全身を使ったパズルだ。いかに効率的に体を使うかがキモである。
体力を使ってクリフハンガー的に登るのも良いが、それよりも体力をいかに使わないかの方が大切だ。体力を使わなければ。壁にアタック出来る回数は増える。
私は2、3時間壁にアタックし続け。
いい加減疲れてきたところで、ボルダリングジムの更衣室に入る。
今日も。独りだった。それは私が他を寄せ付けないオーラを放っているからだ。
◆
私はボルダリングジムを出ると。
バスに乗って最寄りの駅に帰り。
近所の適当な小料理屋に入る。
昔は料理好きで自炊をするのが苦ではなかったが。今は料理をすることが面倒くさい。
とりあえず。私はビールを頼んでしまう。
本当は。メンタルの薬と睡眠薬的に断酒してなければいけないが。
こんな寂しくて、何もない人生を送っていると。酒が手放せない。
まあ、呑み過ぎなければ害はないだろう。
ビールは一口目にすべてがこもっている。なんていう人がいる。
私はその意見に賛成である。ビールのニ口目以降は蛇足みたいなモノである。
私は蛇足的なビールを
おふくろの味が恋しくなって煮っころがしを頼む。
こういう、家庭的な味に飢えるようになってからが一人暮らしの本番である。
私は煮っころがしを食べながら。
ビールを飲み干し、適当なサワーに切り替える。
その間に。店に客が数人
昔なら。女の気配にソワソワしたものだが。
薬の影響で性欲がマイルドになった私は。女が隣にいることが鬱陶しい。
そんな気分が顔に出てしまう。しょうがない。嘘が吐けない体質なのだ。
「おにーさん?そんな難しい顔してどした訳?」隣の女性が酒のせいか絡んでくる。
「…人生ってヤツに打ちのめされているだけですよ」私は半分の事実を話す。
「そりゃ顔をしかめたくもなるわな」
「ま。そういう事です」私はさっさと会話を片付けにかかるが。
「そういう時は。強めの酒でも呑んで寝る事ですな」
「…現実の先送り」
「オマケにいい夢でも見るかも知れない」
「私は…夢を見ない」
「覚えてないだけじゃない?」
「そうとも言えるけど…レム睡眠がないらしくて」
「あの夢を見る睡眠の事?」
「そう。別に人間、ノンレム睡眠でも夢は見ているらしいが。知覚は出来ない」
「おにーさんは夢を失くした男な訳だ」
「そうなるかな」
「そりゃあ…残念…なのかな?」女性は私の顔を覗き込んでくる。
「慣れてしまえばそうでもない。夢を見なければ感情をかき乱される事もない」
「そーとも言えるけど。楽しい夢だってあるじゃん」
「私は。そういう夢に縁がない。大抵は嫌な場面がフラッシュバックするものでね」
「…苦労してるんだねえ」なんて言いながら。女性は長い前髪をかき分ける。
「そうでもないさ。今は悠々自適に暮らしてる…と思う」
「平日の21時に小料理屋に居れる位には」
「会社の出世コースを外れているのさ」
「ま、そこは貴方の人生だから。あまり気にしない方が良いんじゃない?」
「…気にするさ。出世コースにかつて居た者としては」
「脱落者。何かあった訳だね?」女性は初対面の割に私の過去をほじくり返す。
「うつになってしまったからね」隠し立てするような事ではない。社会に知れ渡っている。
「そいつぁ…苦労してる。ていうか酒呑んで良い訳?」
「寛解してるし。問題はない。長生きするつもりもないしね」
「肝臓が悲鳴を上げてるよ」女性は妙に。うつの薬に詳しいようだ。
「酷使してさっさと死にたい訳だよ」
「治ってなくない?うつ」
「うつでなくとも。人生なんて並べて意味はない」
「ニヒリズム。関心はしないよ」
「古い考え方だからかい?」
「悲観主義が過ぎるってね。後、自分を
「可哀想ぶりたくもなるさ。人生の意味を奪われてしまった」
「それさー。人生の意味を過去に求めすぎてるからじゃない?」
「と。言うと?」
「うつになる前の自分を美化しすぎって事」
「前の方が人間出来ていた気がするけどな」何となくだが。
「そんな事はない。と言うか人間、うつになったからって劣化するわけじゃない」
「劣化したようにしか思えない」
「おにーさんは視野が狭いんだな。自分の事しか見えてない。男の悪いところだ」
「安易なセクシャル論は感心しない」
「って言葉で反論するくらいには論拠が弱い。その程度じゃ私の論は崩せないよ」
「かも知れないが…」私はタジタジである。こういう押しの強い女は苦手なのである。
