第4章 「虚」と「実」
「Gさん、ごめんな。」
友であるGさんを生贄に捧げることを決めたカタル。
「少年よ・・・」
老体の細い腕を強引に引っ張り、マンホールまで戻ってきた。
だが、なんということか、蓋を開けても光の柱は出てこない。
焦ったカタルは頭を突っ込んでみると、微かに緑の光が残っているのが見えた。
「こいつを堕とせばいいんだよな。」
無我夢中であったカタルは、Gさんの曲がった腰を蹴飛ばし、老体を深さ10メートルの穴に突き落とした。
Gさんの体の一部が緑の光に触れた瞬間だった。
さっきと同じく、音もなく光が溢れてきて、光の柱を形作った。
そしてカタルを再び導いた。
再会。
「わたしの声が聞こえますか?」
リーフの声、リーフの顔、リーフの手のぬくもり。
「リーフ、約束通り帰ってきたよ。キミの代わりに「虚」の世界に堕ちてもらう人間も用意した。」
「カタル、おかえりなさい。」
「あれ、Gさんは?俺が連れてきた人間は?」
「カタル、あなたがあの老体を連れてくることはわかっていました。」
「えっ?」
リーフの様子がさっきと違うことに気づくカタル。
「リーフ?」
リーフは少し微笑んで話を続ける。
でも、さっき顔を赤らめていたのとは違う、なんだか不敵な微笑み方だ。
「そうそう、あなたの親友のケンヂさん、亡くなられたそうですよ。」
「なんだって?馬鹿なことを。そんなわけ・・・」
「言ったでしょう。わたしは事実しか話しませんから。」
「待ってくれ、なぜリーフにそんなことがわかる?」
そして、信じられない言葉が続く。
「知っていて当然です。わたしが殺したんですから。」
もはや言葉だけではない。
リーフの表情は狂気に満ちていた。
「あなたとケンヂは5年前、いえ、あなたの世界では25年前なのでしょうか。わたしの父、母、妹を焼き尽くしました。」
「俺とケンヂが・・・まさか、あの段ボールの火事が・・・」
「あなたたちの世界の人間は生き急いでいます。こちらの世界よりも5倍ほど時間が経つのが早いみたいですね。あなたにも何度も忠告したでしょう。」
「少年よ、そんなに急いでどこへ行く?」
カタルはGさんの口癖を思い出した。
「まさか、キミは、Gさんと一心同体?」
「あの老体は「実」の世界でのわたしの現身。おかげさまで一つになれます。そしてあなたに復讐を遂げられる。」
次の瞬間、リーフの右手が鋭い刃となり、カタルの胸を貫いた。
「ぐふっ」
「心臓をえぐりますね。」
返り血がリーフの色白の顔を真っ赤に染めた。
「文句はありませんよね。あなたも人を殺そうとしてたのでしょう。」
初めて生きたいと思った。
「実」の世界に連れて帰ったら、「あ・い・し・て・る」を言おうと思った。
でも、それももう・・・。
「ふふ。死んじゃいますか。では最期に聞いてください。名前は自分の内面を映し出す鏡。そう言いましたよね。」
リーフ Gさん
G リーフ
Gリーフ
グリーフ
「わたしの名前はグリーフ(Grief=深い悲しみ)です。カタルは勘違いをされていたようですが。」
「あなたに家族を奪われた悲しみがわたし。そして「実」の世界であなたを殺すことを夢見ていたのです。」
リーフとの恋愛は偽りだった。
いや、カタルとリーフのやりとりは全て「虚」でしかなかった。
しかし、薄れゆく意識の中で、カタルはリーフの言葉を思い出した。
この言葉には偽りも勘違いもないだろう。
あなたは「虚」に溺れ、わたしは「実」に憧れた。
(完)
あなたは「虚」に溺れ、わたしは「実」に憧れた。 @takukoto57410
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