エピローグ
第114話 ホロの村でのその後(最終話)
魔王ならぬ、魔王を食べたシリルを討伐しセイクレイドに戻ってきた僕達は、ことの顛末を教皇様に伝え、実家のあるホロの村に帰ることにした。
勇者達が僕についてくると言ったとき、教皇様は何とか引き留めようとしたけど、勇者達の決意は固く、レベルが上がった彼らを力で止めることもできず、それどころかレイが僕の村に行くと言ったので聖女様までついてくることになってしまった。
やっぱりそういうことだったのか。
神聖国家は一気に弱体化してしまったようだけど、戦争が起こるわけでもなさそうだし大丈夫だよね?
僕らは泣いてすがりつく教皇様を振り払い、空間転移でホロの村へと飛んだ。
▽▽▽
「へー、ここがライト君が生まれ育った村かぁ。うん、自然がいっぱいで何だか落ち着くね!」
転移するときなぜか僕の左側を陣取ったカオリさんが、腕を絡ませながらホロの村の感想を口にする。
「ふふふ、ようやく私達の村に帰ってきたわね! これからはずっと一緒にいられるね!」
僕の右腕をぎゅっと抱きかかえながら、ミアが嬉しそうに言う。でも目が笑っていなくてちょっと怖い。
「おー、久しぶりだなこの景色。どれどれ早速ライトの母さんに挨拶しに行くとするか」
レイは聖女様を横に侍らせながら、僕のお母さんにも手を出そうというのか!?
「あ、私も挨拶に行きたい!」
カオリさんが言うと、何か別の意味に聞こえてくる。
「あんたは行かなくていいでしょ! 私が報告してくるんだから、あんたはここで待ってなさい!」
そんなカオリさんの発言になぜか怒っているミア。一体どうしたというんだ。
「ふーんだ。幼なじみにしかなれないあなたこそ、引っ込んでたら? 大体、あなた暗殺者なんでしょ? 一緒にいたらライト君の心が安まるときがないじゃない」
ふたりとも何の話をしているんだ。というか、僕を挟んでケンカしないでほしい。両腕を引っ張られて身体が裂けちゃいそうだ。
「全く、カオリもどうしちゃったんだか」
ショウタが呆れた顔でミコに話を振るが――
「あたしだってまだ諦めてないし」
そのセリフを聞いたショウタはがっくりうなだれている。
「とりあえず、みんなで行こうぜ!」
なぜかレイがみんなを案内し、僕の母が働くこの村唯一の食堂へと向かっていった。
▽▽▽
あれから三ヶ月が経った。勇者達三人は僕の家の隣に家を建て、三人で仲良く? 暮らしている。レイと聖女様はこの村に新しい教会を建て、女神教の布教活動を行っている。教会という神聖な場所で、夜はふたりで別の活動を行っているみたいだが。
ミアは自分の家で暮らしているが、しょっちゅう僕の家にやってくる。もう復讐は終わったからジョブを変えないのか聞いてみたけど、現状、暗殺者の方が都合がいいということで変更しないと言っていた。何の都合かはわからないけど、僕の家に忍び込もうとするのは止めてほしい。
それから、僕は今までに貯めたお金でお母さんに新しい食堂をプレゼントした。僕が長い旅で学んできた料理やスイーツ、それから勇者達に教えてもらった異世界料理、これらが新しい食堂の看板メニューとなっている。
異世界メニューは勇者達の家の裏に田んぼや畑を作ることで、材料の確保に成功した。僕の
勇者達も僕が作った異世界料理に大満足で、一生ここで暮らすと宣言していた。でも一番食べていたのは、無言で料理を口に運ぶ聖女様だったけどね。
僕とお母さんで運営する食堂だが、段々と噂が広まっていったのか近隣の村や街からお客さんが来るようになってきた。そのお客さん達が自分達の街に帰って、僕達の店の話をするもんだから、益々お客さんが増えていく。
さらに一ヶ月経つ頃には、店の前には行列ができお客さんの数が村人の数を上回るようになっていた。おかげで村もどんどん発展し、宿ができたり、ショウタの提案で温泉と呼ばれる大きなお風呂ができたり、下手な街よりも大きくなっていった。村長さんが嬉しい悲鳴を上げていたのはご愛嬌。
ミアやカオリさん、ミコさんは僕の食堂で働いてくれていて、ショウタは村の人を雇って温泉を経営している。
そんな、ホロの村の名前が有名になったことで、かつての知り合いが訪ねて来るようになった。
まず訪ねて来たのはコジローさんだ。
「ライト殿! 久しぶりでござる! 味噌や醤油の開発に成功したと聞いて急いで来たでござる!」
コジローさんは僕が作った異世界料理やお酒をえらく気に入ったらしく、この村で暮らすためにショウタが経営する温泉で住み込みで働くことになった。
次にやってきたのは、アルバーニーさんとルーシャンさんだ。何と彼らはトリューフェンにある店をたたんで、家族みんなで引っ越してきたのだ。この村の噂を聞いて、これからの食の中心はホロの村になると確信しての行動だそうだ。
なんとまあ、思い切ったことをする。これにはエイダさんも苦笑いしていた。
アルバーニーさんとルーシャンさんは、僕の食堂の両隣にすぐに店を構えるつもりのようだ。店が建つ間に、僕の食堂の料理を一通り食べるつもりらしい。
「うぉぉぉぉ、創作意欲がわいてきたわい!」
料理を食べるたびに毎回そうやって叫ぶもんだから、アルバーニーさんは内の村でもすぐに有名になっていた。
村に人が増えると施設も増えるようで、この村にも何と冒険者ギルドができた。色々な国の冒険者が料理に釣られて訪れ、コジローさんや勇者達が住んでいるのを知って、ここを拠点へと変更していく。
僕がビスターナで出会った、
メグさんが、ミアやカオリさんとにらみ合っていたのは見なかったことにしよう。
食堂の運営が軌道に乗ってきたところで、僕とレイは仕事の傍ら、運送業も始めた。希望する
もうこの頃には、ホロの村は村という規模ではなくなっていて、ワールーン王国の国王から正式に街として認められた。村長さんは国王直筆の手紙をもらい感極まっていた。もう、村長ではなくなってしまったけど。
そんなワールーン国王がお妃様とお姫様を連れてお忍びで来たときは、さすがにびっくりした。どうしても僕が作った料理が食べたかったらしく、お忍びというには多すぎる団体様での来店だったけどね。
「何だかんだで、レイのおかげで幸せな人生を送ることができたよ。ありがとう、レイ」
ある日僕はレイと冒険者達を送った帰り、二人きりになったところでお礼を言った。
「おいおい、どうしたんだ改まって。お前らしくないじゃないか。むしろ、こっちがお礼をいいたいくらいだぜ。何せ、俺の失敗でお前の人生を狂わせてしまったんだからな」
確かにきっかけはそうかもしれないけど……
「僕の人生は狂ってなんかいないよ。むしろ、レイが来てくれなかったら……この景色は見られなかっただろうから」
今僕の目には、立派になった僕と母さんの食堂。そこに行列を作って並ぶお客さん達。中で働いてくれているミアやカオリさんやメグさん。この環境も仲間もレイの力がなかった、決して叶えられなかったものだ。そのくらい僕にだってわかっている。
「ま、あれだな。俺も身体を持てたのはお前の転生魔法のおかげだからな。そこんとこは礼を言っておくぜ」
ちょっと照れたように頬をかくお人好し賢者。
「その転生魔法もレイのおかげで使えたんだから、やっぱり僕の方こそありがとうだよ」
レイは僕がいなくても、別の誰かの中に入っていても同じことができただろう。でも僕はレイがいなかったらこうはなっていなかったはずだ。だからこそ、もう一度お礼を言った。
「よし、この話はこれくらいにして、これからお前に最後の古代恋愛術を伝える心して聞くように」
何と、このタイミングで古代恋愛術をぶっこんできやがった!? 感動の場面を台無しにする気なのかと思いつつ、静かに耳を傾けている僕がいた。
「俺が暮らしていた時代はひとりの男が何人もの女を妻にすることが許されていた。つまりだ。古代人の力を持つお前は今のきまりに縛られることなく、何人もの女を娶ることができる! ひとりを選ぶことができないなら3人、いや4人でも5人でも囲ってしまえ!」
こ、こいつなんて恐ろしくて魅力的なことを言い出すんだ!?
しかしですな、古代恋愛術君。君には色々とお世話になったような気もするが、最後は自分の意思を貫かせてもらおう。
僕はね、もうひとりに決めているんだよ。
にやにやするレイに肩を組まれながら、僕はある決意を胸に家に帰るのであった。
~完~
『突如最強賢者の力を手に入れた僕は、この力で就職活動を頑張ります』を最後までお読みいただきありがとうございました。
この作品はここで完結となります。
もう少し長く続けようと考えたこともありましたが、この作品はここで完結させ次回作を書いていくことにしました。
次回作については改めまして、近況ノートにて報告させていただきます。
また、ギフトを送っていただいていること、深く感謝申し上げます。この場を借りてお礼させてください。
ももぱぱより
突如最強賢者の力を手に入れた僕は、この力で就職活動を頑張ります ももぱぱ @momo-papa
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