「人間ね。そうは高尚にできてない訳よ。おにーさんはうつになる前も今も、そんなに変わってない。ただ。感情が上を向かないだけだよ」
「ま、だからこそ。苦労している訳だが」
「だよね。感情はどうしようもないからね」
「まったくだ」
「ま、こういう時は酒を呑むしかないでしょ…大将、焼酎ロックで!」
「…付き合えと?」
「話を聞いてやったんだ」
「無理やり君がほじくり返したんだろ?」
「それでも
「かも知れん」
「素直は美徳だよ、おにーさん」
◆
私は隣の女性とじっくり酒を呑むハメになった。
事の成り行きというヤツだが、面倒くさいのは事実だ。
女性は。仕事の愚痴を私に零す。
彼女もまたオフィスワーカーであり。お局にイビられているらしい。
だが。酒を呑む彼女は。そんな事もあったっけ位の口調で愚痴を零していく。
なんだか。それほどお局にイビられている事を気にしてないようだ。
彼女はハイペースで酒を呑んでいる。
私は適当なところでソフトドリンクに切り替えたが。
彼女は延々と呑んでいる…
結果として。閉店間際には完全に出来上がっており。
「帰れるのか?」の私の言葉に。
「う〜い。任せんしゃい」との返事。こりゃあ私が家まで送るハメになる。
私達は24時に店を出る。
「もう一軒行くぞお〜」なんて女性は言っているが。
「明日も仕事だろうに」
「そりゃそうだけど…」
「はよ帰って寝なはれ」
「送っていってくれ〜い」
「…仕方ない。家は何処?」
「地下鉄の〇〇駅の近所」
「…ど近所だな」私の家も地下鉄〇〇駅の近くなのである。
「そりゃ好都合。任せたぞ〜」
「へいへい」
私は彼女の肩を支えながら歩く。〇〇駅方面へ。
途中でコンビニに寄り、肝臓系栄養ドリンクと水を買い。
私は彼女に与えるが。
「そんな軟弱なモンは要らん」との返事。妙なところで強情である。
しばらく街を歩けば。彼女が住むというアパートに着く。
私はアパートの階段を彼女を支えながら上がり、彼女の部屋の前に着く。
「鍵はどこじゃ〜」なんて支えられている彼女は言う。ああもう、酔っ払いは面倒くさい。
「探してやるから」私は彼女の代わりにバックを漁り、鍵を見つけてやる。
そして。鍵を開けて彼女を部屋に押し込む。
「…ありがとさ〜ん。コーヒーでも飲んで行き給えよ」
「エラく旧式な誘い方をするね?」
「ああ。いや。そういうつもりはない。ただ。一杯ごちそうしたいだけ」
「…お言葉に甘えよう」
「いらっしゃ〜い」
◆
彼女の家は。
私の家と似たような1Kのアパートである。入ってすぐが廊下兼キッチン。その奥に部屋。その部屋にはテーブルが一つとベッド。
とりもあえず、彼女をそのベッドに
「今からコーヒー淹れるからさ」
「無茶するな。勝手に淹れさせてもらう」
「ん?良いのかい。んじゃあ、キッチンの戸棚にコーヒーセットあるから…」と彼女は寝息を立て始める。
このまま帰っても良いが。何となく私はキッチンへと向かい。戸棚を漁り、コーヒーセットを使ってコーヒーを淹れる。
湯が湧く間、私は彼女をぼんやりと眺める。スーツのままベッドに寝転がって寝息を立てる彼女。無防備が過ぎる。
湯が湧いてしまえば。私は予めセットしておいたドリッパーに湯を注ぎ。
挽かれた豆に湯があたり、コーヒーの匂いが部屋に立ち込める。
「いい匂いだ」彼女のお目覚めである。
「そのまま寝てていいのに」
「コーヒーってのは目覚めさせるものだよ、人を」
「飲むか?コーヒー?」私は尋ねる。お湯は余分に沸かしてある。
「貰おう…ってあたし、スーツのまま寝てたのか…シワになる」とか言いながら、私の眼の前で着替え始める彼女。
「やめろよ…その気はないんだろ?」私はタジタジしながら言う。
「ま、ちょいとしたサービスカットだ」
「君は。私をおちょくるのが楽しいらしい」
「はは。ま、それもあるかもね」
着替え終えた彼女と。私はリビングのテーブルに向かい合いながらコーヒーを飲む。
たった数時間前に知り合った女性の家で向かい合いながらコーヒーを飲んでいるのは不思議な気分ではある。
「そう言えば。貴方には夢がない」彼女はコーヒーを啜りながら言う。
「将来の展望じゃないアレな」
「そそ。それ。私ならどうにか出来るかも知れん」
「そりゃまたどういう意味だ?」
「…理屈では語れない何かさ。とにかく私は君に夢を戻してやれるかも知れん」
「…怪しい誘い文句だ」
