転生したら憑依型魔物だったので、いつか女神に取り憑きたい

英 悠樹

転生したら憑依型魔物だったので、いつか女神に取り憑きたい

 眩しい。

 光あふれる空間。

 ここは何処だろう。俺はさっきまで徹夜でネトゲをしていたはずだが。

 辺りを見回すと、前方にとてつもない美人。豪奢な金髪は腰まで流れ、まとう薄布を押し上げる豊かな膨らみから目が離せない。見惚れていると、女が口を開いた。


「迷える魂よ。転生の間にようこそ」


 言ってることが、すぐには理解できない。え、転生? てことは俺死んだの?


「あの、俺死んだってことですかね?」

「そうですよ」

「では、あなたは女神さまってことでしょうか?」

「その通りです!」


 うーん、そうかあ。しかし転生の間ね。だとすると、これが噂の異世界転生ってやつか。


「さっき、転生って言ってましたよね?」

「ええ、でも、あなたには選択する権利があります。魂を浄化され、元の世界で新たに生まれ変わるか、記憶を持ったまま異世界に生まれ変わるか。さあ、あなたの望みを言ってください」


 望み、望みねえ。いきなりそんなこと言われてもなあ。そう思いながら改めて目の前の女神さまを見つめる。うん、やっぱり、こんな美人見たこと無いぞ。さすが女神さまだな。よし、決めた! 女神さまの手を握り、サファイアのような彼女の瞳を見つめる。


「結婚してください!」

「…………いやあああああああ! 変態!」


 バチーンと引っ叩かれた。望みを言えと言われたから言っただけなのに、理不尽。一方、女神さまはちょっと慌ててる。


「す、すみません。何かとてつもなく邪悪な気を感じてしまい、条件反射で手が出てしまいました」


 俺のプロポーズは悪魔の囁きか何かか?

 仕方ない。望みと言っても転生するオプションについての望みだけか。


「あの、異世界に転生って何か特典とかあったりするんですか?」

「特典ですか?」

「ええ、チート能力もらって俺TUEEEしたり、イケメン勇者になってハーレムパーティー築いたり、超絶美少女に生まれ変わってちやほやされたり……」


 気づいたら、女神さまの目がゴミを見るような目になってる。


「たまにいるんですよね。自分では何の努力もしないで神様にもらったチートでイキリ散らしたいって馬鹿な奴が。あなたもそういう手合いでしたか」


 ええ……そこまで言う? だって現代人がそのままで異世界なんか放り込まれたら生きていけないだろ? 中世レベルの文明だったりしたら、ノミやシラミ塗れで、腐りかけた肉食って、ペストやチフスにかかって、速攻体壊して死んでしまうじゃ無いか。


 グチグチ文句を言ってたら、女神さまはため息をついて手元に何やら本みたいなものを取り出すと調べ始めた。そうやってしばらく調べていた女神さまだったが、目当てのものが見つかったのか、本を閉じる。


「いいでしょう、イケメン勇者にでも、超絶美少女にでも、好きなものになれるようにしてあげます」

「やったあ、さすが女神さま! それでチート能力はどうですか?」

「ええ、あなたには不死のスキルを授けてさしあげます。何があっても絶対に死なない能力ですよ」

「え、そんなすごい能力、いいんですか?」

「もちろん! 二度と私の前に姿を現さないで欲しいですから」


 いや、今なんかサラッと酷いことを言われたような気がするんだけど……。


「それでは行ってらっしゃい」


 え、ちょっと待って、ちょっと待って。俺、イケメン勇者になるか、超絶美少女になるか、まだ決めてないんだけど。でも、俺のそんな抗議は声にならないまま───


「お、落ちる!」


 どんどん身体が底の無い空間に飲み込まれていく感じ。そうして───







「諸君、良く集まってくれた」


 目の前には、妖艶な美女。誰、この人? さっきまでの女神さまとは別人だけど。だいたい頭に角があるし、背中にはコウモリみたいな羽が生えてるぞ。えーと、魔族ってやつでしょうか? いや、座ってるの、玉座みたいだし、ひょっとして魔王様?


 えっ? いきなり魔王の前? 焦って周りを見回すと───

 周り中、魔物の群れ、群れ、群れ。


 え、魔王の前で魔物に取り囲まれて大ピンチの勇者ってこと?と思ったが、改めて見ると、誰も俺を見ていない。その視線は魔王様らしい女性だけに注がれている。


 おかしい。どうなってるんだろうと自分の姿を改めて確認すると────


「何だこりゃ?」


 身体が黒い霧みたいなので出来てる。え? 俺、魔物? 魔物に転生してしまった? あ、あの女神、騙したのか? イケメン勇者でも超絶美少女でも無いじゃん!


 しかし、そこで急に頭の中に記憶が流れ込んでくる。この魔物の記憶が。


 ───俺、他人に憑依して身体を乗っ取る魔物だった。つまり、イケメン勇者に憑依すれば、イケメン勇者に、超絶美少女に憑依すれば、超絶美少女に。「イケメン勇者にでも、超絶美少女にでも、好きなものになれる」って、そう言うことかよ!


