BE ALIVE!

 受け取った言葉を早く伝えたくて、すぐにログオフする。

 慌ててスマホを掴んだら、ニャンコに『ニャア!』と注意された。


 あはは……時計の針は、夜中の一時過ぎ。しかも平日。

 さすがに、この時間の電話は迷惑だよね……。

 ポチポチとメールを打つ。

 明日の朝にでも気づいてくれれば、それでいいか。

 と思ったら、折り返しで電話が即鳴るわ、アウディ飛ばして駆けつけるわって

 朝吹さんって、完璧超人?


「文鳥の巣箱って、あの一番大きいやつね?」

「だめだよ、朝吹さん。ウチの文鳥たちは人懐っこいから、ビニールガッパを着ないと大変なことになるの。下手すると、ポケットに入って朝吹さんの家までついて行っちゃうよ?」

「それはちょっと困るかなぁ……」


 ラフなパジャマ姿の私が、ビニールガッパを着て突入。

 急に明るくなったものだから、興奮状態の文鳥たちを宥め賺して、巣箱の裏を探る。

 ……あった!

 籠の隙間から朝吹さんに渡して、私は人懐っこくスリスリしたがる文鳥たちを排除にかかる。そのために入口が二重になっているのよ。

 カッパを脱いでパタパタ。ポケットや、襟の裏などに紛れ込んでいないかを調べてから、出てくる。……おっと、危ない。スリッパに、しがみついてる子がいた。お家にお帰り~。


 タイトルも何も書かれていないディスクを持って、ショウの仕事場だったスタジオに。

 ずっとお掃除だけはしていたスタジオが、数年ぶりに目を覚ました。

 DTMデスクトップ・ミュージック機器の中心になるのは、マッキントッシュのパソコン。私は使い方が解らない。

 完璧超人な朝吹さんは、気軽に立ち上げてシーケンスソフトを開く。


「多分、楽曲データだと思うのよ」

「楽曲データって、パソコンで演奏させるやつ?」

「そうよ……パソコンにサンプリングした楽器の音色を、楽譜通りに鳴らして、音の減衰まで指示してやると、打ち込みだけでバックの演奏ができる……って、そこまでの説明はいらないわね」

「うん、ショウがやってるの、見てた」


 読み込ませたディスクには、宣言通りにパスワードがかけられてる。

 これ、どうするの?


「パスワードか……、まあショウのやることだから」


 朝吹さんは、カタカタとキーボードを叩く。「MINA」に生年月日の数字を付けて……あ、開いちゃった。ショウ、パスワードの意味がないよ! 朝吹さんにバレバレだよ!


「私には解るようにしてくれないと。美菜ちゃんじゃ、パソコンに触れないもの」


 ……もっともだ。

 ディスクの中には二つのホルダー。【MUSIC】と【LYRIC】……曲と歌詞。

 興奮を隠せない朝吹さんが、演奏ファイルを開く。

 いかにもショウらしい、ダイナミックなベースラインが鳴り響いた。

 私も、朝吹さんも知らない……でも、はっきりとショウらしさに溢れた曲。

 それが何の為に書かれた曲なのかは、ヴォーカルの代わりに置かれたメロディ楽器から、すぐに解ってしまう。

 ソプラノサックス……いつも、私の声の代わりに使うやつ。


「ショウは、美菜ちゃんに歌わせたがってたものね……」


 私が、ショウの歌の方を聴きたがるから、いつも嫌がったんだ。

 なのにショウったら、いつか私に歌わせようと、こんなに曲を準備していたんだ……。

 ファイルのタイムスタンプは、付き合い始める前から、最後の入院前日まで。

 よくもまあ、私にさえ内緒でこんな……六十八曲も……馬鹿。


「美菜ちゃんのモットーは、『すべてのショウの曲は、ベストの状況で全てのファンで共有する』だったわよね? この誰も知らない新曲群を、どうしましょうか?」


      ☆★☆


「やっとアニメーションが生まれた~」


 笑顔満面で、モモンガさんが報告してくれる。

 みんな、拍手~。でも、モモちゃんもいきなり発表しないでよ。

 目を離すと、サンタクロースを見失っちゃうでしょ!


 今年のクリスマスイベントは『サンタクロース・チェイス』

 銀河を駆け回るサンタクロースを追いかけて、一人五発のハートの矢を射かけるものだ。

 命中すると、プレゼントを落としてくれるの。

 リアルタイム戦闘だし、すばしっこくて大変だあ。【狙撃】スキル無効は酷いよね!

