最初で最後の二人乗り
藤泉都理
最初で最後の二人乗り
絵の具で塗ったような、そんな青空は私の届けたい想いすらも飲み込んでしまったのだろうか。
「待って!」という声もきっと今は届かない。
昔は、辿っていけばどこまでも行けそうな気がしたひこうき雲も、今は私を置いてどこかへ飛んでいくだけになった。
被っていた麦わら帽子を脱いで遠くの空を見上げる。
そこに大きく存在していた入道雲と、目が合ったような気がした。
魔法が使えなくなったことを、受け入れろと言われたような気がして。
受け入れられるわけがないだろうと、麦わら帽子を投げ打った。
禁止されている魔法の箒の二人乗り。
けれど今日は、今日だけは、見逃してほしい。
罰はあとでいくらでも受けるから。
一緒に飛びたくたって、できやしない。
後ろに乗せている友人は。
もう、魔法を使えないのだから。
「もっと速度を上げろよ」
「ばかたれ。二人乗りだけでも違反だってのに、速度も上げて違反を増やせるかってんだ」
「っけ。ルールを一つ破ったんだ。二つ破ったって変わらないだろ」
「ばっか。変わるわ。謹慎期間が延びるわ」
「っけ。別にいいだろ。延びたって。俺はもう、今日には、ここから出て行くんだぞ。でっかい土産ぐらいくれっつーの」
「はいー。しおらしい態度取ったってダメですぅー。おまえはここから去るけど、俺はいるんだからな。俺は、史上最強の魔法使いになるんだからな」
「っち。汚点を増やしてやろうと思ったのによう」
「っふ。おまえの考えはまるっとすべてお見通しだ」
「誰の真似だよ」
「人間界のドラマの主人公」
「俺、人間界のスターになってやろっかなー」
「やれるもんならやってみろってんだ」
「おまえもな。っつーか。おせえし。はーやーくーとーべーよー」
「遅すぎて最大の土産になっただろうが」
「最低すぎて忘れらんねえ」
「へへっ。忘れるな忘れるな」
俺は笑った。唇も鼻も眼球も上げまくって。笑った。
けれど友人はきっと、いつもと変わらず、小憎らしく笑っている事だろう。
まあ、今の俺の顔を見たら、表情が崩れて、大笑いするだろう。
から。
ぜっっってー見せてやんねえよ。
せいぜいのろまな飛行に退屈してろってんだ。
「なあ」
「うん?」
「忘れてやんねえよ」
「おう。忘れてくれるなよ」
魔法が使えなくなったと宣告された日と同じように、絵の具で塗ったような、そんな青空の下。
「待って!」という声もきっと今は届かない。
わかっていて、それでも、叫び続けた言葉。
今なら、届く。
信じているのではない。
わかっている。
届ける相手を変えたから。
魔法の神様に、ではなく。
魔法の箒に乗せてのろい飛行を手向けに贈ってくれた友人へと。
待っていろ。
おまえが史上最強の魔法使いになるより先に、新たな夢を叶えて会いに行ってやるかな。
(2024.1.23)
最初で最後の二人乗り 藤泉都理 @fujitori
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