堕ちた妖精と盟友の星降る旅

萎びた家猫

プロローグ ブラインド号船員消失事件

 船に揺られボーとしている少年は、歪曲わいきょくするガラス瓶の底から、満天の星空を覗き込んでいた。そこに映し出される光景はまるで、流星が夜空を駆けるかの様であった。


「今日も綺麗だなぁ」


 波の音だけが聞きえる静かな船上で少年も、ただただ静かにガラス瓶の望遠鏡を覗き込んでいた。


 そんな変わり映えのしない光景を飽きもせず眺めていると、少年は不思議な一点の光を見出す。


 それは他の流れ星と同様に、弧を描きながら地上へ降ってくる。唯一違う所を上げるとするならば......


「え? こっちに向かって来ている?」


 少年は慌てて立ち上がると、不安定な甲板状を器用に走る。そして船内で休んでいる他の船員に聞こえるよう、腹の底から大きな声で警告を発する。


 だがその声が船員届くよりも先に、大きな音とまるで大きな岩にぶつかったかの様な衝撃が船に響く。


 少年は咄嗟に耳を塞ぎその場にしゃがみ込む、すると異変を察知した船員たちが急いで甲板へと上がってきた。


「おいおい、なんだこりゃあ」


 誰かの呆然とした呟きが甲板に木霊こだまする。


 しゃがみ込んでいた少年は恐る恐る顔を上げ、流れ星が落ちた所へ目を向ける。


 するとそこには......誰もが見惚れてしまうような、この世の者とは思えない魔性の美貌びぼうを持つ少女が横たわっていた。


 突然の衝撃と、その爆心地に横たわる少女の美しさに皆言葉を失っていた。それは少年も同様であった。



 しばらくして、同じくその光景を眺めていた船長が一番に冷静さを取り戻すと、まずはその少女を船内に連れて行く様にと指示を出した。


 その指示によって他の者たちも次第に冷静になり、お互いの顔を合うとある一人の船員が少女を抱き抱え船内へと戻っていった。それに続くように、他の船員達も船内へ入ってゆく。


 そしてあらかたの船員が船内へ戻ったのを確認した船長は、未だ呆然としている様子の少年の肩を叩く。


「船外に問題がないか残りの奴らと見ておけ。中の重要な期間はワシらがやっておく」


 そう言うと船長は船内の入り口を潜り抜け、扉を勢いよく閉め姿を消した。そして甲板上に残った数名の見習い達が、溜め息を吐きながら肌寒い確認作業を開始した。


「あの子、すごくだったなぁ......」


 少年の呟きは美しい夜空の星々へと、溶けて消えていった。


 それから数日後、少年と脱出用のボートを除く、ブラインド号の船員全てが完全に消失する怪奇事件が発生した。


 後にこのブラインド号船員消失事件は、世界初の妖精が関与が疑われる事件として後世まで語り継がれ事となる。

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