第22話『もうちょっとみんなみたいな反応見せてくれても』
ダーハルシュカの街は湖畔の、本当に美しい街だった。
深い青色の水をたたえた湖はリベルフォリアというそうだ。
湖の西岸はラルカミン山脈に接していて、街は北東岸に広がっている。広がっていると言っても、山が緩やかに迫っている斜面だから平地の街ほど広がっている感はない。でもラトゥスプラジャみたいな谷間じゃないから、やけに優雅に見えた。
「リゾートっぽさ!」
「コレはリゾートだわ」
街より少し高台になる街道から見下ろして、レツとハヤが嬉しそうに言った。
白く塗られた壁の木造建築。街の建物は基本的に戸建てで、深い茶色の浅い切妻屋根が白い壁に映える。
窓辺には色とりどりの花が飾られていてカラフルだ。高層の建築物は物見の塔と教会だけ。今まで見てきた煉瓦や砂岩造りの街と違って、戸建てだからぎっちり詰まってる感じがしない。
大通り以外の道は石畳じゃなかったけど、木を埋め込んであって平らに整備されている。
「そういえば地味に標高が高いのな」
シマはのんびりと馬を引きながら言った。言われてみればプロイトゥマンに着く前からずっと山の上り道だった。
じゃあダーハルシュカは高原の街なのか。
街に城壁は無かった。こんな風に山に囲まれていたら城壁とかあんまり意味なさそうだし。
湖岸に広がる街の端と端と街に至る街道で三角を作ったら、ダーハルシュカの外側って感じ。そういえば馬を預けないのかな。
「どう動くか決めてないからな。こういうとこなら厩付きの宿もありそうだし」
キヨはそう言いながらも、宿を探してる感じはない。なんでだろ。
「まずフィカヨを送るのが先だろ」
コウはそう言って俺を小突いた。フィカヨはちょっとだけ申し訳なさそうに笑った。
あ、そうか。俺たちがここまで来たのってそれが目的なんだった。お告げが来ちゃったから半分以上忘れてた。
「何かもうフィカヨも仲間みたいになってるから、変な感じ」
俺が言うと、みんな面白そうに笑った。
「とりあえずギルドだっけ?」
キヨはフィカヨを促して歩き出した。
俺たちは街並みを眺めながら歩く。木造の店のウィンドウはあまり大きくない分厚いガラスが格子にはめ込まれていた。
店ごとわかりやすい看板が下がっているから何屋かわかるけど、店の中が見える感じはない。もっと魔法道具屋が多いのかと思ったけど、それほど派手に推してるわけじゃなさそうだ。
街全体は湖に向かって緩やかに下っている。
でも建物が建ち並ぶ道は、案外結構な坂だったり唐突に狭い路地だったりした。戸建てだから逆にこういう道が多いのかもな。
大通りは石畳が敷かれていて広いけど、馬車がやっとすれ違える程度だから今まで行った大きな街に比べたらこぢんまりとしている。
キヨはああ言ったけど、王都レベルのデカイ街ならまだしも、この規模の街だと逆にみんな街の外れの街道近くで貸し馬屋に預けるんじゃないのかな。
俺はチラッとみんなを見た。いつものキヨだったら、シマに渡してさっさと行っちゃいそうなのに。
「もしかしたら、フィカヨに何かあった場合に備えてるのかもね」
フィカヨに? 俺がレツを見たら、レツは面白そうに笑った。
「もしフィカヨがすぐに何かするんじゃなかったら、もうちょっと一緒に行動できるように馬を預けないでいるとか」
キヨだってフィカヨを気に入ってるんじゃんと、小さな声で付け加えた。なるほど! でもそれだったらいいな。
「まだフィカヨを酔い潰す会もできてないもんね」
レツも俺と一緒になって、にやーって笑った。俺とレツは飲まないけどね。
それから俺たちは街の中心部にあるギルドまでのんびり歩いて行った。
ギルドにはキヨとフィカヨとレツが一緒に入った。一応代表者だし。俺たちはギルドの外で待っていた。
ら、あっという間に三人が出てきた。
「お早いお帰りで?」
コウがそう言うと、キヨは着いて来いって感じにちょっと頭を振った。
俺たちは顔を見合わせて、それからキヨに着いて行った。キヨは誰に聞くでもなく街を進む。キヨだって初めての街のはずなのに、なんで迷い無く歩いて行けるんだろ。
辿り着いたのは通信屋だった。
「もしかして、またヴィトと通信するのかな」
「一応ヴィトからの依頼でここまで来たんだし、直接通信して指示もらうのでも不思議はないな」
王子様ホントに面倒見がいいな。シマは店の前に馬を繋いだ。
「この人数入れるのか?」
キヨはシマの言葉に小さく肩をすくめて店に入る。ちょっと中で話して、それから顔だけ出して来いって感じに頭を振った。
俺たちはぞろぞろと通信屋に入った。店の人について二階へ上がる。
大人数の客用の広い部屋とかあるのかも。店の人に案内され、キヨがみんなを待って扉を開けた。
「じゃじゃーーーーーん!!」
ええええええ!! 開けた瞬間に俺たちは驚いて固まった。そこには両手を上げたヴィトが俺たちを見て笑っていたのだ。どういうこと?!
