第6話

「あっ」

 オレがわざとらしく声を上げて視線を彼女の背後にやると、彼女はそれにつられて後ろを向いた。その瞬間にめったに使わない能力を発動する。彼女の頭の中のオレに向いている矢印を人差し指でピンと弾いてやるイメージ。集中して強くそのイメージを思い浮かべる。すると、彼女は憑き物が落ちたような顔になった。

「ありがとうございました。本当に助かりました。もう、大丈夫ですので、失礼します」

 無表情でそう言って、彼女はオレから離れて行った。


 いらねーなぁ、カノジョなんて。もちろん、オレだって身勝手でグロテスクな精神性のおぞましい生き物さ。だからこそ、おぞましさを二乗にするような男女付き合いなんてまっぴらゴメンだ。


 性欲が三大欲求の一つ? ま、そりゃあそうに違いないさ。オンナの身体は魅力的だよ。オンナの裸はちゃんとオレの股間を刺激する。でも、オンナの裸なんて画面の中だけで事足りる。って言うか、画面越しでなけりゃ、いくらオフにしようとしても、相手の思念が、モヤが、グロテスクな本音の部分が見えちまう。吐いちまうよ、気持ち悪い。


 えーっと、命の危険がなくて、メシがあって、住むところも存分にあるユートピアに入れたらネズミは絶滅する、だっけ? 昼間のワイドショーでそんな事を言ってたな。そんなネズミは繁殖をしなくなる、って。


 あぁ、ヒトもきっとそうだろうよ。苦痛じゃんか、生殖行為なんて。

 ナンマジはみんなそう思っているぜ、きっとな。


 ナンマジじゃない普通の男女だって、セックスは悪だと押さえつけられた子供時代のその先に「そら、産めよ増やせよ」って言われても困るだろうよ。


 ま、でも、それもいいか。地球上に人類はこんなにいらない……、地球上のあらゆる生命がそう言ってるもんな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ナンマジ ハヤシダノリカズ @norikyo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