 私が強引にロックライブをやったことは、みんなに白状しております。

 おかげで、バスドラとスネア、シンバルの、シンプル三点ドラムセットが開発されたりと、少しは芽も育っているみたい。

「聴きたかった」というお世辞には、客席総退場必至の玉砕ライブは見せられないと、笑って返した。元とはいえ、プロの沽券に関わるもん。


「それでも、聴きたかったですよ?」


 と、言ってくれるしーちゃんは、年末での都庁退職を決めてサバサバしてる。

 肌の艶からして違うわ。何でこの美人さんが、寿退職じゃないんだか……。


「おかげさまで、イラスト仕事が一杯で、恋愛どころじゃないです」


 と、ちょっと恨めしそうな目で見られた。

 くれぐれも税金とお酒には、気をつけて欲しい。


「ヒナ、そっち言ったー!」

「牽制してよ!」

「あーん、外れたー!」

「こっちは、あったりー!」


 と、賑やかなJCズには、今年もリアルでクリスマスプレゼントをせびられた。

 ウチの文鳥くんたちを分けて欲しいって言われて、鳥籠持参でウチに来て、つがいの子たちをそれぞれに。最近、文鳥飼育が流行ってるなんて噂はないけど、どういう風の吹き回しなのだか?


「朝吹さんに、ミナさんちの文鳥の人懐っこさを聞いたら、欲しくなっちゃった!」


 なるほどね。

 そっちのルートか……。


「私も、文鳥欲しいですっ。アパートでも小鳥なら、飼えますよねっ」


 春から、東京一人暮らしの決まったカヌレちゃん。

 君は、もうちょっと待とうね。

 四月から三ヶ月間は研修で、あちこちのコンビニの店員さんをするんでしょ?

 それが落ち着いてからにしましょう。

 くすくす笑ってる朧さん。

 この人こそ、クリスマスイブにゲームやってる、なんてタイプじゃないでしょうに……。


「世の中の男性が全員、クリスマスイブに休みなわけじゃないから」


 なんて、意味深なことを言ってる。

 ……大人だ。


 マサくんは、クリスマスもなく練習。エトピリカさんと、エグザムさんはリアルで合コンだそうな。まあ、頑張れ。

 D51さんは同行しているものの、話題に口を挟みきれないとばかりに、無言で記事書きに走ってる。すまぬ……。


 JCズの門限に合わせて、一旦お開きだ。

 自分の領地に帰って、ログオフしよう。

 と、思ったら、ショウに誘われた。


『ミナ、クリスマスライブに行こうぜ!』

「え? ショウが歌ってくれるの?」

『それよりもっと、喜びそうだけどな……。アリーナの小ホールで、領民のライブが有るんだよ』

「ウソっ!」


 息が詰まりそうになった。

 秋に無理矢理蒔いた種が、こんなに早く……でも、プレイヤーは領民の創作物を楽しむことはできないんだよ。

 映画や音楽、いちいち運営さんが作るわけにもいかないからさ……。


『それでも、集客の具合を見るだけでもウキウキするだろう?』

「うんっ!」


 ショウと連れ立って、街を歩く。

 北半球でも、回帰線に近いこの街は半袖で充分。サンタもサーフボードに乗ってくるような、サマーリゾートだ。ちょっと情緒に欠けるかも。

 チケットを買って、ホールに入る。

 客の入りは、百人の小ホールに七割ほど。なかなかのものだ。

 そして、ステージにガットギター二本、ウッドベース、シンプルドラムの四人編成のバンドが登場する。

 そして、演奏開始。……何で曲を聞けるんだろう?

 スタンドマイクに向かって、上手からヴォーカルが駆け込んで、シャウトした。

 ヴォーカルの声はショウ……これが、最後の七十二曲目?

 この世界にロックが育って、初めて聞ける曲……。


♪BE ALIVE 俺のいないこの世界で

 お前は生きてくれ

 BE ALIVE そしていつか

 お前が作った最高のものを持って

 俺の所に来ればいいさ

 お前の作るものなら全て 俺が褒めると思うなよ?

 その胸を目一杯張って 自慢できるものを

 お前なら必ず作れるから

 その日まで

 BE ALIVE 輝く日々を生きてくれ

 約束できるな?

 BE ALIVE


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次回、最終回

『美菜が征く星の大海』です。

いよいよ、ゴール。

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