「だと思った」
一人まったく動揺しなかったキヨが小さくそう言って部屋に入る。
「え、キヨちょっとそれヒドくない? もうちょっとみんなみたいな反応見せてくれても」
「友達みたいに接しろっつったのお前だろ」
ヴィトの背後に、家臣みたいな人たちが小さく隠れて笑っている。
あれ、あの人前にも会ったような……あの制服って移動魔法士だよな。もしかして、ギルドが連絡する手はずになってたとか? それで驚かせようと直接来たってこと?
キヨがあまりにも普段通りだから、俺たちは顔を見合わせてぞろぞろと部屋に入った。
「久し振りーっつか、何、簡単に来れるようになったの?」
レツはまだ驚いた顔でヴィトに近づいた。ヴィトはちょっとだけ顔をしかめる。
「一応さ、おおやけにはしてないけど結構ヤバめの話なんだよね、この件て。だから言い訳にして見に来れたっていうか」
今日こそ一緒にご飯食べようねーと、ヴィトはレツと両手を繋いでブンブン振った。レツも一緒になってブンブン振る。
「今度こそゆっくりできるんだ?」
「できない。実は分刻みで予定が詰まってる。ので、ここでご飯にするしかない」
ヴィトは俺たちを長いテーブルへと促した。俺たちはちょっとだけ顔を見合わせる。王子様がどこに座って、誰がどこに座るべきなんだ。
「テキトーに座って。僕はみんなの話を聞くから、とりあえず真ん中」
そう言ってテーブルの真ん中につく。
ざっくり真ん中だけど、八人居るから真ん中にはならんよな。俺たちは何となくキヨの後ろについてヴィトの前に押しやった。キヨは意図に気づいて俺たちを振り返る。
「今回は俺じゃなくてレツとフィカヨだろ」
「まぁね、でも聞けるならオブザーバーからなんだよね」
ヴィトは向かいの席を示すようにテーブルを指先で叩いた。キヨは面倒くさそうな顔をして、それからシマを引っ掴んで自分の隣に座らせた。
こういう代表者って言われるといつもお兄ちゃんに隠れるよね。それを見てヴィトは小さく笑う。
「じゃあレツは僕の隣でー、フィカヨも隣にしよっか」
フィカヨは驚いて俺たちをすがるように見回した。
……王子様がいいって言うんだからいいんじゃないかな。フィカヨは恐る恐るテーブルを回ってヴィトの隣に座る。
結局ハヤはキヨの隣に、俺はハヤの隣に座った。コウは俺の前でフィカヨの隣、一番入口に近い席に座った。
「んで、どうよ」
「雑な聞き方だなー」
シマはそう言って笑う。
言ってる間に、給仕が来てグラスにタレンを注いでいった。俺とレツの所にはスリムなグラスに赤いジュースが置かれていく。やった、あの苺のジュースだ!
「他の三人は?」
キヨはタレンのグラスを取って言った。
「経過見ないで新生活にぶっ込んでみたけど、なかなか上手くやってる。まぁ、元がスパイだけにそれすら疑える要素ではあるんだけど。仕事はとりあえず冒険者からは外したんで、不器用な困難にぶち当たることもあるけどね」
それってフィカヨたちの話? ヴィトはやっぱり彼らを疑ってるのか?
給仕たちが俺たちの前に皿を置いていく。白くて大きな皿には薄焼きの生地の上に卵や野菜やベーコンやソーセージを載せて焼いてあった。
生地の四隅が畳まれていて、何だかおしゃれな食べ物だ。俺はナイフとフォークを取った。どこから食べるんだろこれ。
「じゃあ、その辺は安心だな。ちゃんとムカついてたし」
「あ、そうなんだ? 何かあった?」
キヨはチラッとフィカヨを見た。
「地竜に童貞奪われそうになった」
次の更新予定
2024年12月12日 20:00 毎週 木曜日 20:00
Ⅲ 勇者になるハズの俺がしょうがなく見習いとして入ったのは、ゆるふわ勇者とチートな仲間。 さい @saimoon
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。Ⅲ 勇者になるハズの俺がしょうがなく見習いとして入ったのは、ゆるふわ勇者とチートな仲間。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます