第113話 重なる運命

 ブシュ!


 柱の陰から飛び出してきた何者かが、光り輝く短剣でシリルの首筋を切り裂いた。凶暴化によって防御力が下がっていたとはいえ、あのシリルにダメージを与えるなんて何者だ?


「グゥゥゥ……ミア コロス コロス コロスゥゥゥゥ!」


 首筋を切り裂かれたにもかかわらず、シリルが倒れる気配はなく、それどころか再生のスキルで傷がみるみる治っていく。そして今度は、自分の首に傷をつけた何者かを見て、再び発狂したように叫びだした。

 ショウタやレイが攻撃したときは何の反応も示さなかったのに、なぜこの人にはこれほど反応するんだ? それにこいつ今、ミアって言ったのか? シリルが知ってるミアって……まさかあのミアなのか!?


 しかし、飛び出してきた人物を確認する暇もなく、シリルがミアと呼んだ人物に襲いかかる。


「きゃ!?」


 ミアだ。この声はミアだ! 僕は最大限強化した結界をミアの前に張り、全力にミアの元へと急いだ。


 ギィィィィン!


 ドゴォン!


 シリルの黒い剣が結界に阻まれたところで、シリルを両足の裏でキックし吹き飛ばす。これはショウタに教えてもらったドロップキックという技だ。


 シリルを吹き飛ばした僕は、うずくまるミアを守るように覆い被さる。


「大丈夫かい、ミア。それにしてもなんでこんなところに?」


 シリルから目を離さないようにしながら、僕はミアに尋ねる。


「あっ、助けてくれてありがとうございます。私は幼なじみの敵をとるためにここまで来て……でも、あいつには敵わなくて」


 そうか、ミアは誰かの敵討ちに来たのか。それにしてもシリルのヤツめ、僕を陥れただけじゃなく人殺しまでしていたのか。僕の知り合いじゃないといいんだけど。


「そうか。でも、ここは危ないから下がっていて。ミアの敵は僕がとるから」


「でも、でも、敵わなくてもいい、死んだっていい、ライトの敵は私がとるって決めたんです!」


 ん?


「…………」

「…………」


 ライトの敵? あれ? 死んだのって僕? いやいや、僕は死んでないよね? おや、確かにビスターナの受付のケイトさんも僕が死んだと思ってたって言ってたな。もしかしてもしかして、ミアはずーっと僕が死んだと思っててその復讐のためにシリルを追いかけていたのかな?


「えっと、あの、その、もしかしてだけど……ライト?」


「あ、はい。えっと、うん、そう、一応、ライトです」


 気まずい。非常に気まずい。そして、ミアももの凄く気まずそうだ。


「ライトォォォォォ ミアァァァァァ コロス コロス コロスゥゥゥゥ!」


 空気を読まない男がいた。いや、最早性別は文字化けして何だかわからないけど。ただ、今はその空気の読めなさがありがたい。僕はミアを背中に庇いつつ、シリルの方へと向き直った。


太陽光線ソーラーレイ!」


 光魔法SSクラスの太陽光線ソーラーレイ。極太のレーザービームがシリルに向かって伸びていく。いくら敏捷が高くても、突如現れた光の道は躱しようがなく、シリルは光の奔流に飲み込まれていった。


 光が収まり現れたのは手足を失い、頭と胴体だけになった魔人のなれの果てだった。それでも、根元から再生しようと頑張っている。


「レイ、合わせてほしい」


「お、あれをやるのか。任せてくれ」


 僕はレイと密かに実験していた魔法をこの場で試すことにした。レイとアイコンタクトをして、二人同時に頷く。


太陽光線ソーラーレイ!」

神の裁きインドラジャッジメント!」


「「複合魔法天の光ヘブンズライト!」」


 僕らが唱えたのは複合魔法天の光ヘブンズライト。光魔法SSクラスの太陽光線ソーラーレイと雷魔法SSクラスの神の裁きインドラジャッジメントを、同時に同じ場所に発生させることで合体し、全く別の性質を持つ魔法へと変化する魔法だ。

 以前、レイと冗談半分で試したら魔法同士が合体することがわかって、色々試したことがある。その時に発見したこの魔法は山をひとつ消し飛ばした。もちろん、ふたりして土魔法で必死に修復したけど。今回は頑張って対象を絞って使用したことで、半径10mほどに抑えることができた。


 城の天井から地下まで円形に消滅している。その中にいたシリルも跡形もなく消え去ってしまった。


「ミア、終わった『ライト! 生きてた! 生きてた!』よぉっと!?」


 僕がミアの方を振り返ると、ミアが抱きついてきた。


 僕がビスターナを訪れたのは相当前のことだ。それから今まで僕の復讐のために時間を使っていたのだとしたら……僕は思わず涙を流しミアをぎゅっと抱きしめていた。後ろからカオリさんの刺すような視線とレイの興味津々の視線を感じながら。


 それからカオリさん以外のみんなが気を遣ってくれて、カオリさんを無理矢理引っ張りながら席を外してくれた。

 僕は魔王城の王の間でミアとふたりで床にちょこんと座りながら、お互いのこれまでについて話した。やっぱりミアは相当苦労したようで、ジョブも暗殺者という上級ジョブについていた。

 それにお互いの話からビスターナですれ違っていたこともわかった。魔物の群れがビスターナを襲ったとき、ミアもビスターナにいたのだとか。僕の後ろ姿までは見ていたらしい。


 僕はミアの人生を狂わせてしまったことを謝った。ミアは僕のせいではないと言ってくれたけど、やっぱり申し訳なくて謝った。ミアは笑顔で許してくれたけどね。

 それから、この後どうするのかという話になった。僕は色々作りたい料理が溜まってきたので、一度、実家に戻ってお母さんの手伝いをしながら新作料理の研究をしようと思うと伝えた。ショウタ達に聞いた異世界料理も再現したいしね。


「それなら私も戻る! 目的も達成できたし、何よりライトと一緒にいたいから!」


 う、嬉しいことを言ってくれる。幼なじみだった女の子を改めて見つめると、苦労の跡はあったけどすごくきれいになっていてちょっとどぎまぎしてしまった。

 それから僕らはレイ達の元へと戻り、事情を話したらみんな僕達についてくるって言い出した。勇者達は異世界料理を食べたいからと、レイは久しぶりに僕のお母さんに会いたいからだそうだ。こいつだけ連れて行くの止めようかな……


 魔王国は今だ混乱中だけど、僕らはやるべきことをやったので帰ることにした。魔王がいなくなったとわかったら、この国はどうなるんだろう? とはいえ、もう僕には関係ないか。


 いったん空間転移で勇者達を神聖国家セイクレイドに送り届け、教皇に報告をしてからホロの村へ帰ることにした。

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