 うーむ、どうしたものか。憑依しようにも周り中魔物ばかりだからな。とりあえず状況を把握するためにも魔王様の話を聞くか。しかし、魔王様色っぽいな。───じゅるり。いつか、魔王様に取り憑いて好き勝手してやる。いかん、いかん、欲望丸出しでどうする。話を聞かないと。


 ───どうも話を聞くに、最近、異世界から勇者が召喚されて、魔族討伐を始めているらしい。いずれこの魔王城にも攻め寄せてくるかもしれないと言うことで、守りを固めるために配下の魔物たちが集められたようだ。俺じゃ無くて別人を勇者として送り込んだのかよ、あの女神。


 なら、やって来た勇者に憑依してやる。そうすれば勇者のハーレムを丸ごと乗っ取れるぞ。聖女様とか、女聖騎士とか、女魔法使いとか、美女がいっぱいいるに違いない。もしかしたらお姫様とも結婚できるかもな。よし、俄然やる気が出てきたぞ。






 そう言う訳で、魔王城の一画の警護に就いたのだが、イケメン勇者なんか来もしない。それどころか、女冒険者みたいなのすら来ない。来るのはむくつけき大男ばかり。あんな汗臭そうな男たちになんか憑依する気にならねえよ。


 戦闘は周りに任せて見物である。だが、その態度を隊長に注意された。隊長はサキュバス。腰に生えた小さな黒い翼とハートの付いた尻尾の可愛い女の子である。でも、見た目に反してえらいマジメ。


「もう、ダメじゃない! いっつもサボって」

「だって、俺レベル1だし、俺が戦っても戦力になりませんよ」

「でも、それじゃ、いつまでたってもレベルアップできないわよ」

「いいんです。俺はまだ本気出してないだけだから」

「わずか二言目で言ってることが矛盾してる……」


 隊長は呆れて行ってしまった。いいんだ、俺が本気出すのは、勇者か美女が来た時だけなんだから。


 そして、ついにその日がやって来た。俺達の前に姿を現したのは、まごうこと無き勇者パーティー。イケメン勇者の周りを美女だらけのパーティーメンバーが囲んでいる。───全く、リア充爆発しろ。

 まあいい、ここで会ったが百年目、お前の身体は俺がいただく。行くぞ!






 ゼーハー、ゼーハー。

 ───やっぱり最初から勇者パーティーは厳しかったか。死なないスキルのお陰で助かったが、ボコボコにされて体中痛いぞ。サキュバス隊長が心配して覗き込んでる。


「大丈夫? レベル1なのに、一人で飛び出すから」


 ───改めて見ると隊長可愛いな。勇者はハードル高いし、女冒険者も来ないし、隊長でいいか。


「隊長ー♡」

 がばっ!

「ちょ、ちょっと何するのよ!」

 スリスリ。柔らけー。さわさわ。

「や、やめて! 変なとこ触らないで!」

 よし、行くぞ! いただきまーす。

「止めろって言ってんだろーっ!!」

 バチーンッ!!


 張り倒された。え、あれ?


「ふざけんなよ! レベル1のおめえが、レベル30のあたしに敵う訳無いだろ! お前の所業は魔王様に報告するからな! このセクハラ野郎!」


 ───サキュバスにセクハラ野郎呼ばわりされるっていったい?






 俺は魔王城をクビになった。性欲に負けて味方に襲い掛かるような奴はいらないということである。覚えてろよ、魔王に隊長。いつか取り憑いてやる。でも、あの蔑むような目はちょっとご褒美だったかも。


 しかし、レベル、レベルね。この世界じゃ、レベルを上げて行かないとどうにもならないのか。仕方ない。心を入れ替えて、地道にレベルアップを目指そう。幸いなことに死なないスキルがあるんだ。時間はかかっても、確実にレベルアップできるだろう。


 さて、そうは言っても、俺はレベル1だ。まずは弱い奴から狙わないとな。古来、雑魚モンスターと言えばスライム。よし、まずはスライムを狙おう。それでスライムになったら、女冒険者をつかまえて、服だけ溶かすなんてやってもいいかな。グフフフ。


 それから探すこと半日。だんだん飽きてきたところで見つけた、スライム。なんか毒々しい色を放っているけどスライムに違いあるまい。


 気づかれないように後ろに回って───って、スライムの後ろってどっちだろう? まあ、ナメクジが這って来たみたいに進行方向の反対側にヌラヌラした跡があるから、そっちが後ろだろう。なんか、ヌラヌラと言うより、草花が焼け焦げたようになってるけど気にしない。一気に行くぞ、がばっ!


 ジュウウウウウっ!

「あ、熱っち、あちちっ!!」


 誰だ、スライムが最弱モンスターだなんて言った奴! 強力な酸の体液でこっちが溶けそうなんだけど。これじゃ女の子襲っても、服だけどころか骨まで溶けちまうだろ!


 仕方ない。スライムは諦めよう。───となると、次の最弱はゴブリンか。確かゴブリンは子供くらいの大きさで単体ならそれほど強くないはず。


 そこにちょうど良くゴブリンがやって来た。しかも一匹で。カモがネギしょってきたなんてもんじゃない。今度こそ行くぞ、がばっ!


 やった、ゴブリンの身体を乗っ取ったぞ! これで群れに戻って、村を襲って経験値をためるんだ。転生してから碌なことが無かったが、ようやくこれからだ!





 3日後、やってきた変な兜をかぶった冒険者に巣穴ごと全滅させられた。「ゴブリンか?」と聞かれたので、正直に「違います」と答えたのに、「嘘を言うな」と撲殺された。いや、俺本体は死なないんだけど、取り憑いてるゴブリンの身体は不死身じゃ無かった。しかもその冒険者、一通り殺しまわると、火を放ちやがった。


 下手にゴブリンの身体から離れると襲われかねないから取り憑いたままでいたんだけど、そうすると、死に至る苦痛はそのまま感じるんだよな。お陰で撲殺される苦しみと焼き殺される苦しみを二重に味わったぞ。


 ちくしょう、何がチートだ! これじゃ「死なない」じゃ無くて「死ねない」だよ! 


 そう思ったら、脳裏に女神の高笑いが響いて来た。おのれ、クソ女神! いつか力を付けて、お前に取り憑いてヒィヒィ言わせてやるからなアアア!!


 その日俺は女神への復讐を誓ったのだった。


              お終い

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