「別にベッドに誘おうって訳じゃない」
「…で?何をすれば良いんだ?」
「私とベッドに入る。以上」
「…襲うかも知れんぞ」
「それでも構わんけど」
「君は会って数時間の男とベッドに寝るのは嫌じゃないのかい?」
「そら。私だって人によっては嫌だが。貴方なら良いかなって思える。家まで送って貰ったし」
「…頼まれてくれるか?」私は夢がなくても困ってないが。こういう状況なら一つ試すしかない。興味が出てきた。
「んじゃあ。寝るかあ。っても。コーヒー飲んじまったからね。一運動しとくか」
「…結局。抱かれたいのか?」
「そうかもねえ…」
◆
私達はセックスをして。
裸のまま二人でベットに眠る。
運動のお陰で眠たくはある。
「夢を取り戻させるって…具体的には?」私は尋ねる。
「言ったろ、理屈では語れない何かだ、と」
「…」
「とりあえず。あたしの腕の中で寝ろ」
「…へいへい」
ボルダリングとセックスの疲れのせいか。
私はあっという間に眠りに落ちる。
まずはノンレムのステージ1。そして段階的にステージ4まで移行していく。
ステージ4になると、外部からの刺激が入力されなくなり―
◆
「…お。成功した」彼女は眼の前に居る。ただし裸ではない。スーツを着ている。
「…成功とは?」私は何故か裸だ。荒唐無稽なシチュエーション。尋ねているのも馬鹿らしい。
「夢を取り戻したって事さ」彼女は得意げに言う。
「そらあ。有り難いことだが。何でこんな明晰夢めいたモノを見ているんだ?」
「そりゃあ。私が干渉しているからね」
「私の脳に干渉している?」
「簡単に言うとそう」
「機材なしでそんな事が出来るのか?」
「世の中には不思議が一杯ある。例えば私のように」
「君は。一体何者なんだ?そう言えば名前さえ
「別に何だって良いだろ?あたしはあたしだ。名前なんて符号でしかないのさ」
「…人か?君は?」
「セックスしたばかりだろうに。私は人だよ、間違いなく」
「ただの人が。脳に干渉し。夢を創り出している」
「創り出しているってのは間違いだぞ。おにーさん。夢は君の自前だ」
「私は夢を見ない男のはずだが」
「そんなモノ。認識の問題な訳。夢は常にある。ただ、知覚するかしないかってだけ」
「私の知覚次第…私の夢への知覚はうつで壊れたモノだとばかり」
「病は気から。案外人間は暗示に弱い訳だ」
「…そんな事で。数年夢が失われていようとは」
「貴方はあたしと出会えてツイてる」
「かも知れん」
「ま、夢を取り戻したトコロであまり人生に彩りはないかも知れんけど」
「…ないよりは。あったほうが良いかも知れない」
「少なくとも。脳の健康には良いからね」
「デルタ波…」
「科学的に言えばそう」
「…とりあえず。ありがとう」
「何のこれしき」と言う彼女にノイズが混じり始める。
「なんだか君が揺らめいているが…」
「もうそろそろ限界だな。ま、久しぶりの夢を楽しみ給え。んじゃグッパイ!」と言う声と共に彼女はかき消えて。
私は夢の中に沈み込む。
彼女の消えた夢は定形ではなくなり。
まるで無秩序に編集された映画のような様相を呈す。
過去が現れ、空想が現れ、未来が現れる。
私はそんな夢に翻弄されながら。眠りを楽しんだ。
◆
夢から醒めると。
ベットには私独りが残されていて。
彼女部屋のテーブルの上には書き置きと鍵が。
「よく寝ていたから起こさなかった。鍵をかけてポストに入れて出勤し給え。遅刻だぞ」
時計を見てみれば。時刻は9時を回っており。
私は彼女の部屋のシャワーを借り。さっさと身支度して。
会社へ電話をしながら出勤する。
入社してから初めての遅刻である。
だが、何故か妙に気分は前向きで。空の青さが目に沁みた。
◆
それから。
夢を取り戻した私は。睡眠の質が上がって少しは人生が上向いた。
だが。夢を取り戻してくれた彼女とは、再会出来ていない。
あの小料理屋に行ったり、彼女のアパートのあったはずの場所に向かってみたが。
そこには空き地が広がっていた。
…アレは私の夢だったのだろうか?
いや。彼女に取り戻して貰うまで夢を失っていたはずだが…
この答えは見つかりそうもない。
とりもあえず。
私は夢を見続ける。いつか彼女に再会してお礼を言える事を願いながら。
『夢を取り戻す男』 小田舵木 @odakajiki
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