第37話 女難の相
どうやら、サバイバル演習とはフォーマンセル……つまり、四人一組のチームで『修練の森』と呼ばれる魔物が生息する所で、一泊二日のサバイバル能力を身に付けるための訓練だそうだ。
なぜ、彼らのような貴族が身に付ける必要は無いだろうサバイバル能力を高めるのかと、俺は疑問に思ったのだが……彼らのほとんどは次期当主候補ではなく聖魔騎士を目指す者の方が多いからだそうだ。
そのため、聖魔騎士として遠くの領地へ遠征するにあたって、こういった能力を身に付けるべきだと、学園側がカリキュラムとして取り入れた。
俺もその考え方には賛成で、入団した際にサバイバルができないなど、全く持って論外として課言いようがない。
どうせなら、こういったことを事前に学んで経験させた方が、より即戦力として活躍してくれる。そっちの方が王国を存続する上でとても有益だろう。
そんなことを考えながら、俺は休日の中、サバイバル演習で俺にとっては必須の回復薬を購入しようと、冒険者ギルドへと向かっている最中だ。
「テントは学園側から支給される。しかし、回復薬は支給されず任意だが……やらかしそうな奴が二人もいる……俺の目が届かない場合があるかもしれない……最悪の事態を想定しなければ……」
やらかしそうな奴とは……エリスとレイだ。エリスもレイも実力が期待できない……。マリカも一緒のチームなのだが、口は悪いが同年代と比較してもかなりの実力者だ。だから、二人とは違って問題は無いと見てる。
しかし、二人はマリカのようでないため、こうして自主的に購入しに来た……というのも勿論あるが、エリスから『専属騎士』として報酬、金貨100枚を受け取ったため、初の買い物に挑戦するいい機会。
そしてついでに、冒険者登録もできる。一石二鳥だ。
話は変わって、俺が何故、王都イストニアの冒険者ギルドを目指して旅をしていたのかというと、それはシルヴァが深く関わっている。
冒険者ギルドは、敵国との戦争に任意で駆り出されることがある。無論、タダというわけではない。
敵国の騎士を何人殺したか、また騎士たちを束ねる団長クラスを殺したか、そういったことで報酬額を決め報酬を貰えるシステムとなっている。
だが、この王国では10年間、それで報酬をもらった者はいない。
なぜなら、シルヴァの≪喪失魔法≫によって、戦争に駆り出される必要が無くなったからだ。
シルヴァが聖魔騎士となる以前から、冒険者として活動していた者たちは、当然の如く不満の声を上げたが、それと同時に死地に向かわなくて良いのだと、安堵した者もいたそうだ。
結果、王国と冒険者ギルドは揉め事も起きず、今日に至るということだ。
「……ここが、冒険者ギルドか」
冒険者ギルドに辿り着き、そう呟いてから俺は扉を開け中へと入った。
◆
「よし。無事に冒険者登録できたし、回復薬も買えた」
俺は冒険者カードと10本の回復薬のビンが入った袋を、ローブの内側に入れてそう呟いた。
冒険者登録をする際に、紙を渡され個人情報を記入するのだが、氏名や扱える武器、そして魔法を記入するだけの簡単なものだった。
「思ったよりも……楽だな」
基本的に他国の者であっても冒険者登録はできるが、出身国を記入しなければならない場合、俺は出身国が不明であるため、アスタリオンと書こうと思ったが……嘘を吐くことに抵抗と罪悪感がある。
なので、どうしようかと悩んでいたのだが、なるようになれ、と流れに身を任せてみれば、実際に出身国の記入欄が無く、嘘を吐くような状況にならず、心底ほっとしている。
さて、部屋に戻るとしようか。本の続きが早く読みたい。
早速、アスタリオン城に向かおうと、歩き始めた。
次の瞬間。
「―――シーちゃーん!」
背後から俺の名前?を呼ぶ、女の声が聞こえた。
誰だ、一体……。しかも、『シーちゃん』だなんて……何て馴れ馴れしい呼び方を……成敗してやる。
そう思いながら振り返ると、白銀の鎧を身に纏った緑髪の女が、笑顔で手を振ってこちらに小走りしてくる。
その様を男たちが、鼻の下を伸ばした緩み切った表情で、温かい……いや、ヌメヌメとした感じで見守っていた。
あの女は……あの時いた騎士……。
「シー……ちゃんっ!」
緑髪の女は、俺に向かって飛び込んでくる。
そして俺は、それを半身ずらして躱す。
何か前にもなかったか? こんなこと。
そんな既視感を覚えていると、緑髪の女がピクピクと引きつった笑みで俺を見る。
「ど、どうして避けるのかしら……?」
「単純に危ないからだ。それよりお前、『玉座の間』とシルヴァとの決闘を見ていた中の一人だよな。一体、何の用だ」
「お前、じゃなくて―――
この女は騎士団長なのか……にしては弱そうに見える。ということは、あそこにいた者たちは皆、同じく騎士団長ということだろうか……。
「モテるかどうかはどうでもいいが、ソフィアというのか……。ではソフィア、一体俺に何の用だ。手短に頼む」
「い、いきなり下の名前呼び? 中々やるわね……」
そう呟くソフィアに、俺は首を傾げた。
「何が中々やるのだ?」
「な、何でも無いわ。シーちゃんに一つ、お願い事があるの……いいかしら?」
上目遣いで両手を合わせてお願いのポーズを取るだけでなく、舌を少しだけ出してお願いする様は……とても嫌な予感がした。
しかし、一応聞くだけ聞いておこう。
後二、三ヶ月でほどで俺はこの国を出て行くのだ。無意味に悪い印象を抱かれたまま旅に出るのは、良くないだろうし無視することもまた同じく宜しくない。
だが、話を聞く前に止めて欲しいことがある。
「……その『シーちゃん』と呼ぶの止めてくれないか? 話を聞く気が失せる……」
「あらら、ごめんなさい。でも……この呼び方、結構気に入ってるの……。許して……ねっ?」
よりあざとさ満載で言うソフィアに、これ以上は平行線になるだけだ、と判断した俺は諦めて内容を訊くことにした。
「……好きにしろ。それで、ソフィアのお願いとは何だ?」
「うふふ……それはね―――」
突然、ソフィアは俺の手を掴んで走り出す。
「私の訓練に付き合ってほしいの!」
ソフィアは顔だけこちらに向けてそう言った。
訓練か……一体、どんな訓練をするのだろうか。
そう疑問に思いながら、俺は空いている手の平を見る。
最近の俺は、振り回せられてばっかりだな……これはもう。
女難の相として、言いようがない―――。
極星の絶刀使い~罪悪感から『女性を助けてはいけない』という姉の言いつけを破り、次々と王女や女勇者パーティーなどの女どもを助けたら、ストーカー被害に遭いました〜 大豆あずき。 @4771098_1342
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