美菜が征く星の大海

 ショウの二度目のメモリアルトリビュート・コンサートは、今年も大盛況だ。

 去年の暮れに配信した、クリスマス・アコースティックライブで、久し振りに火が点いちゃったファンも多いらしく、熱気が凄かった。


 そして、アンコール。


 ショウのバックバンドだった『ナイト・クルーズ』のメンバーが久しぶりに揃う。

 ドラムのリクさんのカウント。

 優しいアコースティックギターのストローク。

 配信のクリスマスライブでも聴ける、この曲はもちろん『Starry Night!』

 集まってくれたミュージシャンたちに、背中を押されるようにしてステージに出る。

 一瞬のファンの戸惑い。

 でも、歌い出した時に、私が誰なのか解ってくれたみたい。

 温かい拍手とともに、歓声のヴォルテージが上がった気がする。気のせいじゃないよね?

 ステージの真ん中には、立たない。そこはショウのいる場所だから。

 一歩隣に、寄り添うように……。

 歌い終わって、降り注ぐ拍手。やっぱり嬉しい。


「皆さん、ご無沙汰をしております。……ショウの妻なんぞをしておりました、立原美菜たちはら みなです」


 挨拶をしながら会場を見る。

 暗いから見えないとお思いでしょうが、実は意外に見えるものなんですよ、お客さんの顔も……。友チケを配った【美食倶楽部】のメンバー見っけ! JCズも、今日はおめかししてる。


「ショウがね……いろいろイタズラをしてくれるものだから、私も慣れないVRゲームをさせられたり、本当に大変でした。それで知り合った、お友達もできたから、結果オーライだとはいえ……まったくもう」


 朝吹さんが、コロコロと台に乗せたマックのノートを運んできてくれる。

 本人は嫌がったけど、この役は朝吹さんが良い。

 紹介したら、物凄い拍手が来たよ! 朝吹さんって大人気?


「……でね、あのイタズラ好きの人だから、ゲームに曲を隠すだけでは済まなかったの」


 私は、最近覚えた通りに、ノートパソコンのDTMソフトを起動して、ファイルを開く。

 実はこの件は、私と朝吹さんだけの秘密案件。

 参加ミュージシャンたちも、何が始まるのか興味津々で見てるよ。


 後ろのスクリーンに『流星群の夜』ってタイトルが出る。

 さぁ、今日は歌詞が後ろに出るから、間違えたり忘れたりはできない!

 軽快なギターソロで始まるノリノリのナンバーに、みんな呆気に取られてる。

 もうこの世には存在しないはずの、ショウの新しい楽曲……。


「そのゲームの中に、私宛のメッセージが仕込んであって……いつか私に歌わせる用に作ってた曲がいっぱい見つかったの! これはその内の一曲!」


 リアルじゃギターは弾けないし、振り付けて踊るのも年齢的に何だし……結局タンバリン片手に歌ってる私。

 私の声を、歌い方を一番愛してくれてた人が作ったんだもん!

 盛り上がらないはずがない。

 すべての照明が、ステージに向いている。

 でも、私はひとりじゃない。

 真っ暗になった客席だけど、応援してくれる声が有る。

 そして、ペンライトの光が揺れている。


 私は、ステージに帰ってきたんだと、改めて実感した。

 当分はショウの残してくれた曲にサポートされながら、そしていつかは自分で作った曲で、このペンライトの揺れる星の海を征こう。

 胸を張って、ドヤ顔でショウに聴かせて褒めてもらうんだから。

 いつか、その日が来るまで。

 私──立原美菜は征くよ。ファンの人のペンライトが導いてくれる、この星の大海を!



『ミナの征く星の大海~リライトサガ・オンライン』  完


新作『掴むぜビッグマネー!~金持ち共の慈善事業がリアルマネーを稼げるVRMMOだと?~』


https://kakuyomu.jp/works/16818093076897849681


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ミナが征く星の大海~リライトサガ・オンライン ミストーン @lufia

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