触れざる時の罠〜老いた刈り手と消えた未来〜
藤澤勇樹
山の麓に住む老いた刈り手の幸吉
太陽が頂点に達する頃、いつものように鎌を手に取り、芝刈りに出かけた。
幸吉の体は年老いてはいたが、山への道は彼の足にとってお馴染みであった。
山は静かで、いつものように風が葉を囁く中、幸吉は一瞬、現実から外れたような感覚に襲われた。
それはほんの一瞬のことだったが、幸吉は何かがおかしいことに気付いた。
その日、彼が見つけたのは、山の奥深くに光る奇妙な物体だった。
それは不規則に形作られ、彼の知るどの宝石や鉱石とも異なっていた。
◇◇◇
幸吉は物体に触れ、その表面は意外にも温かく、なめらかだった。
しかし、彼がそれを手に取った瞬間、空気がひんやりとしてきて、太陽の光が暗くなったように感じられた。
不安に駆られながらも、彼は物体を持ち帰ることを決め、山を下り始めた。
しかし、山道を下るにつれ、幸吉は景色が徐々に変化していることに気付いた。
木々の葉が逆さまについているように見え、小川の水は逆流し、花々は閉じていく。
彼は時計を見たが、針は左回りに動いていた。
「ここはもう、昔の山じゃない」と彼はつぶやいた。
◇◇◇
幸吉は不安に駆られ、足早に家を目指した。
しかし、家へと続く道は彼を過去へと連れて行った。
幸吉の若かった頃の山村が現れ、そこには若き日の幸吉自身がいた。
老幸吉は震えながら隠れて若い幸吉を見守るが、若い幸吉は山で同じ謎の物体を発見し、それを手に取るところだった。
老幸吉は悟った。
「これは呪われたループだ止めなければ」
と彼は決意し、若い幸吉に向かって叫んだ。
「触るな、それは時の罠だ!」
しかし、若い幸吉は老人の声を聞くことなく、物体に手を伸ばした。
◇◇◇
叫び声が山に響き渡った。
老幸吉は、時間の裂け目に飲み込まれるように若い幸吉の元へと引き寄せられた。
二人の幸吉が触れ合うと、物体は輝きを増し、突如、山全体が激しい光に包まれた。
光が消えると、山は静寂を取り戻し、老幸吉は若い幸吉の姿をどこにも見つけられなかった。
老幸吉は、自らが手にしていた物体もなくなっていることに気づいた。
時間を逆行する力を持つ物体を持った老人は、過去と未来をつなぎ、自己の存在を消してしまったのだ。
そして、山は再び、ただの山として静かな日々を送るようになった。
しかし、ある日の夕暮れ時、またしても山の影から奇妙な輝きが見え始めたのだった...。
触れざる時の罠〜老いた刈り手と消えた未来〜 藤澤勇樹 @yuki_fujisawa
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